ヘーゲンバッハ子爵を改造人間にする
「疲労させて、思考能力が落ちてからが本番なんよ」
『本気でドン引き出来ますよ? それ』
根性入れ替えるってのは、結局その本人の意思を変えるって事だしね。とことんまで考える力が落ちた後に残った、根源の思考に訴えかける様でなければ意思なんざ変わらんさ。
そもそも人間に性善やら性悪なんてものは無くて、そこにあるのは生物としての本能と、周囲から学習した社会性って物しかないんだからな。
環境によって、変わっちまうって代物に善悪なんて関係ないだろう。なら、それは、根源となる思考がどう傾いてるかって事でしかないさね。
不思議なもんで、ひたすらに疲れ切った後に人間が考え始めるのは何でが哲学じみた人生論なんよな。ただ、ここに自分の事を考える余地ってのがあると、そこに憤懣が溜まるんよね。
だからこそ、そんな余地すらなくしてやるのがこっちの役目ってこったな。
ロボ監督が新造した追い立て用のゴーレムにせっつかれながら走る子爵らを見下ろしながら、そんな事を考える。
「良く、人はそうそう変わらないみたいな話を聞くけどさ、それって結局、『変わらなくても何とか成る』って余地があるからなんよね。もっとも、その余地がないって状況に陥った場合は、大概、命の危険が危ないって状況で、そっから生還する方が稀って場合だしな」
『だからって、その命の危機を覚える程の環境を用意してやるって考え方が正しく“ザ・鬼畜”って感じだと思うのですが?』
失礼な! 俺はその環境を用意してやるってぇ事に、愉悦を覚えた事なぞ一回もないぞ?
『【嘆息】マスターは、無自覚に厳しいだけですから』
『【肯定】何気に自分にも厳しいのデス』
『質実剛健ですねぇ』
「トール、様、凄い、よ?」
「あ、あの、きびしいですけどやさしいですよ?」
「情け容赦なし~」
好き勝手言いやがる。べ、別に優しくなんてないんだからね! って、それじゃ厳しい一辺倒じゃん!!
いやまぁ、他人に対して冷徹な面があるって自覚はあるんだけんどもさ。でも、俺にとっちゃ、大事なのは身内で有り家族な訳だし、それ以外に対してまで何処までも寛容には成れんのよ。
命の重さは同じなんだろうが、だからこそ手の届く範囲は守りたいから線を引く訳だろう? 俺は別に博愛精神の持ち主って訳でも慈愛に満ち満ちてるってぇ訳でも無いからな。
全くこっちの意見と合わない相手が居たなら、双方が納得するまでやり合うか、適度に距離を取るか。で、なければストレスしか溜まらんからな。
あの子爵の根性治すにゃ、最低3ヶ月程度の時間が必要じゃないかなぁと言う希望的観測。その間、行方不明にしとく訳にもいかんので、取り敢えず帰宅はさせる。だが、新造ドローンを監視役として付属させた上でなぁ? まぁ『見てますよ』って、こったぁね。
何で3ヶ月かと言えばその位でダイエットの効果が出るから。運動せい運動を。
別に『健全なる精神は健全なる身体に宿る』とかって言いたい訳じゃない。実際、運動やってる様な奴でも“性格悪杉”って奴は何ぼでも居るし、確かあれって、健全なる精神こそが健全なる肉体に宿って欲しいって望みを口にしただけの物だったんじゃなかったっけか。
ただね、不健全な環境に居たら、人間やっぱ不健全な心情に成るものなんよ。前世で結構な感じに心身壊した俺が言うんだから間違いない。
で、子爵なんだからその辺の環境って奴は従者なりなんなりが整えるんだとは思うんだが、その従者がヒキガエルを作ってる訳だろ? 言いなりなんだか何なんだかでさ。そのまま帰しちまえば、多分、堂々巡りで元の木阿弥に成っちまうだろうからの監視役で有り、運動な訳だ。見た目が変わるってのは、分かり易い“変化”の指針で、特に良い方向に変わってるなってのが分かる様に成ってれば、周囲の人間の、その人間に対する接し方も変わって来るもんなんよ。
まぁ、変わって欲しくないって輩は、むしろムキに成って、以前と同様に接しようとするんだがね。
だがまぁ、それはそれで、子爵の周辺の立ち位置が分かり易いんよ。ハッキリ言えば、そう言う輩は、『味方のフリした敵』ってパターンが多いからな。
そう言う輩が出てきたら、まぁ、今回徹底的にやるって決めたから、徹底的にやらせて貰おうと、思ってる訳なんだわ。




