ファンタジー作品では中ボスクラスが多いよね
『【確認】キマイラの様ですね』
キマイラ? あれが? 物にもよるが、確かキマイラって獅子、竜、山羊の頭と蝙蝠の羽、蛇頭の有る尻尾を持つモンスターだよな? 目の前のソレは、何か胸部分がもこもこした山羊の様にしか見えない。通常の山羊より尻尾が長いが、それ以外はあまり普通の山羊とは変わらない様に見えるんだが……いや、何だ? この違和感。
もっとも、全高は2m超えてる様に見える。そんなキマイラが周囲を取り囲んでいる。恐らく俺達は縄張りの中に突如現れた闖入者で、招かれざる客なんだろうな。敵意がビシビシと感じ取れる。もしこれが普通の山羊と同じであれば頭突きをかまして来る所なんだろうが……
まぁ、向こうの出方を待ってやる義理も無い。攻撃こそ最大の防御。俺は、群れの中で一際体の大きい、全高が3mは超している様な個体に向け飛び掛る。
「キョエエエエエエエェェェェェェェェ!!」
俺の動きは予想してたのか、焦った様子も無く、キマイラのおそらくリーダーであろうその個体が雄叫びを上げると、その胸の前に【ファイアボール】が出現した。
魔法!? コイツ、魔法が使えるのか!! いや、むしろ予想してしかるべきだった。魔法のある世界で人間だけが魔法と言う事象を使えるなんて、そんな不自然な事の方が有り得なかったわ!!
現にラミアーだって超能力を使える訳だし、ウリ達だってプラーナを使いこなしてる。魔法を使う為に呪文を口にするのは絶対の物じゃぁない。絶対に必要だって言うなら、そもそも【詠唱破棄】なんて成立しない訳だからな!!
周囲全てのキマイラ達が俺に【ファイアボール】を飛ばして来る。流石に統率の取れた兵士とは違い、そのタイミングは結構なランダムだ。
俺はクルリと身体を一回転させると、その全てをファティマで切り捨てる。
正確には、ファティマの刃に乗ったプラーナを爆発させ魔法と言う現象そのものを散らす訳だが……まぁ、その辺の小理屈はどうでも良いだろう。
魔法を斬られるなんて事は初めてだったのか、焦りの気配を感じる、が、しかし、不気味なほど顔が動かねぇな。元々山羊って表情読めんが。
そしてさらに一閃。キマイラの首を斬り……って、ええ!! 首を斬り落とされたキマイラが『メエエエエェェェェェェェェ!!』と言う嘶きを一つ。そして脱兎のごとく逃げ出した。
えーーーー……どういう事? 確かに手ごたえはあったんじゃが!?
周囲を取り囲んでいたキマイラ達も踵を返す。おお!! 惚けてる場合じゃなかった!! この世界に来て魔物をハントする様に成って6年経ったが、未だかつて首を落とされて平気だとかって奴は見た事が無かったし、魔物と言ってもやっぱり生物の延長上の生き物だと思ってたんで、反応が遅れた。
いや、考えてみたら植物系なんて基本妖怪だったし、俺の知らない生態なんていくらでもあるんだったわ!!
このトール! 戦いの中で戦いを忘れた! って程忘れてはいなかったがちょっと呆けた!!
だが、そこは頼りに成る犬達だ! 既に散らばったキマイラ達を追いかけてる。
「皆!! なるべく殺すな!!」
「オン!!」
「アンアン!!」
「アオ――――ン!!」
「バウ!!」
俺もすぐにキマイラリーダーを追いかける。首も無いのに、山肌をあの巨体でピョンピョンと跳ねる様に駆けて行きやがる!
おいおい! こりゃぁ、どう言うカラクリだ!? 俺ァワクワクして来たぞ!!
プラーナの流れを調節し、オファニムの両肩、背面、腰部に新設された噴射口に注ぎ込むと、増殖、圧縮されたソレが噴き出し、俺の身体を加速させる。
この機構によって、今までよりもプラーナを節約しながらも高速で移動できる様に成った。もちろん両肩部、胸部、腰部、脹脛にも噴射口は新造され、機動変更時に使用する。
だからこそ……
「キョエエエエエエエェェェェェェェェ!!」
「うおっと!!」
嘶きの後に、キマイラの長い尻尾の先端から発射された【ファイアボール】をこうして避ける事も出来るって訳だ。ただ、【ファイアボール】の大きさは、正面から撃って来ていた時よりはるかに小さい。その代わり、連射が可能らしく、次々に打ち出して来る。その度に『メエエエエ!!』『メエエエエ!!』と嘶きが五月蠅い。必死に逃げてる様子も相まって、まるで俺が虐めているみたいじゃないか!!
ってか、首が無い割に、躓きもせず、スピードも落とさずこの山道を走って行く。元気だなぁ、おい!!
いや、ちょっと待て、首も無いのに、どうやって嘶いた? アイツ。
まぁ、とっ捕まえてみれば分かるか!! さぁ!! 大人しく捕まれやキマイラアアァァァ!!




