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その結果

「男爵家が1人、息子に家督を譲る事になった」

「ふうん」


 心底どうでもいいな。どうせ、トカゲの尻尾切りだ。

 グラスから、今回の騒動の顛末を聞いた俺の感想はそれだった。


 あの後、グラス達が犯人を連れて行った訳だが、何かあの長剣の男の顔を見てビックリしてたな。

 賞金首だったらしいが。うん、良い金になった。


 グラスに言われて、あの場所にいた連中には口止めをしておいた、下手な事を知っているのは、最小限にした方が良いといわれたからだが、やはりグラスも今回で全て終わったとは思ってないらしいな。


 そもそも用意周到に噂話まで利用した違法奴隷事件が、男爵家1家の関与で済む訳など無い。

 ただ、俺は根絶なんぞを目指していた訳じゃない。時間が稼げ、赤銅のゴブリンライダーの噂が無くなるなら、それ以上は求めんさね。


「これで俺も、少しは自由に動ける様になるか?」


 少なくとも身体能力向上状態でもその辺をうろつき回れる程度には成りたい所だ。

 そんな事を呟いた俺に、グラスが何とも言えない視線をよこす。


「オマエはテメェの特殊性ってもんをちったあ省みろ」

「……駄目か、残念だ」

「……最低でも2、3年は大人しくしててくれ。まぁ、良い。それよりも、だ」


 続くグラスの言葉に、俺は眉をしかめた。

 仮面の冒険者トールは継続してほしいらしい。

 気持ちは分かる、アレはグラスの肝いりで登録されたってぇ事になってるしな。今さら辞めましたってのも格好がつかないだろう。

 ただな、俺にした所で、素のままの姿だと不自然さが際立つから、あんな茶番に付き合ったに過ぎない。それが解消されるのならば不要な設定だ。

 少なくとも、普通の赤ん坊でも立ち歩きならできる時間は経っている。手を引いてもらえれば、うろつく位なら問題ないと思うんだが。


「オマエの気持ちは分からんでもない。だがな、こっちとしても、事件解決の功労者を出さにゃいかんのだ」

「……どう言う事だ?」

「オマエが倒した(ブィロウズ)な、アレはアレで結構な有名人だったんだよ。【剛剣ブィロウズ】って言やあ、下手なB級冒険者より腕が立つってな。なんで、その辺の冒険者が捕まえたってぇ事じゃ、納得してくれねぇんだ」

「……」


 アレで名うての悪党だったって事か? 賞金首だ、そう言う事もあるのか。

 だが、わざわざ俺本人が出なくとも……


「おっと、代役なんて立てられねぇぞ? オマエだってこれ以上秘密を知ってるヤツは増やしたかねぇだろう?」

「チッ」


 確かに、身代わりをさせるってんなら、全く事情を話さないって事はありえないか。いや、その辺も考慮してくれそうな相手なら、何人か心当たりが……


「オマエの考えてる事は分かるが、止めといた方が良い」

「なぜだ?」

「強者にゃ、強者の佇まいってモンがある。第一……」

「?」

「捕まったあの男(ブィロウズ)にゃ、犬の歯形がきっちり付いてるしな、この界隈で犬使いなんざオマエしか居らん」

「あー」


 確かにそりゃ、代役なんぞ立てられんな。ある意味、自業自得だったわ。


「冒険者トールの正体についちゃ、コボルトだって噂もあるからな。その辺を曖昧なままにしておきゃ、多少の不自然さも何となく納得されるだろう? それならオマエだって多少はやり易かろうさ」

「……は?」


 ゴブリンの次はコボルトかよ、なんで魔物限定?

 ってか、どうしてコボルトなんて話に(そう)なった!

 ん? あれ?


「なぁ、魔物って冒険者に成れるのか?」

「何だ、藪から棒に、いや、流石にそりゃ無理だ」


 …………えっと、つまりコボルトってのは魔物じゃ無いって事か?


