おどらにゃそん
パンッパンッパンッって言う拍手の音がホールに響く。頭から紐で吊るされてる様にってのはダンスを踊る時の常套文句らしいんだが、それってつまり体幹をブレさせずに優雅に見える様に踊れって事なんよな。
予想していた通りにダンスってのは結構なハードさ加減だったわ。何パターンもある足運びを覚えて、それの組み合わせで動きを作る訳なんだが、そんな足運びとはまた上半身の動きは別な訳で、その組み合わせパターンは、かなりの種類に及ぶ。
それ等を覚えるってだけでも大変ではあるんだが、これ等をいわゆる『見取り稽古』でやらんきゃあかんってのがね。
いや、それだけじゃなく、実際にやってみて知ったんだが、これ、常に腕を肩より上げながら、足も踵を着かない様にやらんきゃいけんのよ。いや、これね、踵を地面に着ける『べた足』やると、全っ然優雅に見えんのだわ。肩の方もそれと分かる様な力が入っていると駄目だしな。要は『リラックスしてる様に見える』様に、ってか、『リラックスした状態でも維持できる』様に、かね。
踵を付けずに動く事自体は、実は常にやってる事なんで、それ程辛くは無いんだが、これ、そう言った事を意識して生きて来なかった様な連中がやり始めたら、かなりキッツイんじゃなかろうか?
それと、一番の収穫が、関節部分を先に動かす様にして、末端を若干遅らせる、しなう様な動き。これが優雅に、そして俊敏に動いて居る様に見えたネタだったんだが、これが出来なきゃ優雅さに欠けるし、変に関節部分の動きを意識しすぎると、わざとらしく、不自然でぎこちない動きになる。一連の動きが連なっている様に動かないと優雅に見えないってこったな。
“コレ”俺が攻撃する時の連動した動作にすごく近い感じで、完全にマスターできれば、もっと攻撃時の威力上がるんじゃね? とかワクワク出来たし、邪竜を倒した時の動きに近付けそうで、思わずニヤリとしちまったわ。
あの時の動きな、まだ完全に再現できてないのよ。かなり近くはなったと思うんだが。まぁ、またぶっ倒れない様にセーフティーを多めに取ってるってのも有るんだが。
「はーい! これで一旦休憩入れましょうかぁ」
第二夫人の掛け声で、皆の動きが止まる。うん。ダンスのレッスン、希望者には受けられる様にしたんだがね、結構、受けたいって輩が出て来たんよ。俺やイブは当然として、商会の関係で夜会なんかにも呼ばれる事が多くなって来たらしいエクスシーアと、そのパートナーとして参加させるつもりでいるマァナ。なんでか参加したがったティネッツエちゃんと、その練習相手として名乗りを上げたグーテンシュバッソ。これ、ティネッツエちゃんは俺と踊りたがったんだが、グーテンシュバッソがどうしても譲らんかったんよね。その所為か、渋々って感じで踊るティネッツエちゃんが、申し訳ないが珍しいとか思っちまった。いつも笑顔なだけに、余計にな。
そして俺の代理として夜会に参加する事が多くなるであろうグレッソチューンと、ついでのゲーグレイッツァ。それぞれ奥さんと、幼馴染の友達だってぇ女性がパートナー。ほほう? 実に興味深い。
そして最後は、メイド仕事をサボりたいだけだろうキャルと巻き込まれたマトスン。コイツ等は既に息も絶え絶えになっているが。
キャル、床に伸びるな、せめて椅子に座れ。
「トールちゃんが起こしてくれたら立てると思う」
とかって手を出して来たんで、引っ張って脇に抱えて壁際のソファーに放っておいた。「扱いが酷いんじゃないかな!?」って抗議して来たが、おまいが仕事サボりたさの一心でここに居る事は分かってるねんで、と。
潰れ濡れ雑巾と化したマトスンも以下略。体力なさ過ぎなマトスンじゃなくて、体力のあるオスローを連れて来れば良かったんじゃね? とか思ったんだが、何かそれじゃダメらしい。
「マトスンじゃなくても良かったんだよ、お兄ちゃんじゃ無きゃね」
俺をチラチラ見ながらキャルがそう言う。単に、目の前歩いていたんで連れて来られただけらしい。マトスン哀れ。
俺達がそんな風にレッスンを受けてる間、ラミアーは一人で壁際でクルクル回っていた。何か“Now Loading”って言葉が頭浮かんだわ。
因みにミカとバラキも、そんなラミアーの周りをクルクルと。何か和む。
あれだな、ラミアーにはバレェとか似合いそうだよな。教えたとしてもやるかどうか知らんが。
あ、でも一人で踊りの練習するなら、音楽とか有った方が良いよな? 前世でも自動演奏機とか有ったし、アレも確かゼンマイ動力だったはずだ。
マトスンに依頼しておこう。そうしよう。今はボロ雑巾と化してるが、オルゴールとかの原理を教えとけば復活するだろう。




