育ちが違うのだよ育ちが!
公都で下水周りの整備が進んでるって事は、秘密通路の露見の危険性が増えるって事にもなる。
と言う訳で、公爵の執務室にこっそり侵入した上、図面の確認。これ、下手に夜中に侵入するより、ちょっと席を外してるってシュチエーションの方が警戒が薄いんよね。
と、言う訳で、真っ昼間っからミッションインポッシボー。いや、不可能な訳でもねぇんだが。
公爵、結構几帳面な性格らしく、お目当ての物は直に見つかった。自分で業務に携わってると分かるが、良くここまでキチっと纏められるものだよな。それはマジ尊敬できる。とは言っても俺が公爵のこと嫌いだって事には変わりないが。
見取り図を見る限り、俺の作った通路と重なってる場所は無い様に見えるな。取り敢えずは変に作業をしなくて良い事に安心するわ。
ただでさえ、自分の街の事で手一杯だってのに、公都の方の作業にまで手を出したら体がいくつあっても足りんっちゅうの!
まぁ、確認したい事は確認できた。長居は無用だな。極力気配を消し、公爵の執務室から出る。後は第二夫人の館まで戻るだけなんだが……
何か騒がしいな。何じゃろ? いや、自覚はあるねんで? 自身の好奇心の強さと、それに対する理性の弱さには。
好奇心に身を委ね過ぎた所為で失敗したって思った事も何度あるか。でも、気になるんだからしょうがない。気になった事は消化せんと気の済まない性分なんだろうなぁ。と、他人事の様に思っておきます。委ね過ぎなきゃ大丈夫。大丈夫だからちょっとだけ、ちょっとだけ。
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「坊ちゃまぁ~!」
「お坊ちゃまぁ~!!」
「そっちには?」
「いや、居なかった!!」
「ああ、本邸にまで逃げてくるなんて!! 公爵様に見つかったら、何と言われるか!!」
……お屋敷の従者さん達、説明台詞有難うございます。ふむ。お坊ちゃまねぇ。まぁ多分公爵家御子息の事なんだろうけど、そう言や、姿見た事なかったな。
端的に言えば、鏡見ればソコに居るんだろうが、色味が赤か白かってぇ極端なのしか見れんからな。そもそもそっちの御子息、嫡廃されてる顔だし。
関係無いが、硝子技術の向上とメッキ技術を教えた事で、鏡の精度が高くなったわ。それまでは磨いた銅鏡だったり水鏡だったりしてたのが、ガラスの鏡にバージョンアップしてたからな。
こいつも俺が何か言ったって訳じゃなく、ドワーフ連中が試行錯誤して作ったものだ。流石と言おうか何と言おうか。
取り敢えず、鏡の周りに額縁よろしく装飾をして貴族相手に売ってみたら? とはアドバイスしといた。俺自身は、もう四角い硝子に鏡面があるだけのシンプルな方が好きなんだが、貴族相手だと、多分、それだとウケが悪いだろうからな。
試作が出来たら、第二夫人の意見も聞いてみるか。なんだかんだで、貴族の、それもセンスの良いって形容詞の付く品物に関しちゃ、第二夫人に一日の長が有るからな。
それは兎も角、公爵家の御子息がここに来てるってんなら好都合だ。ちょっと御尊顔を拝んできますかね。
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気配を辿って向かった先は、中庭にある低木の所。俺以外の“子供”の気配なんて他になかったから、分かり易かったわ。
中庭は綺麗に木々が切りそろえられ、シンメトリーに並んでいる。ただ、公爵が特にこう言った庭についての興味がないのか、ただ単に庭木が植えてありますって感じで、面白みもくそも無い。
低木で迷路くらい作って見せろ、と。
さて、そんな中庭の低木の所に潜んでいる、公爵家御子息ことジャンバルディーくん五才なんだが……うん、大変、福々しいお姿ですわ。
まぁ端的に言えば太ってるな。
全く、鏡を見ても馴染みのない顔だったわ。俺も目付きは鋭い方だが、アレは鋭いと言うか細い。頬肉で塞がっちまってるし、鼻が引き攣った様に上向いてるし、何と言うかかなり違う。
育ってきた環境が違うから、双子のハズなのに、受ける印象が全くと言って良い程に違っている。
そうか、アレが俺の弟かぁ……
何だろうね? このがっかり感。




