対面
街の人間に話を聞きながら、ダンボースとやらの商店に向う。変な事に巻き込まれたせいで、時間が遅くなっちまった。結構、腹も空いてきてるんで、とっとと野暮用は済ませちまうか。
ヘコヘコと頭を下げながら俺たちの前を歩く破落戸を見ると、精神操作ってやつの恐ろしさが良く分かる。
術1つで、ここまで態度が変わっちまうんだ。人と人との関係の間に積み重ねてきた時間って物をまるっと無意味にしちまうんだからな。
『【嘆息】術すら使わずに、意識を変えられる技術を持ってるマスターの方が、恐ろしいと思うのですが』
何が?
『【焦燥】いえ、別に』
まぁ、良い。街の人達に話を聞く限り、この男達は、確かにダンボースの所の破落戸であるらしい。まぁ、実際にどうなのかって事を置いておいたとしても、周囲の認識的にもそうだって事が確認は取れた訳だ。
これで安心して突っ込んで行ける。
「トール、様、楽しそう」
「とーる、悪い顔してる」
「ふぇぇ」
******
「お、おい!! 何だその小僧達は!!」
はい、やって来た訳なんですがね。ここが何処かって言われれば、件のダンボースとやらの本拠地な訳なんですわ。
件の破落戸共に案内されながら、三階建てのかなりでっかい建物の前に。雑多とした品物が広げられた露店が、建物の前に店を広げている。建物の中にも様々な商品が用意してあるっぽいな。
本通りの目立つ場所にこれだけ大きな箱を用意できるってだけで、どんだけ資本が有るんかってのが良く分かるやね。
「大切なお客さんだよ!! さっさと代表を呼んでくれ!!」
『へへへ、こっちですお坊ちゃま!!』って、俺達の方にはだらしなく笑みを寄こしながらも、店の人間には厳しい態度で接するところを見ると、典型的な“弱者には強い三下”っぽさがね。
それでも、渋々と言った感じで店に入って行く店員。そんな店員の人間が戻って来るのも待たずに、破落戸がずんずんと奥へと俺達を案内して行く。
途中、他の店員が訝し気な感じでこっちを見てるが、案内をしてるのが、この破落戸だって事で、首を傾げながらも何も言わない。
この店の関係者だって事は嘘でも誇張でも無いって事か。
いや、店の関係者だと完全に認識されているにも係わらずあの無法っぷりか。その方が問題な気がするな。
「おい、裏の入口を使えと何度も言ってんだろうが」
店頭に居た店員に連れて来られたのは、ずいぶんと体格の良い屈強な男。眉間に深い皴を刻みながらも、半目で破落戸と、ついでに俺達を見下ろす。
ちょっとばっかし、こっちを値踏みする様な感じだが、俺達と破落戸との関係が良く分からないって様子で眉間に力が入る。
「おう、ケインか、代表はいるか?」
そんな視線から俺達を庇う様に割って入って睨み見上げ、破落戸がそう言った。
破落戸の言葉にケインと呼ばれた男が溜息を吐くと『来い』とばかりに顎をしゃくる。
同僚ではあるらしいが、二人の間にはあんまり良い感情は無さそうやね。
******
ケインって奴が『失礼します』って言って入って行ったのは執務室らしき部屋。その中では半裸に近い女性達を侍らせた、でっぷりとした男が重厚なソファーにふんぞり返っっていた。
キャバクラかよ。
濃いアルコールと煙草とやけに甘ったるい香水の匂いに、一緒に入った犬達が嫌そうに首を振った。
イブとティネッツエちゃんも顔を顰めている。
「あ? 何だ? 金の回収はどうした?」
多分、破落戸の方に向かって言った言葉だろう。酒焼けをしたガラガラの声でそう言って来た。
「あ、いや、それなんですが……」
「アンタに話が有るんから、俺が案内させたんだよ」
「あ?」
そこで初めて気が付いたかの様に、恐らくダンボースと思しき男の視線が俺を捉えた。




