レッツ、パーリーナイッ!!
転ばぬ先の杖と言うか瓢箪から駒と言うか、作った時は、実際にこういう目的で使う事があるとか思っても見なかったし、まさか自分が主催する事になるとは思わんかったんよ。夜会。
「お集りの皆様!! 今宵は第一王子様以下、皆様が我が領にいらっしゃって下さったことに対してのお礼を兼ね、ささやかながら宴を開かせていただきました。今宵はごゆるりとご堪能下さい」
俺の挨拶の後、集まっていた領主や代理人が挙って第一王子へと群がる。
流石王族、良い釣り餌やね。おかげでこっちに挨拶して来る人間が少なくて良いわ。
「主催者への挨拶もせずに王族に群がるって、随分と礼儀知らずよねぇ」
「自分は気にしませんよ? エスパーデル公爵夫人」
「私が気にします。こんなに可愛いトールちゃんを放っておけるなんて、どうかしてるわ!」
それ多分、俺が【隠形】使ってるからだわ。むしろこの状態で俺を見つけられる第二夫人が凄いと思うの。
って言ったら、耳元で『母の愛よ!』ってコソッと返された。何でも有りだな『母の愛』。
今、ダンスホールでは第一王子の為に歓迎会が行われてる訳だ。
第一王子が来るってんで、近隣の領主は本人か代理人が態々やって来ている。エスパーデル公爵領からの代理人は第二夫人。公式に家の領に来てる訳だしね。俺としても、下手に公爵本人やら代理人で家臣やらが来られるよりはよっぽどマシってか有り難い。
「ずっとお話してたいけど、私も挨拶回りがあるから、また後でね? トールちゃん」
「いえ、色々とご尽力下さり有難うございます。ですが人前で『トールちゃん』は止めてください、公爵夫人」
「大丈夫よ、気を付けてるから……では、また、オーサキ伯」
そう言って第二夫人が、近くに居た給仕からワインを受け取って去って行った。
レセプション自体は立食形式で、壁際に置かれたテーブルからお好きな物をお取りくださいって感じ。大体、一口大のオードブルとか飲み物とかが置かれている。
コレの監修も第二夫人がやってくれた。ってか、招待状を出す手順やら、呼ぶべき近隣の領主の選定なんかから、第二夫人にはお世話に成りっぱなしだわ。
流石はこの5年の間に、社交界に自分の勢力を作り上げただけの事はあるやね。今度、めいっぱい労ってあげよう。まぁ、膝上に抱かれて抱きつかれるだけなんだが。
オープニングで挨拶した後は、基本自由に出来るんで、早々に【隠形】で気配消したままオードブルをパクつく。トーストのカナッペやらカッテージチーズやらミートパイやらカットフルーツやら。
肉に野菜に魚にと、色々取り揃えた。
大森林付近は内陸も良い所なんで本来なら海の魚なんて塩漬けでも無けりゃ、早々食べられる物じゃ無いんだが、エクスシーア商会特製の冷蔵荷車と流通網で、あまり悪く成らない内に輸送できるんで、この辺じゃ食べられないって事は無い。輸送費分高くはなってるけど。
まぁ、それでも生ってこたぁないんだがね。港町に行った時はカルパッチョっぽいものとか有ったんで、生食が全くの禁忌ってこたぁないんだろうが、結構な時間輸送してる事を考えれば蒸す焼く煮るをしておくのは無難な選択なんだろうな。
「この魚、旨!!」
特に焼き加減が! 表面がパリッとしていて、噛むと旨味の詰まった汁が溢れる。
この辺の料理を作ってるのも教会の方から連れて来た元孤児、現メイド達が作ってるんだけど、仕込んだのはファティマ。
アイツ、メイド型ってだけじゃなく実際にメイドとして優秀なんよな。多少ズレてるとこあるけど。『メイドの嗜み』とか言っておけば何でも許される訳じゃないのよ、と。この料理だって、最早厨房女中の領分を超えて、コックの仕事だからな?
造形は接客女中っぽいんじゃがね。性能的には万能女中なんよな。……イヤイヤ、待て俺。ファティマは聖“武器”だ。メイドは本分じゃない。忘れるな!
因みに犬達と、エリスやらラミアーやらティネッツエちゃんやらは、本館の遊戯室で同じ物食べながらマッタリ過ごして貰ってる。態々胃の痛くなるような場所に来る必要も無いからな。
イブは、メイド姿で給仕中。俺としては本館の方に行ってて貰いたかったんだが、頑として譲らなかったんよ。今もワゴンを押しながら料理出したり食器片付けたりしてる。
食べつつも周囲に気は配る。トラブルを未然に防ぎ、招待客に楽しんで貰うのもホストの役目だからな。
酔っ払ってメイドに手を出しそうなお客は、静かに絞め落とし、妙な噂話を口にしてる御婦人は緩やかに別室にお連れする。
ロビー活動をするなとは言わんが、ここでネガティブキャンペーンされるのもな。
新しい街道が出来て、物の流れが変わるのが困るってのは分からんでもないが、そこは自領を強化する事を努力しろやと言いたい。
まぁ、ルールールーから忠告も受けてたし、そういった輩は、別室でOHANASHIさせて貰うって事で。




