王太子ではないって事で
隣国との新たな街道が開通するってのは、俺が思ってたよりも遥かに大事だったらしくて、両国の砦が出来上がり、さあ開通って事に成ったら、セレモニーを行わないかんらしいんだわ。
いや、エリスが前回来た時にな、そんな話も出てたもんでさ。アイツだってだだこねる為だけに家に来た訳じゃ無くてな、ちゃんとそう言う話もしてたんよ? 名誉の為に言っとくが。
まぁ、それも聖弓来てからやっと話ができる状態になったんだけんどもよ。
そう言や、前世でもバイパスやら新高速やらの開通式ん時ゃあ、お偉いさん呼んでセレモニーとかやってたっけか。
まぁつまり何が言いたいかってぇと、開通式をやらにゃいかんって事だ。『砦が出来ましたよ~』って事は何時ものルールールー、ルーガルー翁ホットラインで国王様の方へ連絡済み。
やっぱり便利だよなホットライン。第二夫人なんかに聞いた話だと、手紙での報告だと、普通に届いても王宮内での精査やら優先順位やらの都合で数ヶ月待たされる事も有るんだとか。この時の優先順位を上げる為には所謂袖の下をどれだけ払ってるかが重要なんだとか。
俺みたいなコネも無く、鼻薬を嗅がしても居ない新興貴族だと、下手すりゃ一年以上待たさせる事になりかねんらしいんだわ。
その間は、ってぇと、まぁ、『待っとけや新参者』ってこったな。そうやって顔に泥を塗りたくりつつ身の程を知らすって訳だ。怖いやね、貴族社会。
そもそも、下手に派閥やら何やらで力のある貴族に恨み買ってたら、何時まで経っても国王様ん所に手紙なんざ行かないし、下手すりゃ、途中で握り潰されかねんらしいんだわ。いや、それってどうよ? とも思うんだが、そんなもんらしい。特に足の引っ張り合いが顕著な高位貴族辺りは。やだやだ、成るもんじゃねぇわ高位貴族。あ、俺も辺境伯だったわ。うへぇ。
もっとも、それが王国にとって致命的なもんだったりした場合は、流石に握りつぶした本人にも類が及ぶ可能性があるんで、そう言う時には、したり顔で手を貸して恩を売りつつ弱みを握るんだとか。ドロッドロやな。酷いマッチポンプも有ったもんだわ。まぁ、俺には関係ないけど。
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「と言う訳で、第一王子のセルゲイ様が来られるそうです」
「ホワイ?」
「第一王子のセルゲイ様が来られるそうです」
ルールールーの言葉に、ちょっと天を仰ぎ見る。
いやまぁ、開通式の正式な国王の代理人って事だから、是非も無しなんだが、何か政争に順調に巻き込まれてる感がねぇか?
王宮のドロドロには参加したくねぇんじゃが?
って、言っても、来るもんはしょうがない。取り敢えずは当たり障りって物がない様に情報は集めとかんとなぁ。
「って事でその辺どうよ? アルフレド」
「何なりとご質問くださいマイロード!」
コイツが以前所属してたのが軍務卿派閥で、その軍務卿が押してたのが第一王子だった筈だ。なら、多少なりと情報を持ってそうなんで、召喚した訳なんだが……
「いや、何でおまいも居るかな? 豚骨……で、なくてディモッド・ブラビッシモ副団長」
「我が主君が『トンコツ』に改名しろとおっしゃられるなら、今すぐ、このディモッド、『トンコツ』に!!」
「そう言うの良いから」
うん、アルフレドだけを呼んだつもりだったんだが、何でか豚骨騎士団副団長ことディモッド・ブラビッシモもついて来たんよ。
「ハッ!! 第一王子の為人を正確につかむのでしたら反対派閥の人間の話も聞いておいた方が良いかと愚考いたしました!!」
ああ、そう言う事か、確かにその方が情報としては正確になるか。いや、ルールールーにも情報収集は頼んで居るんだけんどもよ。
執務室のソファーに向かい合わせに座った俺達に、イブがお茶を入れてくれる。そのイブに頭を下げ、二人がお茶に口を付けた。
この二人からしてみれば、イブは平民の娘っ子でしか無い筈なんだが、こうして、敬意をもって接してくれる。どうやら周囲からすると、イブって存在は、俺のパーティーメンバーで、竜討伐にも同行した猛者であると同時に、俺の専属侍女って扱いらしい。
俺としては、妹と言うか、娘の様なものだから、それはどうなんだ? って思ったんだが、イブさん本人的にはエラクお気に入りっぽい。うん。この年頃の娘さんの考える事はオジサンにはちょっと分からんわ。
「で、第一王子ってのは、どんな奴なんよ」
俺の質問に二人が顔を見合わせる。
「そうですね」
「脳筋だな」
「脳筋ですね」
二人の気が揃う。ってか、一言で終わったんじゃが!?




