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静かに激しく怒る

 俺は魔力を注ぎ込む事を止めた。

 脱力したままイブの顔を覗き込む。


「あ、あんた!!」


 マァナが叫ぶ。『きゃん!』と言う鳴き声が聞こえていたから、多分、バラキ達が吹き飛ばされたんだろう。

 だけど、すぐに「グルル」って唸り声も聞こえてきたし、バラキ達(あいつら)は大丈夫。バラキ達なら大丈夫。

 ゴブリンやオーク、オーガとの決死の死闘。どれだけ俺と共に修羅場を潜って来たか。それだけの信頼関係がある。

 だが、イブは膨大な魔力を秘めているとは言え、ただの町の子供で、しかも幼い少女だ。スラムに居た頃は良く分からんが、それでも出会った時の状況から察すれば、暴力に慣れていると言う事は無いだろう。

 俺は良い。慣れているからな、暴力は、受けるのも振るうのも……


「この! ガキがあああぁぁぁぁ!!!!」


 (くう)を裂きながら俺に迫る剣の音が聴こえる。

 だが、ミカ達の波状攻撃に比べれば、大振りの一撃なんて欠伸が出るほど遅いし、肌が泡立つようなオーガの一撃の様な圧力も感じない。

 

 バラキとラファにやられたんだろう。体のあちこちに傷を負っている。

 それで怒り心頭ってか?

 犬に勝てないから、その飼い主に八つ当たりってか?


 ああ、理不尽だ。何故こんな奴の為に、こんな事に成らなきゃならん。

 理不尽だ、本当に。

 …………


「喚くな!! 三下ああぁぁぁ!!」


 俺は剣激に合わせて長剣の側面に回し蹴りを放つと、その勢いのまま、剣を踏みつける様に飛び、男の顔に蹴りを打ち込む。

 仰け反る男。

 俺は空中で体勢を直すと、無防備になった顔に左右のラッシュを叩き込んだ。腰の入っていない軽い拳でも、素早く引く事でダメージは伝えられる。

 見る見るうちにパンパンに張れ上がって行く男の顔。

 俺が地面に降りるのに合わせる様に長剣を振るうが、目元が腫れている為に距離感が掴めないのだろう。その一撃はむなしく空を切った。

 それに合わせて飛び込む様にボディを入れると、その服を掴んで自分の身体を引き付け、レバーブロウを叩き込む。

 悶絶し、思わず脇腹を押さえ様とする男の隙を見逃さず、今度は逆脇に膝蹴りを打ち込んだ。


 ボキリ……肋骨が折れた音が響く。


 ふらつく男の顔が腫れあがった赤色から赤紫と言うべき色に変わって行く。呼吸が苦しいんだろう。ヒューヒューと荒い息を上げる男。たぶん、チアノーゼにもなっているのかもしれない。


 だが、まだだ、この程度の痛みで許されて良いはずがない。子供達を攫い、イブを傷つけた。躊躇いなく暴力を振るうのは、その行為に慣れているからだ。だとすれば、どれ程こんな事を繰り返して来たのか……

 崩れ落ちそうになる男をアッパーでカチ上げ、背後に回ると後頭部を蹴り上げてから回転し、鎖骨に踵蹴りを入れる。


 「グガッ!!」と、くぐもった唸り声を上げる男。なんだ、まだ声を上げられるくらい元気なんじゃねぇか!!

 その証拠に残った左手で剣を持ち上げようとした所で、その手の甲をガントレットごと拳で撃ち抜く。

 メキョリ、と言う骨の折れた音と共にその手から剣が離れるのを確認した俺は、前膝を蹴り折り無理矢理立たせると、身体が真っ直ぐに成る様に調節しながら殴り起こす。


 男の意識を飛ばさない様に気を付けながら直立させると、魔力外装を流動させて拳に集め、ギュルギュルと音が鳴るほどに回転させて密度を上げた。


 人の頭部と言う物は、背骨のクッションによってダメージを軽減させる。それは、背骨がS字に曲がっていて、そのバネでダメージを吸収するからだ。

 なら、その背骨を真っ直ぐにしてから頭部を攻撃したらどうなるか?

 答えは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。


「死ねや……」


 俺は、虚ろな目で自分の顔を見る男を見ながら、魔力外装を纏った拳を……


「!!」


 頭をかすらせる様に逸らし、代わりに振り抜いた勢いで延髄蹴りに切り替え、意識を刈り取った。


 かすっただけにも関わらず、男の額が抉れて血が噴き出す。これ、マトモにぶち当ててたら、比喩じゃなく爆散してたな。

 口を割らせにゃ成らんのに、冷静さを欠いてた。まあ、傷の所為で生え際が広がるのは自業自得と思って貰おう。

 拳を振り降ろす瞬間、視界の端で、イブの口が『ダメ』と呟いた気がした。そんな筈はないのにも関わらず。


 俺は男に簡単な止血だけすると、イブの方に駆け寄った。

 手を握り顔を覗き込む。

 うっすらと開く瞳と、か細いながらも連続する呼吸音。


(良かった。本当に!!)


 安堵のあまり頬を涙が伝う。

 イブを抱きしめていたマァナも、止めどなく涙を溢している。

 バラキが俺に寄り添い、ラファがどうして良いか分からずウロウロしている。


 本当に危ない所だった。これ以上時間が掛かって居たら間に合わなかっただろう。

 一命はとりとめたものの、イブは絶対安静だ。あまりにも血を流しすぎたからな。

 本当は輸血をしたい所だが、さすがに血液型が分からん。これから調べるって訳にも行かんし、それならミカやグラス達を待っていた方が良いだろう。

 こんなファンタジーな世界ならポーション的な何かとか僧侶の奇跡みたいな回復方法もあるだろうしな。


 っと、忘れる所だった。

 俺はヤツ等のアジトに急ぎ戻ると、荒縄を取って来る。

 折角捕まえたのに逃がしちゃ敵わんしな。

 とりあえず奴等のアジトに突っ込んでおいて、ミカがグラス達を連れて来るのを待つ。丁度、牢屋も有る事だしな。

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