そして顛末へ
何かね、件の王子様は結構な保釈金で釈放されて行った訳だ。それとは対照的に従者として魔人族国に来ていた連中は全員が強制労働で残ったままに成ってるんだがね。
要はお国元から見捨てられた訳だな。
ゲルベゼーテって国はその性質から国王を中心とした独裁国家の体をしている。だからだろうな、『王子さえ無事に引き取れるなら、後はどうでも良い』って感じが伺い知れた。
従者の中には結構な高位貴族の子息や令嬢も含まれてた筈なんだがな。
成程、王子が捕らえられた時点で、国に相談も無しになりふり構わず奪還しようとしたのは、こっちを見下してた以外にも、王子が捕まったまま帰国なんざしたら、その責任を取らされ、ゲルベゼーテ自体に捕まるか、下手すりゃ処刑されるって事が分かってたからか。
『【嘆息】見事なまでの損切ですね』
だな、自分達一族以外、便利な駒程度にしか思ってないんだろう。文字通り、従わせているだけの者って訳だ。そうなると、もう一つ懸念事項が出てくるな。
まぁ、その辺の事も考慮しとくか。
******
「トール様! 賊を捕まえました!!」
『【苦笑】またですか、ゲルベゼーテは懲りると言う事を知らないらしいようです。マスター』
執務ストレスをミカとバラキをもふる事で解消していた俺に、騎士からの報告が入る。
……いや、何人目だよ。まぁ、予想はしてたんだよ、元従者達に刺客が送られてくるのは。
あの王子なら、迂闊にボロボロ喋ってそうだし、そうなるとそれを聞いてた従者達は結構な情報源足り得るからな。
切り捨てたとなれば、口封じは必須だろう。もっとも俺なら、そんな王子には重要な事なんざ知らせておかないし、取り敢えず王子の教育の方を先に行うがな。
って言うか、そいつ等もそうだし、口封じ先の従者達も、忍び込もうとして捕まってるんだが? 学習能力って物が無いのかね? いや、これも強兵国家の驕りなんだろうな。『たかが王国の辺境伯如き』っていうな。
国土が広がり過ぎた為に、一旦は他国への侵攻を止め、国内平定に舵を切っているとは言え、それまでは負けなしで国土を広げていた独裁国家だ。自国の兵の強さには自信が有るんだろうさ。
それこそ、ぽっと出の辺境伯なんぞに負ける事なんざ思いつかない程に。そもそも、秘密裏での暗殺を任務とする様な輩だ。弱いなんてはずも無いだろう。
けどな、戦闘狂の魔族より強いってこたぁねぇわな。実際、バフォメットになんざ逆さに成ったって太刀打ちできる強さじゃぁないし、多分、ガープよりも弱い。
そんな連中が、そのバフォメットに日々鍛えられてる家の兵に、勝てるはずも無かろうさ。あまり言いたかないが、ああ見えてバフォメット、指導者として中々優秀なんよな。認めたくないが。
多分アイツ、“オド”を感じ取れるって事で、何処が活性化してるかとか、何処が弱いかとか的確に感じられる上、機嫌が良いとか気落ちしてるとかの精神的状況も把握できるから、その辺を誘導する事にも長けてるんだろうな。認めたくは無いが。
因みに、国元に切り捨てられた従者達、本来ならこんな時には自刃する様に言われてたんだろうが、流石にそこまでの忠誠心の持ち合わせなんざ無かったのか、絶望こそしては居たが、自ら命を絶とうって輩はおらんかったわ。
やったとしてもプラーナ強制注入で強引に生かしたけどな。罪も償わせずに逝かせるかよ、と。
まぁ、そう言った事、込々で見越しての暗殺者なんだろうがね。
『【思案】流石にプラーナ強制注入までは見越してはいないのでは?』
良いんだよ、そう言う細けぇ事は!!