 グラスに詳しい話を聞くと、どうやらコボルトは亜人種らしい事が分かった。

 青みがかった肌が特徴的で、動物を使役するのが上手いらしい。特に犬系。

 成る程、だからコボルトか。


 基本的に街中には住まず、岩肌に住居を築いて暮らしていると言う。

 前世で言う所のアリゾナの洞窟の家とか、トルコのカッパドキアみたいな感じだろうか?


 そうか、コボルトは亜人種か。

 どうやら魔物から、亜種とは言え人種(ひとしゅ)にまではランクアップ出来たみたいだな。


「……オマエの前世では、そう言った奴等は見なかったのか?」


 グラスの言葉に片眉をあげる。

 転生者だと明言した事は無かったが、流石に分かるか。


「まるで、転生者に会った事があるかの様な言い草だな?」

「まぁな、そいつは魔族だったが……」


 魔族、魔族ね。物語によっちゃ、敵の代名詞みたいな感じだが、この様子だと、この世界じゃ違うのか?

 魔物やコボルトの事と言い、色々斜め上な事ばっかだからな、思い込みは禁物だな。


「邪神崇拝者共の教祖的な立場のヤツで、ロクな奴じゃなかった」

「まんまかよ!!」

「おいおい、当たり前だろう? 邪神を崇拝しない魔族なんぞ居る訳がねぇ」


 俺のツッコミにグラスがそう返す。

 むしろ邪神を崇拝する一族だから魔族なんだとか。

 身体的な特徴として、崇める邪神によって色々体の一部が変質しているそうだ。

 角や羽が生えてたり、尻尾があったり。


 因みに、“改教”した魔族やその子孫は魔人種と呼ぶらしい。


「魔人種は特に魔族を嫌悪してるからな、間違えられると喧嘩になる」

「いや、どうやって見分けろと?」


 改教したかどうかなんざ、見た目じゃわからんだろうが。


「雰囲気……か?」

「いきなりふわっとしたな、おい」


 俺が納得いかなさそうに顔をしかめていると、グラスが話題を変える為なのか話しを振って来た。


「そう言やオマエ、回復魔法が使えるのか?」

「あん?」

「事情聴取の時に、チラッと聞いたんだが……」

「回復魔法は使えないな」


 俺がそう言うと、何処か安心した様に、グラスが「そうだよな」と言いながら茶を口に含む。


「回復魔法じゃなくで、強制『自己回復(リジェネレイト)』だからな」


 グラスが吹き出した。(きったね)ぇな。


「どっちでも同じだ!! つまりは回復させる事ができるってこったろうが!!」

「いや、違うだろう? 回復魔法の方は見た事が無いから分からんが、俺の方のは、対象に少なくとも自身を回復させられる程度の魔力が必須だからな」

「だから、そんな細けぇこたぁ良いんだよ!! つまりはオマエ、他人も回復させられるっつう認識で良いんだよな!?」

「まぁ、そうと言えなくもない」


 そんな玉虫色の回答に、グラスが大きく溜息を吐く。


「あのな? 回復魔法ってのは、教会の秘技なんだよ。当然、その仔細は秘密にされてるし、行使そのものも一般人にはみとめられていねぇ」

「うん? つまり、聖職者以外は回復魔法は使っちゃいけないって事か?」


 その通りだとグラスが頷く。成程、俺が他人を回復できるなんて知られたら、厄介事が起こる以外の要素がみつからねぇな。


「……あの時いたヤツ等には改めて他言無用にして貰わなけりゃなぁ」

「まぁ、オマエの事について、口止めはしてあるから、話が広がるこたぁ無ぇとは思うがな」


 この事を予想していた訳じゃ無かろうが、あの時口止めをしていたのはやっぱり正解だったらしい。流石はギルドマスター。さすギルだ。


「なら大丈夫か、グラスが無意味に脅かすんで、肝が冷えたわ」

「オマエがそんなタマかよ。ってか、オマエはもうちょっと慎重に行動してくれ」

「善処はする」


 俺は視線を逸らしながらそう言った。 

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