時には気分転換も必要だって事で
俺がいないからって仕事も無くなる訳じゃないんよな。
溜まってた溜まってた。書類仕事。嫌になるほど。
商会の書類の方はエクスシーアとマァナが選別してくれてるからそれ程でもないんだが、領地の方がね。それでもグレッソチューンが代表会の取り仕切りをしてくれてるから、俺が不在でもどうにか回るんだが、代表会で出された陳情書だったり決算だったりは、今ん所俺一人で見なきゃいけんからなぁ。
執務室で机に向かいながら、正面のソファーでゴロゴロしてるラミアーを見る。自分を見てる俺に気が付いて首を傾げた。
自由ですねラミアーさん。まぁ、この娘に事務能力を期待するのも間違ってるっちゃ、間違ってるんじゃが。半分魔物ですもの。
いや、まぁ、こうして書類仕事が増えてるの、俺が製紙事業も立ち上げてて、紙が潤沢に使える様に成ってるからだけどさ。
うん。自業自得だったわ。
それでも仕事が多すぎると思うの。やっぱり、事務の出来る人材が早急に必要だよなぁ。てか、こんなに事務仕事してる5才児って、他に居ない気がするんじゃが?
前世で5才の頃って、俺、何やってたっけ? 遊び倒してた気がするが……ヤベェ、碌な事してた記憶がねぇわ。
前世は前世。現世は現世だな。うん。それでなくても中身は50前後なんじゃし。
聖王国の方から連れて来た移住者達には、今の所問題は出ていないっぽいな。俺が巨人族の集落行ってる間に、家畜も到着した様だし。
鳥と山羊か……羊とか牛じゃないんだな……家畜ってぇと、何かそっちのイメージだったんだが。
そう言えば、山羊の乳って、匂いが移りやすいから、牛乳より臭いってイメージが有るとか聞いた事が有るな。その辺注意しとくか。アルコール消毒の方法とか伝えといたほうが良いかね?
「トール、さま」
ドアがノックされ、イブが入って来る。ワゴンに茶器が乗ってるのを見ると、休憩時間って事か。気が付かんかったな。
あ、そうだ。時計塔か時間を知らせる鐘塔作ろう。後でグレッソチューンと相談だな。
コポコポと、イブがお茶を入れてくれる。
こう言った作業は、主にファティマが指導してるらしい。この館に住んでる女の子達を立派なメイドに育てると意気込んでる様だが、何処を目指してるんだ? 聖武器さんよ。
「どう、ぞ?」
「ありがとう」
三人分入れられたお茶をソファーに移動して、いただく。ラミアーとイブも一緒にだ。
うん。ソファーはローテーブルを挟んで2台あるのに、何故二人して俺の両隣に座る? まぁ構わんが。
お茶請けのクッキーは、甘さ控えめで良い感じだ。この世界、お菓子ってぇと、砂糖の塊だったり果物の砂糖漬けだったりで駄々甘なんで、ちょっと苦手だったんだよな。
ラミアーも気に入ったのか、リスみたいに両手で一枚を持って端っこから齧ってる。
そう言や、この娘さんも、生体エネルギー直接搾取できるんで、食事とか要らないんだよな。食べるのは全くの嗜好と言うか。
搾取されるの、基本俺なんだが。
「これ、ファティマが作ったのか?」
何か、こう言うレシピとか詳しいんよな、アイツ。何でもメイドの嗜みらしいが、この世界のってか、現在いるメイド、こんな知識ないからな?
「キャル、作った」
少し首を傾げながら、イブが言う。マジか。アイツお菓子とか作れたんか。食べる専門かと思ってた。
「自分、で、作る方が、たくさん、食べれる、言ってた」
ああ、そう言う事ね。何か納得。
サクサクと言うクッキーを食べる音と、お茶を飲む音だけが執務室に響く。
娘さん二人が二人とも無口なタイプだから、会話らしい会話も無くただ一緒に居るだけだけど、まったりのんびりした雰囲気で、俺は嫌いじゃない。と言うかむしろ居心地が良い。
休憩を終え、書類仕事に戻る。イブはワゴンを押して部屋を出て行き、ラミアーはソファーでゴロゴロを再開。
この所、旅とか多かったから、こう言うのも悪かないな。
最初より、少しだけ、うんざりした気分が解消された俺は、もう少しだけ頑張るかと、気合を入れ直した。




