虜囚のジレンマ
「出ろ、釈放だ」
鉄格子向こうから覗くのは胡乱気な瞳。思わず溜め息が出る。
正門で整列してたのは、予想通りと言うか何と言うかトラヴィス王子派の騎士だったわ。俺は拘置所の暗い廊下を溜め息を吐きながら、のそのそと歩いて行く。無駄に疲れた。それが偽らざる俺の本音だ。
重い鉄扉を潜り、正面出入り口から外へ出ると、そこには整列した騎士達の姿。
「ああ……」
重い、本当に重い溜め息が零れた。俺の後ろから。
「本当に、出て行かなければ成りませんか……」
何度も繰り返された質問。答えなんざ1つしかないってのに、本当に何度も何度も同じ事をなぁ。
だから俺も同じ事を口にする。
「うん、迎えが来てんだからとっとと帰れ」
途端に絶望に染まる表情。
「辞めます!! 騎士は辞めますんで、ここで雇って下さい!!」
いや、辞めるなよ。俺はそう懇願して来た派手鎧達に対して、いや、どんだけ説得したと思ってんだよ、おまいら。さっき納得したんじゃないんかい! と、心の底からそう思った。
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件の王子の使者の騎士達ね、剣まで抜きやがったんで、流石に拘置所にブッ込んだのよ。で、無駄飯食わせる様な余裕なんざないんで、手前等の食い扶持くらいは手前等でって事で森ん中追い回させながら獲物を取らせた訳だ。コボルト自警団withオスローに。
コイツ等もその内、騎士団にヴァージョンアップせんとなぁ。
取り敢えずオーク中心に狩らせて、それで飯作って食事として振舞ってやった訳さね。塩豚骨背油マシマシ野菜モヤシ多めのヤツを……作ったさ豚骨ラーメンモドキ。海藻灰水の上澄みをかん水代わりにして麵打って、オーク肉で極太チャーシュー作って。
葉野菜モヤシにニンニクまでもを苦労して探して。ヴィヴィアンが。
ドワーフご謹製の大釜で豚骨ってかオークの骨、グラグラと煮込んで出汁取ってなぁ。
豚骨特有のあの匂いにニンニク微塵切りでかけてるから凄い匂いだったわ。
これぞ拘置所名物臭い飯って奴だな! ……違うか、そうか、残念だ。
まぁ、兎も角、派手鎧達、コレにハマった。中毒なんじゃないかって位ハマった。ちょっとこっちがドン引きする位ハマった。……別に中毒性のある物なんざ入って無かったよな? うん。ヴィヴィアンにも確認したが、そんな物は入ってないと太鼓判を押されたわ。何度この女が薬効高めようとしたのを押し止めた事か! 確かにスタミナ回復する材料多いがな! これ、普通に食べ物だからな!!
って、事が有ったのが巨人族の集落に行く前の話。
戻って来ての今日。一か月ちょっとぶりの拘置所での再会は……うん。何か太ましくなってたな。『これ、このまま迎えの騎士と会わせても大丈夫か?』って、ちょっと心配になるレベルで。あれ? 俺が居ない間も狩りは続けさせてたんだよな? 何でこんな事に? 犬達直伝の狩り指導がナイトメアモードなのは俺も良く知ってるんじゃが? なんであれで太れる余地があるか。
そもそも、一緒に狩りやってた筈のオスロー達は普通だったぞ、と。
まぁ、どんな状態になってようが、何時までも拘置所の部屋埋めとく訳にゃいかんから追い出すけんどもさ。
帰りたくないって駄々こねる派手鎧達に、迎えに来たってぇ騎士団の団長さんも困惑してたわ。
あの、派手鎧、侯爵家の跡取りか何からしくて、自分の手柄欲しさに独断先行したらしいんだけど、結果コレな訳だ。
何か、結構な功績を上げて辺境伯に成ったヤツが居るらしいぞ。何でも高位ポーションの原料を食い荒らす魔物の退治をしたらしいぞ。そのお陰でポーションの値段の高騰が収まったらしいぞ。そんな輩を引き込めれば、きっと王子の覚えも目出度いだろう、と。
成程、そっちか。
竜殺しは完全伝聞だろうが、確かに流通に関しては、目に見える実績として出るわな。
で、そんな派手鎧、身分も有るんで、団長さん自ら引き取りに来たんだとか。うん。ご苦労さまです。とっとと連れ帰って下さい。
ギリギリ迄駄々こねてた派手鎧達に、どうしたって報告は必要なんだから取り敢えず帰れと、おまいらの愛しの王子様が待ってるぞと、言葉を尽くして、宥めてすかし、物理的説得までして帰還させる事に何とか成功。
何か精神的にも肉体的にもタフに成ってね? コイツ等。
「私達はまた帰ってきますぞぉ!! I'll be back!!」
喧しいわ!! とっとと帰れ!!




