ゲルベゼーテって国はなぁ
「だから!! 手違いだったのだ!! 早く殿下を開放しろ!!」
手違いて、ガッツリ越境しといて何言ってんだろね?
俺の目の前で気勢を上げてるのは、ガチロリコンの従者の男。うん。魔人族国に来ていたアリウスの家臣が、不当拘束だとかって、俺ん所に乗り込んで来てんのよ。
不注意だったからって、犯した罪は罪だし、その事実が消える事はない。それ以前に、俺がアリウスの事を許す気が無い。
だって、エリスと既成事実を作る気満々だったような男だぞ? 貴族的には手っ取り早いやり方なのかもしれんが、一方的で自分勝手極まる所業な訳じゃん? 許せる訳がないんよ。
ルールールーに調べて貰ったんだが、アリウスのってか、コイツ等の国、ゲルベゼーテって国は、周辺諸国を併呑し大きくなった侵略国家で、最近と言ってもここ50年っぱかしの話だが、大人しくなってはいるが、一時期はイケイケどんどんで、侵攻しまくってたらしい。
そもそも魔人族国とも隣接したのは、元々あった国を征服したからで、その辺りで国王に成った当時の王様が、国内の平定に力を注ぎ始めたから進行が止まったってだけの話なんだそうな。
で、俺の思っていた通り、友好の証として当時の魔人族国のお姫様が政略結婚で嫁いだりした訳だが、まぁ、その当時は魔人族国だけじゃなくて、ゲルベゼーテの周辺の国は、何処も同じ様な政策を取っていたらしいから、どんだけ軍事的に強い国だったんじゃろね?
「手違いとは? 殿下は確かに国境を無断で越え、あまつさえ自分の領館に侵入して来たんですが?」
「だから、それはスルフォブルーローズの姫が……」
姫って、エリス、女王なんだが? この時点でこの従者とやらがスルフォブルーローズって国を甘く見てるってのが良く分かる。
つまりはエリスの事をまだまだ子供で、周囲の大人の言いなりになっているだけってぇお飾りの女王だと思ってるってぇ事だ。
でなけりゃ、“姫”なんて呼び方する訳がない。
「エリステラレイネ“陛下”には、自分の裁量で、自由通行の権利を渡している。これは自分が陛下から爵位を貰っているという事も関係しているが、陛下とはそれだけの“信頼関係”を築いているからでもある。だが、そちらの王子とは、その様な関係では無いだろう? そもそも、ゲルベゼーテとの関係は、不可侵と言うだけで、積極的に交易関係にある訳ではないと思ったのだが?」
「それは……」
「兎に角、そちらの王子が国境を侵犯した事は事実であり、今回の拘束は正当な物である。後の事は国同士での話し合いの後、その処遇が決まってからだ。お引き取り願おう」
悔し気に顔を歪めるが、どうしようもないだろう。例えばここで実力行使とかって事を仕出かせば、それこそ戦争の引き金を引く事になりかねない。
「……後悔、するなよ」
そう言って、従者が引き上げて行った。あれ、全然諦めてねぇな。大人しく引いてくれれば良いんだが……
さて、どう出てくるかね?




