文官募集
事務方を増やす方法は、教育して育てるか、それとも既に居るところから引っ張って来るかの2択しかない訳だ。
即戦力で欲しいのなら、引っ張って来るの1択に成るんだが、そうなると、『何処から?』ってぇ話になる。
ぶっちゃけ、にわか貴族の俺に、直接的な伝手なんざない。
そう成ると、その辺りに詳しそうな知り合いに頼るしかないんだが……
「ルールールー。ルーガルー翁に、ドロップアウトした商人か、中立貴族に仕えてた知識層で、適当な奴が居ないか調べてもらえるか?」
「分かりました」
あんまり、変な所に紐付いて居ると困るが、この際、貴族の家を継げなかった次男三男でも仕方ない。
問題は、そういった輩は、変にプライドが高かったり、新規貴族に偏見持ってたりする可能性がある事なんよな。
普通なら紹介する時に、そう言った輩は弾くはずなんだが、ルーガルー翁だからなぁ。
あえてそう言ったのを紹介する可能性も微レ存。俺がそ言った輩をどう使うかを試す為になぁ。
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ソイツが紹介された来た時、正直「その可能性が有ったかぁ」と頭を抱えちまったわ。
「人を探していると聞いてすっ飛んできましたよ!! 水臭いじゃぁ無いですか!! 私を雇って下さいって言ってあったではないですか!!」
ああ、言ってたなそんな事。だが考えて欲しい、コイツは嫡男で跡継ぎなんだ!!
俺の部下として使ってて良い人材じゃぁ無いんだよ!!
元派手鎧こと、スタンリー・ヘブンスター侯爵令息!!
イブが心配そうに俺の方を見る。うん。大丈夫じゃないが大丈夫だイブ。心配そうにするな。それより濃いお茶を一杯入れてくれ。
大丈夫だが、ちょっと落ち着きたい。
そう言うと、パタパタと、イブがお茶を注ぎにワゴンへと向かう。
さて、コイツの親であるヘブンスター侯爵ね、ガッチガチの第二王子派。
だからこそ、その息子であるスタンリーも第二王子の騎士団なんぞに入ってた訳無だが。
本当にね、騎士団辞めて来やがったんだよ。この阿呆。
ねぇ、これって貴族的には俺が第二王子派に入ったとか思われる流れなんじゃね?
『【肯定】ヘブンスター侯の動き次第でしょうが、その可能性は高いと思われます』
ファティマの回答に溜息しか出ねぇ。
だから、俺は中立なんだってばよ!!
って、俺が頭を抱えてると、キャルが応接室に顔を出した。
「トールちゃん、お客さん来たよ!! 何かキラッキラしたの!!」
「いや、既に来客中なんだが?」
俺がキャルにそう返すと、スタンリーは穏やかな表情で言った。
「私は構いませんぞ? 主様の予定の方が優先ですからな!」
「まだ。俺はお前を雇うと決めて無いんだが?」
「またまた」
いや、ホントに。
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「部下を探していると聞き、はせ参じました!! オーサキ伯!!」
えぇ……何で来たの? コイツ。
何かキラッキラしてる稀代の天才とか言われてたサルバドル公爵家令息、アルフレド・サルバドルさんよ。
「お前、軍部に所属してたんじゃないんかい!!」
「オーサキ伯に仕える為に辞めて来ました!!」
アルフレド、お前もか。
何なの? 最近は転職流行ってんの!? しかも元騎士と元兵士て、どっちも武官じゃん? 俺が欲しいのは文官なんじゃが?
「ハッハッハ!! 大丈夫ですぞ!! 主様!! 私、こう見えて騎士団の会計処理を」
「してたのか?」
「していた部下の面倒を見ていましたから、どちらかと言うと文官寄りの武官と言うか、むしろ文官だったと言って差し支えないかと」
いや、文官寄りだったのはその部下であって、おまいじゃないじゃろ?
「ハハハッ!! 大丈夫です、オーサキ伯。自分、天才ですから!! 事務仕事も華麗にこなしてみせましょう!!」
そしておまいの根拠の無い自信はどっから来るんだ? 自分を天才とか自称するのもどうかと思うが、天才だからって、出来る事とできない事は確実にあると思うんじゃが!?
「は? 貴様が得意なのは槍振りだけだろう? 昼も夜も!!」
「そう言う貴様は頭にも筋肉以外入っていないのだから、事務仕事なぞ出来んであろう?」
そう言って、目からバチバチと火花を飛ばし合う二人。一触即発な雰囲気にイブもキョロキョロ。キャルは面白そうと目を輝かせてやがるが。
思ってた通り、騎士と兵士って仲が悪いんかね? まるで田舎のヤンキーみたいに頭ガッツンガッツンぶち当てながら互いにメンチを切り合うスタンリーとアルフレド。
おまいらが本気だってのは伝わって来た。伝わって来たんだが……
取り敢えずここで喧嘩すんなや。おまいら。




