とある司令官の迷言なんだが
そう言や、『箱入り娘』ってぇ言葉はあっても『箱入り息子』ってぇ言葉は無いよなぁ。“大切”に育てられてるってぇ事では同じなんだろうに、何だろうね? この差は。
まぁ、跡取りとして育てられがちな男子と、最初っから家同士の繋がりを強める為にと育てられる女子との違いって物も有るんだろうけどさ。そもそも、跡を継ぐって予定の無い、もしくは跡を継ぐ必要の無くなった貴族次男以降の扱いの差なんてかなり酷いもんだし。
そう言う意味では全員が家の繋がりを考えての嫁に送られる女子の方が、扱いは均等になる分、マシなのかね?
嫁に出された後の第二夫人の扱いとか見てると、そうとも思えんが。
それはさておき、この逃げてきた公爵家御子息はどうなんじゃろ? そもそも、何から逃げたんだ? お稽古事からか? 周囲の家族からは隔離して育てられてるって話なんだから、意地悪な姉からって事も無いだろう。
そう言や、俺も姉とか見た事もねぇな。意地悪かどうかも分からんかったわ。やべぇ、風評被害を起こすとこだった。反省反省。
ただ、この顔付や体形なんかを見てると、大切に育てられては居るだろうが、どうも甘やかし臭いんだよなぁ。
あの公爵の事だから、これで能力的に想定水準下回ってたら、優秀な親戚養子にとるとか普通にしそうなんだが……
教育の方向性そのものは、第一夫人が決めてるらしいが、どう言うつもり何じゃろ? 傀儡にするってつもりならまだマシで、下手すりゃわざと無能に育てて、自分所の親戚筋を送り込もうと思ってても不思議じゃないからなぁ。
まぁ、折角選ばれたんだから、精々立派に生き延びる事を祈っておこう。コイツに何かあっても。第二夫人が悲しむ様な気がするしな。
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「夜会?」
「そう、デビュッタント、しなくちゃいけないでしょう?」
その日の夜。いつもの様に第二夫人の膝の上でかいぐりかいぐりされてると、不意に第二夫人がそんな事を言い始めたんよ。マジで? 社交界デビューを? 俺が?
「しないとだめですか」
「トール様、貴族子女はデビュッタントを経て、ようやく一人前と認められるのです」
マジかぁ。確かに俺今、辺境伯だしなぁ。それに、実情5才でも公称15才。
確かに社交界デビューしてないといかん年齢って事になってるからなぁ。
「それに、新興とは言え、貴族なんですから、貴族としてのマナーも覚えなくちゃね」
「覚えなくちゃですか」
「トール様、貴族に名を連ねるのですから最低限でもマナーは覚えて頂きませんと、恥をかくのはトール様御本人なのですよ?」
一応、俺冒険者でもあるんじゃがね。いや、そう言えば、グラスも準男爵の爵位貰った後、文字の読み書きやらマナーやら覚えさせられたとか言ってたな。
てか、アイツもデビュッタントとやらをしたのかね? なんてぇか、あのごっつい顔だと、礼服とか似合わなさそうだよな。
後でそれ等諸々を聞きに行こう。そうしよう。
「マナーやら何やらまでやってると、後、5日程だと時間が足りなと思うんですが」
「そうよねぇ。あ! ならお泊りの延長を……」
「流石にそれは無理ですよ、母上。俺も仕事があるんで」
俺がそう言うと、第二夫人がふくれっ面に成る。いや、可愛いんだけど、可愛いんだけどさ。子供二人も生んだご婦人のやる仕草じゃ無いんじゃが?
「では、奥様がトール様のご領地に行くと言うのでは?」
「はい?」
「まぁ!! それは素敵な事ね!! 是非そうしましょう!!」
「はいぃ!?」
いやいや、待ってくださいよお母さまよ! 今まで、下手に繋がりを勘繰られん様に動いて来たんじゃんよ!
それを真っ向から無視するような提案とかどうなんよ!! てか、ジョアンナさんや!! 一体全体どういう心算で言った!! いや、この人第二夫人ファーストな所あるから、ママンが喜んでるから良し!! とか思ってそうだけど、それだと色々困るんだってばよ!!
「大丈夫です、トール様。私に良い考えが有ります」
えーほんとかよ。てか、その台詞、ダメな時のフラグなんじゃが?




