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アンリーズナボーは突然に

 無事にイブ達を送り出し俺はホッと息を吐く。

 合流したラファも付けたんだ。多分大丈夫だろう。

 甘いかもしれないが、あの子達には、あまりこう言った事に関わって欲しくない。

 一緒について来ていたバラキを傍らに、気絶しているオッサン達を見る。正直、忠誠心とか無さそうな連中なんで、ちょっとOHANASHIすればすぐにゲロってくれそうではあるが、面倒な部分はグラスに任せるとしよう。

 と、バラキが緊張した様に尻尾を立てると、出入り口方向に向かって低く唸り始める。


「来たか?」


 そう呟いてみたが、何やら様子がおかしい。外……?


「!!」


 俺は即座に身体能(フィジカル)力向上(エンハンスメント)をすると、ドアをけ破る様にして外に飛び出した。


「ギャウン!!」


 外に出た途端に、吹っ飛ばされてるラファが目に入る。いくらか傷を負ってはいるが、全部軽傷だ。


 だが、何てタイミングの悪い! ここで鉢合わせするなんて!


 ギリリと奥歯が鳴る。僅かな鉄錆の匂い。状況を確認する為に即座に周囲を窺う。

 泣き叫ぶ子供達、長剣を持った男。その男以外には立っている大人は居ない。

 腰を抜かしているらしい身なりの良い男は、貴族か商人の使いって所か? まぁ、放っておけば良いな。

 つまりは長剣の男、アイツがお頭って事か?


 !!


「バラキ!!」


 俺の言葉にバラキが剣を持った男に飛び掛る。

 俺の方は、鉄錆の匂いの大元、泣き叫ぶマァナに抱きかかえられたイブに駆け寄った。


「ごめんよ、この子、アタシをかばって!!」


 歯の根が噛み合わず、奥歯がガチガチと鳴る。視界が赤く染まり、極端に狭くなってゆく。


 何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは!!!!


 肩から袈裟懸けに切られた剣の傷。背中に大きく開いたソレからは、鮮血が留まる事無く流れ落ちていた。

 この光景を回避したかったんじゃないのか? その為に帰らせたんじゃないのか?


「あ、あんた」

「!!」


 呆けている場合じゃ無い。大きな傷の場合、なるべく綺麗な布で傷口そのものを押さえなけりゃならないんだったか?

 俺は纏っていたローブをマァナに渡し、傷口を押さえる様に指示する。


「イブ!! 返事をしろ! イブ!!」


 返事は無い。切られたショックで気を失ったか、それとも……


「ちっ」


 自分の頬を叩くと、首筋から脈を計る。……辛うじてだがまだある。


 なら、次は……


 傷口を何とか塞がないと失血死の可能性が高くなるか。本来なら針と糸で塞ぐのだろうが、そんな物を都合よく持っている訳はない。ポーションだってそうだ。一応の軟膏はあるが、この傷の深さじゃ役に立たない!!

 どうする? どうしたら? 一分一秒を争う場面だ。決断するしかない!!


 俺は、呼吸を整えると、イブの傷に手を当てる。今まで一度たりとも成功した事は無い技だ。極限の状態での覚醒なんてもんを信じる程奇跡に恵まれて来た事なんて……少なくとも前世では無かった。

 だからと言って諦められるか!! この世界で出来た娘にも等しい女の子だ!!

 出来る出来ないじゃない! やるんだ!!!!


 絶対に助ける!!


 俺は、イブに手を当てた状態で魔力外装を発動させると、イブの魔力パターンに同調させる様にコントロールを始めた。


 最初からおかしいとは思っていた。俺自身の生命力の高さに、異様な程の耐久力に。


 身体能力向上が在り、赤ん坊ゆえの柔軟性があるとは言え、俺自身のタフさは、流石に人間離れをし過ぎている。

 実際、今までの狩りの中で、俺が傷を負った事だっていくらでもある。

 自分自身、『結構深い傷だと思ったんだけどな』と思った事も一度や二度ではない。

 だが、それでもその日帰って見た時には、さほど大きな傷があるなんて事はなかった。


 何故か?


 もしこれが、運良く傷を負わなかったなんて事では()()()()()

 その答えは1つしかないだろう。

 つまりは()()()()()と言う事だ。片っ端からな。


 俺の身体能力向上は、文字通り身体のあらゆる能力を向上させる。

 それは、免疫力や自己治癒力も例外じゃないって事だ。


 “ならば、それを他人にも施せないか?”


 魔力外装を習得した後、自身の異常な治癒能力に思い至った俺が、次に目指したのがそれだった。


 身体能力向上で自己治癒力を強化できるってんなら、魔力外装で行っている様に体外に、そして、他者に俺の魔力を浸透させる事ができるのであれば、その力で他人の自己治癒力を強化できるのは自明の理だ。


 だが、その『他者に魔力を浸透させる』って時点で俺は躓いていた。


 魔力ってのは個人差があり、それぞれ少しずつ魔力パターンが違う。そして、その差異が、魔力抵抗として他者の魔力を阻んでいる感じだった。あくまで、今まで試した感じではな。


 だから、他者に魔力を浸透させる為には、相手の魔力パターンに同調させる様に自身の魔力パターンを調整する必要がある。

 だが、それが難しかったんだ。


 しかし、今、そんな泣き言をいっている場合じゃ無い。イブの魔力を感じ取り、そのパターンに合わせて……くっ、イブの膨大な魔力は、大きな波形からその表面に浮き上がって来る小さな波形まであり、それに合わせるのは至難の業だ。

 普通の人なら、こんなに複雑で巨大な波形には成らないってのに!!


 くっ、こんな所でイブの膨大な魔力が仇になるなんて!!


 イブの生命力が急速に失われて行くのを感じる。

 くそ!! くそ!! くそ!!

 だからって諦めるかよ!! イブは助ける!! 絶対に……だ!!!!

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