集まれば家族
本日第三話目です。
(どんな状況だよ)と俺は思う。
今、俺は母犬に組み伏せられ……そして猛烈に舐められまわされている。
唾でべとべとになっている俺は、さぞかし死んだ魚の様な目をしているだろう。
何なんだろうか、これ? 味見って訳じゃ無いよな?
彼女(?)から見た俺は、とんだ闖入者であり、オッパイ泥棒に過ぎない。
ただ、前世の記憶と照らし合わせてみれば、小型犬が主人に飛び乗った挙句、舐めまわしている構図にそっくりなのだ。
いわゆる“ご主人様スキスキ光線”と言うやつだ。
ならば、俺も応えてやらねばなるまい。犬派だったにも拘らず、アパートの事情で犬を飼えなかった独り者の代表として、ここで愛でずにいられようか!!
俺は、母犬に『顎の下わしゃわしゃから始まる愛犬可愛がり48手』の封印を解き放つ事に躊躇いは無かった。
……前世では犬、飼えなかったけどな!!
******
一頻り弄り倒された母犬は、満足したのか腹ばいになって伸びている。
仔犬達も、そんな母犬の下に潜り込んで寝息を立てていた。
もっとも、末っ子だけは上手く潜り込めなかった為に、俺が半分湯たんぽ代わりに抱きしめているのだが。
そうして一息ついた俺はと言えば、今更ながらに首を傾げていた。
『何で俺、こんなに動けているんだ?』と。
俺の今の現状は、言わずと知れた新生児(生後一日)である。これは、産まれた直後から意識があった俺の主観だが、間違いはないだろう。
確かに、人間の赤ん坊だとは言え、握力は自身の体を支えられ、水中に入れられれば泳ぐ事もする。実は、本能によって動いている赤ちゃんと言うのは、結構フィジカルが高いのだ。
だが、それにしても今の俺は異常と言って良い。
首も座らぬ新生児にも拘らず、これだけ、自分のイメージ通りに動けると言うのは、流石におかしいと言って良いだろう。
じっと手を見る。
赤い。赤ん坊だけに?
「…………うん、わからん」
取り立てて赤ん坊のフィジカル面について勉強したことも、ましてや研究したこともないんだから、分かろうはずもない。
そんな埒も明かない事を考えていると、不意にひどい眠気が襲ってきた。
「ふあぁ……寝るか」
俺は考えても答えなど出ない疑問に蓋をして、赤ん坊らしく睡眠欲に身を委ねたのだった。
******
こうして、母犬達との奇妙な共同生活が始まって暫く経った。
俺は前世持ちの知識を利用し、母犬に餌の有りそうな場所を指示し、代わりにオッパイを貰うと言うギブアンドテイクの関係を築いていた。
最も母犬自身は、俺の事を“ご主人様”と認識しているらしく、“スキスキ光線”が全く衰える事がない。
仔犬達も、この数日ですっかり足腰がしっかりしてきて、元気に遊び回っている。
最も、末っ子だけは相変わらずトロ臭く、俺が色々と面倒を見ているのだが。
俺が識別出来ていれば構わないとは思ったのだが、それでも犬達に名前をつけてみる。
母犬が『ミカ』それから上のオッパイを使っている順に『ガブリ』『ラファ』『ウリ』『セアルティ』『イグディ』そして末っ子が『バラキ』。
出会ったのが教会だったので、七曜の天使に因んでみた訳だ。数的にも丁度良かったしね。
「さて、今日もやるか!」
ミカのオッパイを飲み倒し、俺はスクリと立ち上がった。そう、立ち上がった。
ここ数日で、俺はすっかり二足歩行に進化していた。
うん、我ながらおかしな身体能力だとは思うが、生後一週間位で、俺は立ち歩きが出来るように成っていたのだ!
アイアム、ハイパーベイビー!!
だが、捨て子だ!!
それはともかく、今俺は住環境を整えている。教会の中を色々と見回って調てみると、それなりにいろいろと見付ける事が出来た。
そんな訳で、今の俺は残されていたシーツの切れ端をトーガの様に着ている。貫頭衣でも良かったんだが、トーガ方式の方が楽だしあったかい。
まぁ、貫頭衣を作るためには布を切らなくちゃいけないんだが、この小さな手にはちょうど良いサイズの刃物が無かったってのもある。
教会には、牧師さんが住んでいたであろう部屋が幾つかあった。
その内の日当たりの良い部屋を一つ選んで俺達の住居にした。具体的にはシーツやベッドで使っていたらしき藁を敷き、部屋の隙間をなるべく塞いだりしたくらいか。
苦労しただけあってそれなりに居心地の良い部屋になったと自負している。
そしてお次は、水の確保って訳だ。
俺自身はミカのオッパイがあれば生きられるんだが、そのミカは、食い物も飲み水も要る。
この街は結構大きな町らしく、飲食店みたいなところもそれなりに有る為、食い物自体は定期的にその辺を回って回収すれば、それなりの量が確保できた。
教会の中に、地下倉庫みたいな所も発見できたから、そこに保管しておけば、そんなに悪くもならないしな。
だが、水は違う。
一応、教会の中庭で井戸は発見したんだが……
母犬、仔犬×6、新生児。
うん、無理だね。使える奴が居ねぇ。
俺が使い方を知っているとは言え、ぶっちゃけ背が足りない。階段かなんかを用意すればその限りじゃないのかもしれないが、現状は無理だと言おう。
そうなると、雨水なんかを溜めてって事に成る。幸いって言って良いのか分からないが、今はやや、雨が降り易い季節らしいから、中庭に池でも掘っておけば、それなりに水を溜められる訳だ。
と言う訳で……
「ミカ! ガブリ! セアルティ! GO!」
バラキを抱きながら三匹が穴を掘るのを見届ける。ミカは俺の言う事に忠実だし、ガブリは土を掘るのが好きらしい。
セアルティは、良くミカの真似をしたがるんで、ついでに嗾けておいた。
そんな三匹をラファとウリが興味津々と言った感じで眺めている。
もう少ししたら飛び込んで行きそうだ。
イグディだけは、日向で横に成って居る。何と言うかマイペースな奴だな。
まぁ、俺も眺めてるだけなんだけどな!!
第一部完結まで毎日0時投稿予定です。