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今は喜ぼう

 我ながら学習能力って奴がないんじゃろか? 残心は武術の基本だったのになぁ。

 未だクラクラとする意識を頭を振る事でハッキリとさせる。

 全力を出し過ぎて、そのままぶっ倒れるのも何度目かね?


「勝ったぞぉ!! 魔物達に勝ったんだ!! 俺達はっ!!」

「うおお!! 生き延びれた!! 生き延びられたぞ!! あの魔物の群れ相手に!!」

「俺達、魔物の群れを追い返せたんだ!! 畜生!! やったぁ!!」

「おいおい!! 見ただろう!! この俺の華麗な槍捌きを!!」

「嘘つくな!! 腰抜かしてなんか犬に助けられてたじゃねぇか!!」

「バ、バッカ!! その後の反撃の話だっちゅうの!!」

「……その時飛んで来たハーピーをオレがこう……」

「ああ、オレ、生きてる、生きてるよ……」

「オレ、これからキャサリンに結婚を申し込んで来るんだ」

「見たか!! 魔物共!! これが人間の力だ!!」


 耳を澄ませるまでも無く、魔物の群れを撃退した喜びの声がそこかしこで聞こえる。成程、どうやら防壁内まで連れて来られた様だな。

 ここなら、危険も無いだろう。だから、そろそろ放してくれても良いんじゃないかな?


「トール、様っ、また、無茶、したっ……」

「とーる、死んじゃ、やだっ!!」


 俺にしがみ付くイブとラミアー。うん反省はするが二度としないと言えない所が辛い所だ。多分同じシュチエーションに成ったら、また同じことするし。俺。


「流石はワシのオヌシ様なのじゃ!! 兵士にも冒険者にも負傷した者こそ居れど、死者は出なかったのじゃ!!」


 護衛代わりに置いて来たガブリとラファを伴ってエリスが俺の所までくる。ついでに第一王子も。

 ワシのオヌシ様って何よ。その上、それ全部が俺のおかげって訳じゃ無いんじゃが?


「直に応援ができずに悪かったな。いやいや、私としてはオーサキ殿の活躍をこの目で見たかったのだが、周りの者が必死で止めるでな、いや、悔しいが諦めざるを得なかったのだ」


 うん、それで正解だから。アンタは自分の立場って物を魂に刻んでくれや。まぁ、馬鹿正直にそんな事なんざ言わんけど。


「殿下の玉体の安全が第一ですから」


 俺がそう言うと、第一王子が眉根を顰める。


「“英雄”にそう言われると、この先私は、あらゆる闘争に参加できなくなりそうだ」

「いえ、差し出がましい事を口にしました」


 いや何よ英雄て、自分一介の冒険者なんで、まるで正義感と義侠心で自ら先頭に立って戦ったみたいに言われても困るんじゃが? まぁ辺境伯でもあるけどさ。そもそも今回出張ったのだって国王様から頼まれたからでもあるし、依頼なかったら……まぁ、“狩り”には出てたかもしれんけど、多分こんな、ぶっ倒れるまで頑張る様な事なんざしなかったぞ。


『【否定】多分、マスターは、同じ様に行動したでしょう』

『【追従】オーナーが後ろに居る人の事を考えずに引く事なんて、考えられないデス!』


 お前等はお前等で、俺の事を何だと……

 第一、後ろに居る人の事を考えて無いから、二人にしがみ付かれる(こんな)事になってるんだと思うんじゃが?


『【嘆息】()()とは少しベクトルが違いますから』

『【苦笑】オーナーもそんな事は分かってるデス。でも、ソレを素直に認めると照れ臭いから、偽悪的に振舞ってるだけデス』


 ジャンヌ、後でSEKKYOUな。


『【悲鳴】何故デス!!』


 分かってて言ってるんなら質が悪いわ! この天然さんめ!!


 俺が倒れてからどれだけの時間が経ったのか、気が付けば空も白み始めている。

 朝日に照らされた防壁の外には屍山血河の魔物の死骸。いや、どんだけ激しい戦闘だったんだよって感じだし、これからこれを全部処理しなきゃいけないとか、考えるだけで頭が痛くなると思うんじゃが?


 むしろこれで頭を悩ませんといけんのは目の前の第一王子の方じゃねぇの? 何で俺がこんな事考えてるんだか。

 まぁ、その辺りの事も含めて軍務卿には頑張って貰うって事で。下手に冒険者なんかが出てくる前に手を打たんといけんのでないんかね?

 ファティマ。


『【了解】誓狼騎士団、団員を捕まえて、副団長から、そう進言する様に伝えておきます』


 悪いね。【念話】でファティマに頼むと、彼女はそっとこの場を離れた。こう言う事は早ければ早い方が良いし、もしかしたら軍務卿が第一王子の側に居ないんは、もう動き出してるからかもしれんがね。

 ああ見えて、結構抜け目のない爺さんっぽいし。


 そんな事を考えながら、防壁の内側に目をやる。

 こんな早朝だってのに、昨晩の騒動やら、今の騒ぎやらを聞きつけてなのか、結構な住民が集まって来ている。多分戒厳令とか出てたと思うんだがね。

 俺の両側で唸る様に泣きながらしがみ付くイブとラミアー。いつの間にか足元で身体を擦り付けているミカとバラキ。

 そんな俺達を優し気な目で見ているエリス。

 もう一度町の内外のギャップを確認し、思わず溜め息が漏れた。


 でもまぁ、それでもそれ程、深刻な事態に成らずに終わった様なんで、今はこれで良かったって思う事にしよう。

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