公爵家のご子息
イブの誕生日から後は、至って平穏な日々が続いてる。いや、今までがイベント多過ぎただけだと思うんじゃよ。
授爵からこっち、街作ったりオーパーツに焼かれて死にかかったり、難民受け入れに行ったり巨人族の里に行ったり、騎士団作ったり魔物暴走止めたりと、色々有り過ぎなんよね。
そんなこんなで穏やかな今日。俺は第二夫人の膝の上で執務を全うしている。
……いや、違うねんで? イブの膝抱っこに味を占めて、ヒザウエラ―に成ったとかそう言う訳じゃないねんで? 『ヒザウエラ―』って何やねんって言うツッコミ求む。
これね、むしろ逆なんよ。第二夫人、俺の事膝抱っこした上で、何か髪に顔埋めて『スンスン』してると落ち着くらしいんよ。
あれだ、香りって鎮静作用とか有るからそう言う感じだと思う。特に第二夫人、いっちゃん辛かった時期に俺が一緒に居た事で立ち直ってるから、ちょっと依存気味なんだと思う。
さてさて、第二夫人が鬱気味になってる理由なんだけど、公都のお屋敷のメイドと連絡を取り合ってるジョアンナからの報告の所為なんよ。
公都の近況やら何やらを聞き、必要なら公都のお友達なんかにお手紙攻撃をして暮らしてる訳なんよね、今の第二夫人。
社交界の時期でなければ、こうして様々な情報を集めつつ、それとなく世間話なんかをして相談事を解決してみたり、贈り物をしてみたりしながら人脈を広げ、社交界での影響力を強めて行くってのが、今の第二夫人の主なお仕事な訳だ。
本来なら、そうやって得た社交界での立場なんかはエスパーデル公の地位向上や足場固めの為に使われるんだが、今は俺の為に使ってくれている。有難い事だ。
で、だ、この所、公都周辺の貴族の間で、あまり好ましくない噂とか出回ってるらしいのよ。まぁ、何を隠そうエスパーデル公爵様のご子息に関しての、な。
一応言っておくが、俺の事じゃないぞ? 公爵家の御子息ってのは公式的には一人しかいないからな。誰かってぇと、ジャンバルディー・エスパーデル君5才、その人だ。
さて、例えば生まれた時から誰にも彼にも傅かれ、どんな我侭でも実現でき、叱られる事なくちやほやされながら生きて来た子供が居たとしよう。そんな子供が、品行方正で誰にでも優しく、正義感を胸にした立派なお子様に育つと思うか?
その答えがジャンバルディー君な訳だ。うん。一言で言えば傍若無人。しっかりと甘やかされたボンボンに育ちましたさ。反吐が出る程立派に、なぁ?
そんなご立派に育っちゃったジャンバルディー君。子供だけが集まる顔見せ会、これはつまり、将来の結婚相手、ひいては婚約者選びの場でもある訳なんだけど、その席で盛大にやらかしてくれたらしい。
その場にいた令嬢のヌイグルミを奪い取り、それに抗議した子息を5才にしては必要以上にむっちむちに育った立派な体格で蹂躙し、その上他の貴族子息を馬として扱った上に、怯えた令嬢を怒鳴り倒して泣かせた上で、更に『うるさい!』と一喝。その場は阿鼻叫喚の地獄と化したのだそうだ。
そうなれば当然、次に集まりたいと思う親なんざいない訳だが、しかしそこは公爵家、その影響力が故に、嫌でも集まりが開かれれば参加しないと言う選択など無く、繰り返される地獄絵図と言う。
実際、第二夫人の所にも『何とか成らないか?』ってぇお手紙が来てるらしい。
ただねぇ、公爵家内の一切の取り仕切りって第一夫人がやってる筈なんよ。それこそジャンバルディー君の教育も含めてな。
なんで、第二夫人にはその辺の事に関して何の権限も無い訳だ。
俺なんかは、例え兄弟だって言ってとしても、何ら関わりを持って無いって事も有って、赤の他人同然で『うわぁ、典型的貴族のボンボンだなぁ』って感想を持つくらいでしかないんだが、そこは流石にお腹を痛めて産んだ子って事なんだろうな。第二夫人的には色々と思う所がある様なんだわ。
で、こうして、心を落ち着ける為に『スンスン』とかしてる訳だから。
しっかし、第一夫人、何を考えて醜聞しか広まらんであろう顔見せ会を繰り返してるんじゃろかね?




