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応用的活用方法

 俺の反応に、ティネッツエちゃんの瞳が不安で揺れる。

 この【念話(テレパス)】が、コボルト族しか使えない物だっりしたら、その価値は計り知れない物になる。

 おそらくは、コボルト族の特有の能力である短波の送受信に付随する能力なのだと思われるんだが、これが誰にでも使えるって訳じゃないのなら、そうなると、今までコボルトが隠れ住まなけりゃいけなかった理由と同じ様な状況になっちまう。

 遠距離通信なんて、いや、例え短距離での通信手段だとしても、それこそ戦争時には喉から手が出る程、欲しい能力だからな。


 俺が渋い顔をした事で、その場にいたコボルト達に不安が広がる。

 おそらくここに集まったコボルト達は、純粋に俺の力になろうとして、この実験をやってた筈なんだ。


 でも、このままでは使えない。いや、使うわけにはいかない。

 何と言うか優秀過ぎるだろうコボルト。ただ現状では、その優秀さが、希少さが仇と成り得るってのがなぁ。


 ふと見れば、その場にいたコボルト達の視線がティネッツエちゃんに集中し、当の本人は涙目でフルフルと震えていた。

 あ、拙い。不安にさせたまま考え込んでた。


 何かフォローを……ただ、現状、そのまま使うって訳にはいかないのも確かで。

 ……そうだ!!


「ら、ラジオの実験に付き合ってくれないか? みんな!!」

「「「「ラジオ?」」」」


 ******


 前にマトスンにラジオの原理を丸投げしたんだが、そう言えば、あれって、受信機でしかないんだったわ。つまり、送信する側ってのが無い状態だったって事で、それは即ち『本当に受信できてるか分からない』って事でもあったんよ。

 前世みたいにそこかしこに電波が飛び交ってるって状態じゃないんだから、そりゃ、当たり前っちゃ、当たり前の事だったんだけんどもよ。

 うっかり失念してたわ。


 と言う訳で、マトスンの元へ。そこはソレ、流石は天才(へんたい)。ラジオの試作自体は既にできてたわ。もっともコレ、俺の言った一番簡単な原理のソレを組み立てただけらしいが、いや、原理だけ聞いて作れるってだけでもすごいと思うんだが。


 さて、さて、実験そのものだけどな、これは別に失敗しても構わない。そもそも、前提になってるのが『コボルトが短波を発信できる』って俺の推測ありきの物なんだからな。

 それにしたって、そもそもコボルトから発信されている物の波長と、アンテナ、コイル及び使った鉱石のソレとが合致しなけりゃ反応すらしないだろう。


「あくまで実験なんだから、気楽にな」

「は、はいっ!」


 真面目だなぁ。ティネッツエちゃん。

 さっきまで一緒に【念話】実験やってた他のコボルト達も固唾をのんで彼女を見つめる。類ともかな? 随分と生真面目な連中が集まってた様だな。

 そんな彼女達をさらに周囲から見つめるのは家で引き取ってた孤児連中と別グループのコボルト達。館ん中で気ぃ抜けてんのか、肌が青く染まってる子もチラホラ。

 まぁ。研究室内だった良いか。本館の方は冒険者とか出入りしてるから向こうだと拙いが。


 作業台の方にはおそらく彼らが作っている最中だと思われる図面だとか実物だとかが散らばってる。こっちはこっちで発明サークルって感じのノリで楽しそうで良いやな。


 マトスン、変態……じゃなくて天才過ぎてボッチになってるかと思ってたから、何だかホントに安心したわ。


 さて、ティネッツエちゃんが“ラジオ”に手を翳す。うん、()()俺がラジオラジオ言ってたから【ラジオ】って名称に成っちまってたわ。ラジウムも使ってないのになぁ。

 アンテナ部分に手を近づけながら、目を瞑って呼吸を整えてる。


「……っ!!」


 ティネッツエちゃんの集中力が高まって行くのが手に取る様に分かった。


 ジジッ、ジジジジジッ。


「「「「「「っ!!!!」」」」」」


 反応が、有った。何だこれ、何か、背中にゾワリとしたものが駆けあがる。ただ、決して不愉快な物ではなく……


 ワッと沸いた周囲の反応で、俺は今、自分が感動と興奮で身を震わせたんだと言う事に気が付いた。

 いわゆる、歴史的一瞬という奴だ。

 ブルリッと身を震わせる。

 ティネッツエちゃんが驚きで目を見開かせながら俺を振り返った。

 俺が満面の笑みでサムズアップをすると、彼女も本当にうれしそうに微笑みを浮かべてくれた。


 ******


 結果から言えば、ラジオは反応したりしなかったりだった。まぁ、安定させる為にはラジオ自体の精度を上げなくちゃいけないって事も有るが、コボルト達の能力の安定性と言うのも有るんだろう。

 その辺は要研究と言った所か。


 それでも成功は成功だったらしく、その場にいた全員が、にわかに熱を持った様だったわ。


「あの……」


 俺の隣で、同じ様にその様子を眺めていたティネッツエちゃんだったが、不意に俺の方を仰ぎ見ると、口を開く。


「わたしは、お役に立っていますか?」


 何故、この少女がここまで不安がるのかは俺には分からない。だけど、俺は「当たり前だ」と頭を撫でた。

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