聖なる武器の内輪事情
『ワシはまた戻ってくるのじゃぁ』と言う最期の言葉を残してエリスは逝った……
うん。質の悪い冗談はこの位にしとこう。いや、地獄の亡者もかくやって感じで俺の執務室から、聖弓に連れてかれたのは確かなんだけんどもよ。
護衛でもある聖弓、置いてけぼりにするて、どうなんよ?
いや、家の街、治安が良いのは確かなんだが。それには力入れてるし。だとしても単独行動は控えろや、と。
聖弓も久しぶりに顔見たけんども、聖剣に至っては魔人族国に行った時以来、全くと言って良いほど見てねぇな。どうしてんじゃろか?
『【報告】臍を噛んで悔しがっていますよ?』
『【説明】軟禁状態の元国王の監視役をしてるデス。ボク達が2体目の竜種を倒したと聞いて、悔しがってたデス』
いや、監視役も充分重要な役割だと思うが。やっぱり、武器として活躍してこそって事かね。
そう言や、聖弓にしろ聖剣にしろ、まだ名前貰ってないのな。何か“名前を貰う”ってのが特別なのは分かるんだが、今の所有者だと、何か不満なんかね?
『【説明】私達はあくまで武器です。ですので、自身のポテンシャルを十二分に発揮してもらえる対象に惹かれるのは当たり前だと考えます』
いや、その割には、お前、搭乗型のロボに成る事が夢じゃんかよ。
『【力説】だからこそですマスター!! 搭乗型ともなれば、そのポテンシャルはパイロットに一任されてしまうのですよ!!』
『【追憶】最新鋭機が、パイロットの腕のせいで、活躍することなく撃墜される様を何度も見たデス。逆にエースともなれば、量産機ですらあれだけの活躍を……』
おおう! 何かの琴線に触れちまったみたいだ! 二人して随分と興奮していらっしゃる!!
てか、大丈夫か?
『【失礼】申し訳ありません、少し取り乱してしまいました』
『【平気】ちょっと、あの戦争の時代を思い出してしまっただけデス』
なら良いんだけんどもよ。
「むぅ……」
エリスが去って雑談を始めたからか、執務室のソファーでゴロゴロしていたラミアーが俺に押しかかって来る。
後ろ手に頬を撫でてやると、気持ち良さそうに、手に顔を押し付けてきた。
ふと目が合い、その真紅の瞳に俺の姿が映った。
そう言や、コイツも一番最初に会って以降、【魅了の邪眼】を発動する気配がないな。って事はパッシブではなくアクティブな能力だったって事か。
オンオフが自由で、今の所それを不特定多数に使わないのは、消耗が激しいからか使う意義を見出せないからか。
いや、確か相手の目を見なけりゃ効果がないんだったよな? って事は一対一でしか使えない能力って事か。
成程、それ程使い勝手が良い能力って訳じゃないんだな。
あの時、それでも使ったのは、それ位ラミアーも切羽詰まった状況だったって事か。
今だって、視線が合っているにも関わらず。【魅了の邪眼】を使って来ない。俺にソレが効きにくいって事を理解してるってのも有るだろうが、【魅了の邪眼】を使わなくても良いって位には、今の生活に満足してるって事だと信じよう。
『【想起】そう言えば先程の話ですが』
どれの事? いや、エリスが飛び込んで来てから、色々と話たんで、どれの事か分からんのだが?
『【補足】他の聖武器が名前を貰わないのかと言う話です』
『【追想】あー、聖剣話デスネ』
何か有ったんか? 話しぶり、ろくな事じゃ無さそうだけど。
『【説明】はい、『名を与える』または『貰う』と言う行為が、私達にとって“特別”であると、私達とマスターとのやり取りで読み取った元国王が、“名付け”によって、聖武器を縛れるのではないか? と考えたようで、聖剣に一方的に名前を付けようとしたのです』
「え? 大丈夫だったのか? それ」
っと、思わず声が出てもうた。名付けの成果かどうかわ分からんが、“魂のつながり”とやらで【念話】まで出来る様になった身としては、名付けが、特別なモノであると言う事に異論はない。
もし、それが一方的にでも行えると言うのであれば、それはそれで大問題だろう。
『【肯定】一方的に付けられるなら、皆、それを行っています。最低でもお互いの同意がなければ』
だよな。
『【仮定】でも、その名前を聖剣が気に入ってたら、成功してたかも知れないデス』
マジかぁ。って事は、気にいらんかったんだな?
ちなみにどんな名前が聞いてる?
『【肯定】【個体名】ユリーカだと』
? それ程悪くはない感じだけどな。ギリシャ語で『見つけた』とかって意味だったか? アルキメデスが、風呂から溢れ出た水の質量と、その風呂に入れた物質の体積が等しいと気が付いたときに叫んだとかって逸話のある言葉だけど、まぁ、あくまで前世での言語の話だし、この世界で同じ意味なのかは分からん。ただ、言葉の響き的にも女性名としてそれ程変って訳じゃない、と思うが。
『【嘆息】その時、元国王が目を掛けてたお気に入りの踊子の名前だったデス』
『【補足】元国王的には、自分のお気に入りの女性の名前なので、聖剣も気に入るだろうと思ったらしく。それに、件の踊子の方にも、国宝に自分の名前が付けば歓心が得られるだろうと思ったようです』
いや、駄目だろ、そりゃ。




