見てみぬフリをしたかった
魂を磨く闘いと、魂を食い潰す諍い。確かに紙一重ではあるが、それは確かに違う物だと言い切れる。
何と言うか、馬鹿と天才は紙一重的な? 似てる様に見えて全く違うって意味で。
「アンタに、魂の輝きを引き出す手伝いをして貰いたいんだよ」
「……何をすればいいニャ?」
俺の言葉に、しばらく逡巡していたバストだったが、やがてそう答えた。
「今と同じ様に、“浄化”をしてくれていれば良い」
「? ニャ?」
必要なのは覚悟で、今までの巨人族に足りなかったのは、正しくそれだ。『聖域に近付くと何かが起こる』って事は認識していたとしても、『闘志を保つ』『闘志を燃やす』って事はしてこなかったんだろう。
それは未知に対する恐怖であり、つまりは“覚悟が足りなかった”んだ。
まぁ、良く知っていた場所が、唐突に未知の空間に変わったら、そら恐怖だろうがね。
「アンタは、今までと同じ様に、この場所で過ごしてくれれば良いって事だよ。その上で、“覚悟”と“自覚”が必要なのは巨人族の方なんだからさ」
「そんなんで、良いのかニャ?」
「ああ、あんたはここで、魂を磨く者達を見守ってくれれば良い。その上で“醜い”感情を露にする輩が居れば、それは悪い戦い方をしようって奴だ。遠慮なく“浄化”してやってくれ」
競い合い、争い合っていれば、劣等感ってのはどうしても出る。ただ、その時に自身の力不足を嘆き、他者に対する妬み嫉みに変えるのか、奮起して次につなげようとするのかは本人の資質によるところが大きい。
だとしても、足を引っ張る方向に向かうのは、やられた方もそうだし、やってる本人にとってもマイナスにしかならない。
ならば、『それは間違ってる』と指摘する事は必要だと思うんだよ。
それでも直そうとはしない、直らないってのは、つまり何時まで経ってもここでは昏倒し続けるって事だし、そうなれば先には進めないって事でもある。にも関わらず、その事に気が付かないってのは、それはそれで“才能がない”って事だと思うしな。
そんな奴にまで考慮しなくちゃいけないって理由なんて本来ないんだわ。
「その位の事で構わないなら、大丈夫ニャ、了解したニャ」
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バストが了承した事で、聖域は新たな修行の場として機能する事になった訳だ。
しっかし、巨人族の集落にまで来て、やった事の結果が現状維持って……何だかなぁとは思う。
「これからは、心機一転して、さらなる向上を目指そう」
「お二人の闘い、心に刻み込みました。あれを忘れぬ様、精進しましょうぞ」
「モガー! モガモガ!! モガー!!」
深妙にそう言うタイガージョンとドゥガッシの二人。他の巨人族の皆も、頷いている。
テモ・ハッパーボ=バフォメットってことに関しては、二人共口を噤んでくれるらしい。
木に吊るされた族長に関しては、取り敢えずシカト。女衆の所に突貫カマそうとしたらしいが詳細は聞かないって事で。聞いても後悔しかしなさそうなんでな。
やる事も無くなったんで帰る事にした。何か、もうじき『なんちゃらって大会があるから、それまでは』とか言われたんだが、怠いんでパス。
そもそも俺達部外者だし。負ける気はないし、優勝しても面倒しか無い大会とか誰得よ。少なくても俺達になんのメリットもないし。
「それではぁ!! テモ・ハッパーボ様とぉ、トール・オーサキ様のぉ前途を祈ってぇ!!」
「「「「フレッ! フレッ! ハッパーボ!! フレッ! フレッ! ハッパーボ!! フレッ! フレッ! オオサキ!! フレッ! フレッ! オオサキ!!」」」」
なんかもう黒の長ランにしか見えん服装で、応援までされたわ。
そんな感じで、盛大に見送られながら帰路に付いたんよ。
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大森林の街よぉ!! 私は帰ってきたぞぉ!!
って、感嘆に耽るほど何かあった訳じゃないんだかね。
『【感慨】もうすっかり、こちらがホームといった感じですね』
「ん!」
『【当然】1から造った街なのデス! 当たり前デス!!』
「……普通に、自分達の屋敷が有るからでは?」
うん。正論だけどもよルールールー。
「うー?」
「うん? どうしたラミアー」
俺の背中に抱きついてたラミアーが、街の方を見ながら首を傾げた。
えっと? 何か人が集まってるな。そこはかとないデジャブ。
あれは屋敷の前だったけどもよ。
街の門の前に整然と並ぶのは、何か派手な鎧の集団。もう、この時点で嫌な予感しかしないんだけんどもよ。
キャンピングカーでゴトゴトと鎧集団の前まで来ると、その中から、一際派手な鎧が俺達の前へと出てきた。
「貴殿がオーサキ辺境伯か?」
まぁ、そうだけど、何よ。




