嫌な予感ほどよく当たる
いや、本当に何でコイツ等ここに来たんだって感じだわ。特にアルフレド・サルバドル。おまい軍務卿の下で俺と直接決闘ってか、対決しただけだよね? スタンリー・ヘブンスターの方は塩豚骨の件で、俺ん所来る気満々だったけどさ、コイツに関しては顔見合わせたって以外の接点なんざ無かったはずなんじゃが? しかも、軍まで辞めてさ。
いや、実際、塩豚骨きっかけで、部下ごと騎士団辞めて来たスタンリーも大概だけどさ、槍の天才が軍辞めてどうするんよ。槍以外に何ができるんなら構わんが、そうでないなら、かなり本気で潰しが効かんと思うんじゃが!?
本気で文官目指す気なんか? 俺の下で。
新しい“何か”を始めようって事を否定はせんが、もうちょっと考えた方が良くないか? 色々な意味で。
それは兎も角、俺を慕って馳せ参じたって訳でもないだろうし、考えが読めん。本音は何処にある? コイツ。
「で? どんな魂胆が有ってここに来たんだ?」
正直、スパイに来ましたって言われた方が納得できるんだが。
「魂胆なんてとんでもない!! 私は、あの決闘で思い知ったのです!! 『上には上』が居る事を!! しかし天才である私を軽く超えられる存在など、多くはないでしょう!! そんな私を打倒し、軽く超える事の出来る存在!! 天才を超えられる天才!! つまりは“神”!!」
……いや、ホント、何言ってるのか分かんねぇんだが?
多分、お前倒せる存在ってんなら、バフォメットだってそうだぞ?
『【納得】ふむ、性懲りもなく私達の前に現れた時は、どう滅殺しようかと思いましたが、成程、弁えている様ですね』
いや、何を言ってるんだ? ファティマ。イブも何で頷いてるかな? 取り敢えずお茶お代わりで。
いそいそとお代わりを注ぎに向かうイブを横目に、アルフレドを胡散臭いものを見る視線で見た。
途端に頬を赤らめて、ブルリと身を震わせるアルフレド。
何この反応。
「……言いたい事は、理解出来ねぇけど、分かった」
「では!!」
「ただな、俺が必要なのは武官じゃなくて文官なんよ。なんで、端的にお前は要らん」
そう言うと、アルフレドが再びブルリと震えた。
「ああ!! これが神の試練!!」
何言ってんの!? コイツ!!
自らを掻き抱いてくねくねと身をくねらせる様は、最早不快と言うよりも恐怖なんだが!?
「大丈夫です!! すぐに覚えましょう!! 私、天才ですから!!」
「なぁ、話聞いてたか!? 俺は『要らん』と言ったんじゃが!?」
『【提案】マスター、よろしいでしょうか?』
うん? なんじゃらほい?
と、ファティマはちらりとスタンリーの方を見ると、話を進めた。
『【説明】豚骨元騎士を排除するのが困難であるなら、駄兵士を取り込むのも悪くないかもしれません』
……あー、そう言う事ね。
スタンリーの方ね、ルーガルーの爺が話を通した事もあって、実は円満に退団してるのよ。
その分、確実に雇わにゃならんのだけど。
ただ、その事をスタンリー本人が喧伝しやがってた事もあって、憶測と噂話がなぁ。
まあ、その喧伝そのものが、ルーガルー翁が根回しする前に本人が吹聴して回ってたって言うね。
「塩豚骨!! あれは至高の食べ物だ!! 私は、私は!! あれを作り出したオーサキ辺境伯に身命を捧げると決めたのだ!!」
ってな感じでな。そもそもスタンリー本人が、俺ん所来た理由って、第二王子派への勧誘だった訳じゃん? そのせいもあって、“俺が”第二王子派に取り入ったみたいなね、噂がね。
で、アルフレドだよ。軍務卿の秘蔵っ子。軍務卿も独立派閥ではあるけど、どちらかといえば第一王子を支援している側だからな。
それが俺ん所にいれば、中立性を多少は保てるだろうって事だよな。
まぁ、その為の補強は、せんとあかんだろうけど。
宮廷ってか、社交界の噂話なら、あの人に頼むとするか。以前はしょっちゅう会いに行けたし会いに行ってたけど、今はご無沙汰だからなぁ。
確実にお泊りコースだよな。それまでに仕事を進めとかんと。
溜め息を吐きながら、何故か自信満々なアルフレドに言う。
「仕方ないから雇う事にするが、マジで必要なのは事務方なんだ。キッチリ仕事は覚えてもらうからな」
俺がそう、言うと、アルフレドはブルリと身を震わせると「イエス! マイロード!!」と頭を下げた。
……何だろう、厄介事の種を引き込んだ気しかしねぇんだが?




