闘いの果て
殴りかかって来たバフォメットの拳を、聖斧で受け流す。
バフォメットの動きが鈍い。それは、幾度となく戦斧を交えた俺が一番理解できる。
「この程度か?」
「言ってくれる!!」
少しだけ、動きが早くなった。
それをまた受け流しつつ、一歩進む。
「クッ!!」
微妙な間合いを嫌い、バフォメットも一歩下がった。あぁ、圧が低い気迫が足りない。何時もならこの程度でコイツが下がる事なんてあり得無いってのに。
「どうした!? バフォメット! 腹でも下したか!?」
あえて煽る。
「おおよそ、食あたりであろうさ!! 要らん物を喰らってしまった様でな!!」
バフォメットの手数が増える。それを片っ端からいなす。
「ライバルットーーールこそっ! 防戦一方でははいかっ!!」
「あえてだよ!」
「知っておる!!」
更に加速。引き付けて弾く弾く弾く弾く。
「ニャァ! ウチの為に争わないでニャァ!!」
うん。違う。ある意味そうだが、違う。っと、さらに加速した!!
俺もバフォメットも、闘志が活性化する。加速する。威力が増してゆく!!
ゴギンッ!! ガギンッ!! ガゴンッ!!
硬質の物がぶつかり合う音が響き、一撃毎に重くなる拳と聖斧。
「もう一段階、上げるぞ?」
「望む所である」
ファティマに魔力外装を纏わせる。赤い刃が、煌く。
バフォメットの両腕が、深い紫色に染まって行く。
ゴッッッッッ!!!!!!
「ニャアァ!!」
衝撃波が空を揺らし、お互いに弾かれ、間合いが開く。バストもそのあおりを喰らい、後ろに転がった。
ビリビリと両手がしびれる。そう言や、怪人態のバフォメットとやり合うのは初めてか。
身体も温ったまって来た。
さあ、ここからが本番だ。
ファティマを∞を描く様にブン回し加速させる。バフォメットの拳を弾きながら加速加速加速。
バフォメットの方もヒットマンスタイルに構えを取り、フリッカーを連発する。
衝撃波を撒き散らしながら聖斧と拳がぶつかり合う。
『【保護】【詠唱破棄】魔法名【マジックシールド】デス!!』
「ん!! 【詠唱破棄】【マジックシールド】!!」
イブとジャンヌが巨人族とバストに【魔力障壁】を張っているのが見える。俺のやりたい事を理解してくれている。有り難い!!
体内循環を濃く、速く、練り上げる。バフォメットも自身の力を活性化させる。
ぶつかり合い、泳ぎそうになる身体を強引に立て直し、更にぶつかる。
お互いに、半歩踏み込む。圧が、強くなる。
ゴゴッゴゴゴッ!!!!
連続する炸裂音が空気を切り裂き轟く。
「クククッ」と言う声が、喉から漏れる。打ち合いに成ったバフォメットの口許に笑みが見える。多分、俺も同じ様な顔に成っているだろう。
「すげぇ……」
「ああ……」
タイガージョンとドゥガッシの声が聞こえる。ああ、幼児退行から戻った様だな。
刹那、バフォメットと視線が合う。大振りな一撃。交差、ぶつかり合い後退る。
足を止めての打ち合いから一転、お互いにステップを使い、再びの打ち合い。
手数と重さはほぼ同じ。ならば、効率良く当てた方が良い。
実直な打ち合いだった先程とは違い、虚実入り混じった攻防。避け躱し、フェイントを入れ打ち返す。
お互いに音速を超える攻撃。防御力に任せて、衝撃波を無視での実弾だけを避ける。
相手よりも早く、重く、自身の全てを使い。
体内循環をさらに濃く、速く。濃く速く濃く速く濃く速く濃く速く濃く速く濃く速く……
目まぐるしく攻防が入れ代わり、入り込み、躱し、回り込む。
攻撃を交わし合う度に、お互いの動きが加速する。
俺の石突での突きに合わせたバフォメットの右。弾ける様に間合いを取る。
乱れた息を調える。
「どうだ?」
「成程、コレが目的だったか。ライバル、トールよ」
先程とは違い、活力を取り戻しているバフォメット。バストの聖域が弱まったって訳じゃない。その負荷を受けていてもなお、何時も通りの状態まで戻ったってだけだ。
「結果、命を失う事になろうが、闘いに全力を掛けるのが、お前だろうが。最初から決死の覚悟でなんて、らしくもない」
「……成程、吾輩は、そこまで余裕を無くしていたか」
バストに襲い掛かっていた時のバフォメットは、相打ち覚悟ってな状態だった。
それはこの場のデバフにかかってたってのも有るが、バストの“攻撃”によって、彼のオドが枯渇しかかってたからだ。
バフォメットの様な半精神体にとって、オドってのはそのまんま生命力でもある。
そう言う意味では、バストはバフォメットにとって天敵だった訳だ。
だからこそ、俺はバフォメットのオドを回復させる事にした。
ニーズヘッグを討伐した時、バフォメットは、オドを活性化させるには、生命力自体を活性化させれば良いと言っていた。
ならば、話は簡単だ。バフォメットの生命力を活性化させれば良い。
そしてそれは成功した様だ。
闘う事で生命力が回復するなんて、どうにもバフォメットらしいよな。
そして、この事には、もう1つ意味がある。
「ふむ、元より、オドが増えている様だな」
負荷トレーニング。あえて身体に負荷を掛けてトレーニングする事によって、トレーニング効果を高める訓練だ。
バフォメットには、実地でそれを体感して貰った訳だ。
「……成程、ライバル、トールは、この有用性も示したかったのだな」
そのバフォメットの言葉に、俺はニヤリと笑みを浮かべた。




