アルプスの……
“扉”を抜けた先は石造りの何もない部屋で、そこから下に伸びる階段が見えた。どこぞの高原に繋がってた“扉”とはまた違うんな。
もちろん神像に投げられた“扉”ともだけど。あの時は祭壇だったか?
『【命令】ボク達が戻るまで待機するデス。侵入者が居たら、出来るだけ生かしたまま放りだすデス』
ジャンヌの声に後ろを振り返ると、何かブーメランパンツの耽美な感じの石像がこっち見てサムズアップしとるんじゃが!? 何アレ? 何なのアレ。
『【説明】ああ、『海の男神像』ですね。運気アップの効果があるとか』
『【追従】正確には、出現すると確率変動する可能性があるだけデス。でもあんまり当てに成らないって整備士のじっちゃんが言ってたデス』
いや、何の話よ。
『【理解】ただのガーディアンです、マスター。ガーディアンの造形はそこの責任者に一任されるので』
『【憶測】整備士のじっちゃんと同じ人種が責任者だった様デス。きっと開店前には並んでたくちデス』
本気で何の話をしてるのかね? おまいら。
『【苦笑】気にしたら負けでです。マスター』
さよけ。
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「うわぁ!!」
感嘆の声を上げたのはティネッツエちゃんだけど、俺も同感だったわ。
澄み切った空と真っ白な雲。冠雪の残る山々に緑の高原。何ちゅうか、写真とかで見たアルプスの風景みてぇ。その分寒いんだがね。空調の付いてるキャンピングカー内部とは違って、御者台は外だからなぁ。
キャンピングカーを歩行モードで階段を下りた先は、切り立った山の中腹に、正面から見たらトリックアートの如く配置され、視認だと良く分からない感じに作られた自然の洞窟に偽装された出入口。
いや、出入り口が偽装されてる時点で“自然の”ってフレーズは可笑しいんだがね。どう考えても手ぇ加えられてる訳だし。てか、この急斜面、歩行モードでも降りるのが難しそうなんだが……
「ラミアー、頼めるか?」
「いーよ、でも、ちょうだい?」
ラミアーのおねだりに、俺は首筋を晒す。カプリと甘噛みされ、そこからプラーナが吸い出される。要はこれって、チャクラの中心線を通るプラーナを、外部と最も近い首から摂取してるって事らしいんだわ。てか止めれ、舌先で首筋を嘗めるなラミアー。ゾワッとするから。
満足したのか、ニンマリとした顔で首筋から顔を放したラミアーが、手話の『アイラブユー』って様な手の形。中指と薬指を握り込むアレにした上にクロスさせるポーズを取ると、キャンピングカーがふわりと浮かび上がり、手近な高原に着地した。
てか、今までそんなポーズ取らなかったよね? 何かドヤ顔で俺の方見るんで、取り敢えず「ありがとう」と、礼を述べておく。
ファティマとジャンヌがコソコソ話をしてる所を見ると、アイツらの仕込みか。多分また、アーカイブ知識だな。
前世の80、90年代の超能力アニメで見た様な気がするし。
それは兎も角、ミカ、バラキ、ウリ、ガブリが早々にキャンピングカーから飛び出す。うん。既に囲まれてやがる。
そう言えば、あのダンジョンの“扉”は、特殊な環境に住んでる魔物を放牧もしくは観察する為の物だったか。
数百年前の物のハズなんだが、未だに環境が変わって無いって事なのか、それとも、その当時とは別の魔物なのか。
何にせよ、来た早々に対峙する事に成るとはなぁ。
『【確認】どうします? マスター』
「オファニム!! ファティマ!!」
『【了解】サー! イエス!! サー!!』
ケルブが展開し、オファニムの胸部が開く。魔力装甲を発動した俺は、オファニムを装着すると装甲を接続し、武器形態へと変形したファティマを手に取る。
「取り敢えず、改修後のオファニムの初陣だ!! 皆はキャンピングカーで待機!!」
「ん!」
「わかた」
「ワンワン!」
「アオン!!」
「オンオン!!」
「ワオン!!」
『【了解】おっけーデス。オーナー』
「わ、わかりました!」
やる気満々な皆には悪いが、まぁ、折角お出迎えをしてくれたんだから、ちょっと楽しませて貰おうかね。




