ぷるぷる ボク悪い領主じゃないよ!
『【愚考】マスターの殺気は少々素人には刺激が強いかと』
おおっと、温厚で有名なこの俺が、この程度の噂話を流されたくらいで殺気など出している訳など無いだろう? もしかしたら直前に家のメイド達に下種な事をしようとしやがった典型的な貴族ってヤツを見ていた所為で、そんな輩がこの場にチラホラと見えて居る所為で、ちょびっとだけイラッと来てたかも知れないが……
『【当惑】少しどころか、結構な……いえ、何でもありません! サー!!』
『【懐疑】むしろオーナーが、身内に手を出す輩相手に自重した所なんて見た事ないのデス』
「あ?」
『【狼狽】な、何でもないデス!!』
ジャンヌは後でSEKKYOUするとして、取り敢えずはこっちだ。俺の、ほんの僅か、ほ~んの僅かに漏れだしてしまった殺気に中てられたのか、少々、ほんの少々顔色の悪くなった領主や代理人夫妻に、満面の笑みを浮かべながら、俺は一歩、歩み寄る。
「いえ、なにね? 我々は、少々お互いの事で誤解がある様に思うのですよ。なので、ここは腹を割っての、話し合いが必要だと思いましてねぇ」
『【頭痛】マスター、その物言いですと、まんまこれから脅迫する悪役のセリフです』
馬鹿な!! 俺史上、これまでにない位に丁寧に話してるのにかっ!!
まぁ、待ちたまえ君達、俺だってもう良い年の大人だ。例え身分が下の相手にナニをしたって構わないなんて思ってる輩が居たとしても、OHAMASHI合いに、私情は挟まんさ。
『【疑問】マスターはまだ5才では?』
おっと、そうだったそうだった。うっかりしていたよ。HAHAHAHAHA!
と、戯言はここまでにしとくか。おかげでちょっと落ち着いた。ありがとうファティマ。
『【満悦】いえ』
「さて、何でアンタらがここに来させられたかってのは、アンタら自身が良く分かってる筈だ」
俺の言葉に、何人かの夫人が眉を顰めた。自覚があるからなのか、俺の言葉遣いに嫌悪感が有るのか。何にせよ、それは悪手だ。その反応は俺に悪感情があるって証左にしかならないからな。
男達の方は、むしろ『だから何だ』と言った様な表情だ。殺気を納めたとは言え、さっきまで蒼い顔をしてたってのに、良い面の皮だわ。
「実際、まどろっこしいのは嫌いなんでね単刀直入に言おう。別にロビー活動は構わん。ただ、ここで工作しているってのは、今日ここに労い祝う為に来た第一王子ってか、殿下を代理人として寄越した国王様に喧嘩吹っ掛けてるって思っても良いんだよな?」
「「「「「「な!!」」」」」」
何故驚く? 街道開通を祝福してる人間の足元で、その面目を潰す様な事しでかしてるのに、喧嘩は吹っ掛けて居ませんってのは無理があり過ぎるだろう。
いや、逆か、彼等にとってネガティブキャンペーンってか、印象操作は常態で、どんな場所でも行ってる事だから、直接自身の名誉に傷がつかない限りはどうでも良い事なんだろうな。むしろ、それで悪印象を持たれる方が政治力が弱いって位思ってそうだわ、この様子だと。
まぁ、俺だって今日の場を使って国王派だって印象付け様としてる訳だから似た様な物なんだろうけどさ。
ただ、これで一本釘を刺すことは出来たはずだ。ここで騒ぎを起こすってのは、詰まり国に反意があると見做すぞ、ってな。
本人にその積もりが有ろうと無かろうとだ。
何せ、たった今そう宣言したんだから、それに逆らうって事は、そう言う事だろう。とう考えても。
その事が分かったのか、顔を青くする者、忌々しげに睨んで来る者と反応は様々だな。
取り敢えず、ダメ押しだけしとくか。
「違う、と言うのであれば、今日の所は大人しくしておいて貰いたい。と言っても、溜飲は下がらないだろうから、この事も含め、相談があるなら、明日以降乗る準備がある。こちらとしても、今回の事は時間が足りず、準備不足だった事で混乱を招いたのだと痛感してるんでね」
まぁ、根回しと言うか、意見があるなら明日以降でお願いしますって事さね。これで、こっちも性急に事を進めたかった訳じゃなく、いきなり開通式をやって、裏を掻こうとしたわけじゃありませんよって事を示せたはず。
謝る事が出来ない貴族の言い回しって、面倒臭ぇわ。ホントに。
俺の言葉に、その裏を読み取れた領主の何人かが、ホッと胸を撫で降ろすのが見えた。それでも尚、敵意の混じった視線を投げかけて来るヤツも居るけど。何かしたんかね? 俺。極力貴族社会には係わらんでいた筈なんだが。まぁ、良いけどさ。




