相まみえる
ブワリッと、多幸感が強くなる。バストの力が溢れたんだろう。コレが、彼女の戦い方って事か? 体内プラーナの循環を加速させ、ソレに抗う。
見れば、イブ達も気合を入れ直している様だ。
何の敵意も見せない相手に武器を突きつけるってのも結構きついもんだな。畜生。こんな戦い方正直意味が分からんわ!!
だが、怖ろしい攻撃方法であるのも確かだ。敵対する気も起きず、幸せを感じながら滅びるしかないってのは。
はたしてバスト本人は、この攻撃方法の恐ろしさを分かっているのか?
いや、分かってないんだろうな。彼女の頭の中に有るのは多分、『みんな仲良しで平和な世界』ってだけのもので、むしろ、彼女のコレが、“攻撃”に成っているって事にすら気付いて無いのかもしれない。
物理的暴力で攻撃をされないから、だれも肉体的には傷つかないから、だから幸せな世界……彼女がどんな生き方をして来たのかなんざ俺には分からない。だが、酷く素直で純真なんだろうってのは理解出来る。
そんな生き方をしていたからこそ、戦わなければ生き残れないなんて世界に考えが及ばないのかもしれない……
そんな風に考えていると、背後からゾワリと神経をヤスリで撫でられた様な気配を感じた。
「クククッ、ライバル、トールは、随っ分っと甘い!! いや、その甘さが有って尚、自らっを高められるのだからっ吾っ輩っは気に入っているのだがなっ!!」
そう言って、怪人態のバフォメットがバストに襲いかかる。
やっぱり、バフォメットの【恐怖】かっ!!
「ニャニャ!! 止めるニャ!! 暴力反対ニャ!!」
「たわっけたっ事を!! 一方的に攻撃して来ておいて、止めろ? 暴力反対? ふっざっけっるっなと言おうっ!!」
「ウチは暴力なんてふるってないニャ!! 言いがかりニャ!!」
バフォメットの攻撃から逃げ惑いながら、バストがそう言う。ああ、やっぱり、コイツ、自分のやって居る事が攻撃に成っているって事すら気が付いて無かったのか。
怒り心頭と言った様子で攻撃を仕掛けているバフォメットだが、やはり、その動きは精彩を欠いて居る。間違いなく、バストの能力の影響を受けてやがるな。
さて、どうする? 間違いなく理解していないバストを物理的に排除した所で、暴力に対する嫌悪感を募らせるだけで何の解決にもならない。
バフォメットは、彼女の完全消滅を望んでいるんだろうが、多分、俺が加勢しなければ、それ程経たない内に力尽きそうな感じだ。
それ程今のバフォメットは力が減衰している。
バストは精霊だと言う。正直精霊ってのがどんな存在なのかは分からんが、おそらく魔族同様、半精神生命体なんだろう。
その意志が、心の持ち様が力になり、存在となる生命体。
バフォメットとバストの有り様は水と油、交わる事のない正反対の性質だ。
バフォメットの力が減衰しているのも、それが原因だろう。怪人態となって尚、攻撃が音速を超えられない程に弱っているのがその証拠だ。
彼女にそんなつもりは無かったのかもしれないが、バストの先制攻撃が思いの他バフォメットに刺さっている。この場を彼女の聖域と化された事も含めて、バフォメットにとっては致命的なデバフとなっている様だな。
『相性が悪い』そうバフォメットは言っていたが、成程、これは相性が悪い。
バフォメットが協力を仰いででも、バストを討伐したいと思うのも当然な気がする。
だがね……
ゴッ!!!!
「何の、つもりだ? ライバル、トール」
俺は、バフォメットとバストの間に割って入った。
「『何のつもり』も何も……やろうや、一戦。なぁ」
「ほう?」
バストが、俺の背後で目を丸くする気配を感じる。
俺の仲間達も、驚いた様に目を見開いている。
さっきまで敵対していたにも係わらず、こうして手の平を返している様に見えるんだから、当たり前だ。
確かに、バフォメットと協力してバストを討ち滅ぼせば終わるってぇ話かもしれない。
だが、40年以上日本人として生きてきた俺の前世が、例えお花畑な精霊だったとしても、無抵抗な相手を一方的に追い立てる事に嫌悪感を抱いているのも確かだ。
もっとも、それだけが理由じゃあ無いがな。
ファティマを構え、バフォメットと対峙する。周りの者達は困惑している様だが、俺の精神と直接繋がっているファティマとジャンヌは、俺のやりたい事を理解してくれた様だ。
イブとミカとバラキ、そしてラミアーは、分からないながらも、俺の事を信頼して見守ってくれるらしい。
そんな俺の行動に、バフォメットは何かを感じたのか、ニヤリと嗤った。




