話を聞いても許されぬ
ラミアーに頼んで破落戸共を自白させてみたんだけどね。どうやら、この街で金を貸してくれる様な所には、大体ダンボースが噛んでるらしい。
そうなると、個人的に出してくれる相手でも無けりゃ、何処で金を借りたとしても結果としては同じ事になったってぇこったな。
そう言う意味ではオッサンにはある種の同情はあるが、逆に言えばダンボースとやらが、何某かの意図をもってオッサンを“ハメた”ってぇ訳じゃないって事が分かる。
「じゃぁ、普通に金さえ返してもらえりゃ良いって事だよな?」
「はいぃ~。そうでやんすよ、お坊ちゃま!」
……何でこんなキショイキャラ変したんだコイツ? てか、ラミアーの【魅了の魔眼】、目合わせてる間だけじゃなかったんか?
「とーるが特別なだけだよ?」
佐為ですか。普通は暫くは“こう”成るらしいわ。即座に魅了をキャンセルできるってのは特別らしい。たださ、プラーナで回復させるのもそうなんだが、他人に魔法とかの能力を行使するのは難しいんだよな。そう考えると、即時に魅了の影響を与えられるラミアーも。巨人族の集落に居たバストも、能力的にはかなり高いって事だよな。
まぁ、それは兎も角、この件は借金するって事になったってのが問題なだけで、誰かがこの親子をハメようとか思ったってぇ事じゃない様だわ。
「って、事だ。良かったな、オッサン」
「何が……良いってんだ。オレは働けないってのに」
……だから、働けないから、このままの状況を許すってのか? それとも、お優しい誰かが救ってくれるのを待つってか? そんな物、動かない理由に成るんか? むしろ、娘が連れ去られる事より、自分が働くって事の方が心理的に嫌なのか?
本気で働こうと思えば、やれる事なんて幾らでも有るだろうに。何故、冒険者稼業だけに拘るか。いや、その冒険者稼業の中でだって、依頼なんざどんな物だって有るだろうに。どうしてこう、出来ないって思い込む。
「なら、好きにすりゃぁ良い。次も俺達みたいなもの好きが通りがかると良いな」
「うぐっ!」
悔しがるくらいなら『働けない』なんて思い込み、捨てっちまえ!!
「取り敢えず、俺達は帰るぜ。ああ、一応、この破落戸共はこっちで持ってくから」
「ちょ!!」
縋る様な目をこちらに向けるが、俺は、自らを助けようと動かない奴なんざ、助ける様な慈愛の精神の持ち合わせなんざない。
少なくとも、俺が手を差し伸べた相手は、自分自身で助かろうと足搔いて居たし、動こうとしていた。その意志が有るからこそ、こっちも手を貸そうと思えたし、実際、少々の手助けだけで、立ち直って行った。バラキにしろイブにしろエリスにしろ、な。
だからこそ、俺は自分から助かろうと動かない人間に手は差し伸べない。
もしかしたら、奥さんを助けようと無理をしてた頃に出会っていたら、狩りの手伝いくらいはしたかもしれないが、今のこのオッサンには手を貸したとしても、味を占めるって未来しか思い浮かばんのよな。
だけどまぁ、暴力で債務者を痛めつけて、その家族を無理矢理引っ張って行こうとする様な、どへたな借金取りをする様な輩に、正しい取り立て方をレクチャーしに行くくらいならしても良いよな?




