色んな意味で踊って回る
会場を見れば、結構な人数が居る様に見えるんだが、チラホラと耳に入る噂を聞いてると、やはりトラブルで間に合わなかった貴族なんかも、そこそこ居るらしいやね。
間に合わなかった人達にはご愁傷様としか言えんが、道中の危険度がどの程度の物に成っているかってぇ情報を収集できていなかったってのが原因でもあると思うし、ある意味自業自得な側面はあると思うんだわ。
まぁ、もしかして大怪我を負っているかもしれんし、死人に鞭打つような真似もしたかないんで、大きな声では言わんが。
それはそれとして、夜会自体はつつが無く進んでいる。俺としてはエスパーデル公爵ん所が代理人だったのが正直助かったって感じ。
何か政務で忙しいんだとかなんだとか。向こうは向こうで夜会っぽいのを開いてるらしいし。
もっとも、エスパーデル公爵、ここ数年はそんな感じらしいんで、国王様も気にしてはいない様なんだが、独自の勢力集めてるってヤバくないか? 色々と。
さて、公爵が居なくて助かったってぇ事の理由だが、身バレ云々とかって話ではなく、ぶっちゃけ、顔見たらどう言う行動に出るか、自分でも分からんかったってのが大きい。
いや、俺が捨てられた事に対しては、すでに心の折り合いはついてるのよ。多分。
ただね、現在進行形での第二夫人の扱いがね。
産後に体調を崩した後、公爵は第二夫人の所には通わなくなったらしいんだわ。仮にも跡取りを産んだ相手なのになぁ。
その事に関しては、第二夫人も気にしてはいなさそうなんだが、どうも公爵は、第二夫人の行動そのものに、まるで興味を持っていないって感じなのがどうもね。
第二夫人、復帰してから色々と社交界で頑張ってる訳じゃん? 理由の大半が俺の為っぽいんだけど、それに関しちゃ嬉しいし有り難いと思う。
ただ、公爵の反応的には『励め』とかって声を掛けるだけ位しかしてないらしいのよ。それも偶々会った時にって感じで、激励の為に食事を一緒にとったって訳でも無く。これ、ジョアンナからの情報な。
屋敷内の事は、基本第一夫人がやってるってのも有るんだろうが、今、俺の領に居る第二夫人に対して何のリアクションも無いって所もな。
そのせいも有るんだろうが、新年だし、俺も居ないってのにも関わらず、未だに俺ん屋敷に滞在してるかんな、第二夫人。
本人が俺の屋敷での生活を満喫してるっぽい事が救いではあるんだがね。
マザコンの誹りは甘んじて受けても構わんが、普通に好ましいと思ってる相手が、粗雑に扱われていれば良い気はしないと思うんよね。
まぁ、居ない相手をディスってるのもアレなんで取り敢えず忘れとこう。
さて、俺のパートナーが、貴賓だし公爵だしって事で、王家を抜かせば実質的に最上位者なんで、王族以外から話し掛けられるって事が無いのが地味に助かる。
まぁ、逆に王族からは話し掛けられてる訳なんだけんどもよ。
具体的には第一王子とか第一王子とか。それと第一王子とか。それを見てか第二王子はこっちを忌々しげに眺めては居るものの、近付いては来ない。
あれぇ、これ、実質的に第一王子派って見られんか? 俺。まぁ良いさね。そもそも軍務卿からも目の敵にされてるっポイから放置してても大丈夫じゃないかなぁ。どうせこれ以上関わるつもりもないんだし。
「ほうほう! それで、ニーズヘッグとやらはどうなったのだ!?」
「まぁ、ほぼ完全に消滅しましたよ。素材も残らなかったのは勿体無かったんだとは思いますが、こっちにもそれ程余裕は無かったんで……」
目をキラキラとさせて、俺の話に聞き入る第一王子。いや、聞かれてるから答えてるけんどもよ、基本、自分の武勇伝を吹聴するのってイヤなんよね。こっ恥ずかしいし。
エリスはね、そんな第一王子の婚約者令嬢とお話してるよ。あっちはあっちで、何か緊張感のある雰囲気。何じゃろね?
そんな感じで、ちょっとウンザリしながら第一王子にまとわり付かれてると、何か使用人の人が早足で国王様ん所と、あれ? 軍務卿ん所もか。
「何か、有ったのだろうか?」
第一王子様もそう思うか。俺もそう思う。
使用人さんに耳打ちをされた軍務卿が、渋々と言ったら感じでこちらに近付いて来る。おいおい、表情が露骨過ぎだろう。
「少々、お邪魔しても?」
「うむ、許す」
第一王子がそう返答をすると、軍務卿が、チラリとこちらを見た。うん? これは俺がいない方が良い話かな?
「お邪魔なようであれば自分はここで……」
「いや、オーサキ辺境伯には、むしろ聞いて頂きたい」
近くに来て、軍務卿の表情が嫌悪感と言うよりは、極度に緊張しているからだって事に改めて気が付いたわ。
ゴクリとつばを飲み込み、軍務卿が口を開く。
「王都近くに、魔物の大量発生が起こりました。そして、その魔物達は、この王都を目指していると言う情報が入りました。」
「なっ!!」
声を上げかけ、慌てて口元を押さえて咳払いをする第一王子。
俺が国王様の方を見ると、彼もまた俺を見て、重々しく頷いた。




