突撃風呂場の恋愛観
訓練で汗をかいたんで風呂場に行きシャワーを浴びる。
当然だが、この館の湯沸かし器は、エクスシーアがキャンピングカー用のキッチンを仕様変更して転用した物で、商会のヒット商品の一つだ。
薪を使うには使うんだが、若干縦に長い形状をしていて、内部が円錐状に設計され、空気の対流を起こしやすくしてある。その為に従来のキッチン用の窯よりも効率よく加熱出来るうえに、その内部でコイルのように巻いてあるパイプと周囲を巻く様に配置された水用のパイプが、外部への発熱を抑えつつも短時間での湯沸かしを可能にしているんだとか。
その他にも煙突なんかに色々と工夫を凝らしているそうだが、その辺りは企業秘密って奴だな。
こう言ったマトスンの思い付き発明品を商品へと落とし込む様な作業は、結局エクスシーアの発想ありきな所があるんで、アイツには感謝の念しかない。
最近は秘書めいた関係で接点も多いからか、マァナと良い感じに見えるんだが、元ガーディアンってのは生物的に結婚とかオッケーなんじゃろか? いや、アイツのキングコブラは確認できてるんだが……不幸な事故でなぁ。うん。酷い事故だったわ、あれは。
まぁ、最悪養子を取るって手段もあるんだが、出来れば二人にとって最も良い結果に成る方が良いからなぁ。
体をタオルで拭いつつ、そんな取止めのない事をつらつらと考えていたら、唐突に脱衣場の扉が開いた。
「トールちゃん!! 着替え持って来たよ~!!」
……いや、自分で用意して来てたんだが? それ以前にノックも無くマスターキーまで使って浴室に突入して来るなや。キャル。
イブやファティマ、ジャンヌやラミアー、ルールールーの来ない隙をわざわざ狙って来たんか、コイツ。
犬達はね、何故か風呂場には近づかんのよ。水場には飛び込むくせになぁ。
「いやぁ、女の子が入って来てるってのに、実に堂々としてますなぁ。流石はトールちゃん!! そこにシビれる憧れるぅ~!!」
「俺の事より、おまいが羞恥心を持てや」
その物言いだと、俺が突貫かましても構わん様に聞こえるぞ?
ぶっちゃけコイツ程度の幼い子供に対して、見られたからと言って恥ずかしいとかって感情も持てんし、逆に全裸を見たとしても劣情を催すって事は無いんよな。いや、今は俺の方が幼いんだが。
「他の男の子だとキャーキャー言ってパニックに為るんだよ?」
「自覚してやってるんかい!! 自重しろや阿呆ぅ!!!!」
ただの痴女の所業だ!! それは!!
おじさん、キャルの将来が本気で心配に成って来たんじゃが!?
「大丈夫だよぉ、見るのは兎も角、見られる予定なのは、ちゃんとトールちゃんだけなんだからね!」
“ちゃんと”の意味が分からんわ! こっちには見る予定なんざ無いわい!!
それは兎も角、何時までも裸ってわけにもいかんので、キャルの持ってきてくれた方の服を着る。せっかくなんでな。
そうやって着替えてる間、ずっとキャルの視線を感じる。いや、何よ。
「そうやって、誰にでも優しいから、勘違いしちゃうんだぞ?」
「いや、誰にでもじゃないだろう?」
何の話だ? 勘違いも何も、実際、俺が寛容なのは身内にだけだし。そういった意味なら好意的って事で間違いはない。
ただし、そんな恋愛感情に直結する程、愛想振り撒いてなんざいない筈なんだが。
「あのね? トールちゃんみたいな綺麗な男の子が、ちょっと優しい雰囲気出しちゃえば、コロッと恋に落ちるのが、女の子なんだよ!」
俺が首を傾げていると、キャルがそんな事を言う。いや、それ程単純じゃないだろう? 流石に。
てか、そんな雰囲気だけで落ちるて、それが本当なら、どうしてみようもないんじゃが!?
「え? じゃぁ、冷たくした方が良いんかね?」
「う~ん。それはそれで惚れちゃうかも……」
どうしろと!!
「トールちゃんはねぇ、もうちょっと、自分自身を振り返って見たほうが良いと思うの、女の子から見たら、ほほ完璧な王子様なんだよ?」
そんなもんか? あぁ、そう言や俺、ドラゴンスレイヤーな上、領主で商会オーナーじゃん。傍から見たら優良物件に見えるんだな。
「……仮面にしか見えないサングラスでも掛けてれば良いか? 赤い服着て」
「うん、ちょっと意味分かんない。って言うか、サングラスって何?」
まぁ意味不明だよな。『認めたくはないものだな』と。
「色付きガラス眼鏡……」
「うん、ちょっと何でそんなもの掛けなくちゃいけないか分かんない」
「顔を隠す為?」
前世で顔を隠す様な話の時は定番だったよな。サングラス。アレ掛けてても、分かるちゃぁ分かるんだが。
「うん、やっぱり意味がわかんない。顔を隠したいなら、何時もの鎧姿で良いと思う」
ですよね。
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何してても詰みってんなら、やりたい事やるわ。俺。
そう宣言した後のキャルの反応は『うん、その方がトールちゃんらしいよねぇ』だったんじゃが?
だったらここまでの会話何だったんよ。マジで。
「そう言う事も、そろそろ意識してかなきゃいけないよって事だよ。多分そう言った忠告するのなんてアタシくらいだし」
そう言われて、俺の周囲の面子を思い浮かべる。辛うじてルールールー位か? 忠告してきそうなのは……いや、ジト目で見るだけな気がする。
「あー、そうかも知んない。うん。ありがとう」
俺が礼を言うと、キャルはニンマリと笑顔を作った。
「お姉ちゃんとしては当然の気遣いだよね! でも、お礼は貰っておこう!!」
おまいん中で、俺の立ち位置そんなんなんだな。まぁ、良いけど。




