解き放て!!
『【報告】オーナー、上空の方の殲滅、終わったデス!!』
ジャンヌからの【念話】か。見れば、地上の方の魔物もほぼ壊走し、後は牡牛との決着が付けばこちらの勝利は確定するって所か。なら、多少の時間は掛かっても、牡牛を削り落とせば……
そう、思っっていた瞬間。
BUMOOOOOOOOOOO!!!!
再びの咆哮。それによって、兵士や冒険者が硬直し、一部上位魔物がソレに耐え、再び動き出す。
マジかよ! たった一鳴きで状況をひっくり返しやがった!!
硬直し、身動きの取れない兵士と冒険者。彼等に近寄って行く上位魔物達。クソ!! 助けに行かなきゃ、全滅しちまうかもしれねぇ!! だが、ここで俺が向こうに行けば、牡牛の回復を許しちまうか?
牡牛の目に嘲りの色が見える。『救うか』『見殺すか』好きにしろってか? 畜生が!!
硬直する兵士にオーガが棍棒を振り上げ……って、やらせるかよっ!!
と、俺がそちらに走ろうとした瞬間、オーガの首が斬り飛ばされる!!
「アオーーーーーーーーーンッ!!!!」
「アンアン!!」
「ワオン!!」
「ワンワン!! わん!!!」
『【警告】マスターの武勇伝にケチなど着けさせません!!』
「ウリッ!!!! ミカ! バラキ!! セアルティ!! ファティマも!!!」
魔力装甲を纏ったウリが、オーガを一撃のもとに斬り倒した! 見れば、ミカやバラキ、セアルティも、分身しながら残っている魔物を翻弄し、ファティマが、モップで叩き潰している。
いや、それだけじゃない。上空を殲滅したからか、イブとジャンヌの魔法が、残っている地上の魔物達を蹂躙し、ラミアーが【念動力】で吹き飛ばしている。
「マイロードの勝利の為にぃ!! ミカ殿達の【咆哮】に比べればこれしきの事!!」
「「「「「おう!!」」」」」
アルフレドと誓狼騎士団の面々も根性をって、え? ミカ【咆哮】とか使えんの!? ってか、普段どんな訓練してんのよ!?
いやはや、頼もしい味方達だよ。牡牛の方も、この展開は予想外だったのか、その瞳に悔しさと怒りが更に乗る。力の入らない前足をもがき動かし、何とか立とうと足搔いている。もう、迷ってる様な時間は無いな。
もはや限界ギリギリなのは聖弓も同じだ。だが、これで決めなきゃいけない……
ふと、魔法を放っているジャンヌが目に付く。
……あー。
「ジャンヌゥ!! 来おぉい!!!!」
『【不意】ひょえ!! わ、分かったデス!!』
聖槍形態に可変したジャンヌが、風魔法で俺の所に、文字通りすっ飛んで来る。俺は、それを受け止めると、聖弓につがえた。
『【動揺】な、何をなさるのですか!? 【個体名】トール様!!』
『【諦観】大体わかったよ、オーナーのいつもの無茶振りデス』
察しの良い奴は好きだぞジャンヌ。聖弓にプラーナを注ぎ込む事での威力増幅が無理だってのなら、大量に注ぎ込んで平気な奴に注ぎ込めばよいんだよなぁ。
「大丈夫だ聖弓。お前は“矢”を打ち込む事に集中すれば良い」
『【推察】あ! わ、分かりましたわ』
俺が何をしようとしてるかなんざ牡牛には分からんだろうに、それでも、『何か拙い』と察知したのか、牡牛の動きが早くなる。
俺の方も、濃く、そして加速させたプラーナをジャンヌと聖弓へと注ぎ込む。まだ、もっともっとだもっと濃密に、熱く、早く。
先程まで矢自体の威力にも割り振らせていエネルギーを、純粋に解き放つエネルギーへと絞り込ませる。
ジャンヌの方に割り振ったエネルギーで、回転させ、その攻撃力を増加させる。二人ともが漆黒へと染め上げられ、赤い光が、ヒビ割れの様なスリットから眩い程に漏れ出す。
ヌルリ、と俺の鼻や目から、何かが溢れる、が、まぁ、何時もの事だな。頭痛がしてくるが、俺も意思の力で抑え込み、プラーナを限界まで絞り尽くす。
「これで、決める」
『【了解】オッケーデス!! オーナー!!』
『【完了】いつでもどうぞですわ!!』
二人の言葉を聞き、俺は、もがいている牡牛に、その全力を解き放った。




