警告
なまじ言葉が通じるってのが拙い。相手の言葉が納得できる物であるってのがなおさらだ。
バフォメットは戦闘意思や意欲、戦闘に対する向上心ってのが存在意義でもあるから対抗できるが、俺の仲間は、それ程戦闘に対する執着はない。
その為なのか、ルールールーは既に敵対して良いのかって感じでオロオロしてるし、戦闘に前向きでない犬達も困惑している。
俺がこうして対抗する意思を見せてるおかげでイブとミカとバラキは言わずもがな、ファティマやジャンヌ、ラミアーと言った俺を信じて着いて来てくれる者は抵抗している様だな。
うん。戦闘好きなウリは何もしなくてもやる気を漲らせてる。流石は戦闘狂。
「何故戦おうとするニャ? 全ての者が武力を捨てて、平和で文化的な生き方をすれば、世界は平和に成るニャ?」
「愚問だバスト、抗わなきゃ掴めない物が有るから、抗ってるだけなんだよ俺は。それが闘いだと言うなら戦う。ただ、それだけだ!!」
そう言いながらもプラーナを加速させる。母親の胸に包まれてる様な心地良さに抗う為に。何も考えず、幸せに浸っている事は確かに幸福と言って良いだろう。
だが、現実にはそんな幸せに浸っているだけじゃ、飲み込まれ、押し潰されるしかない理不尽って物が確かにある。あの邪竜だってそうだし、ニーズヘッグだってそうだ。
それだけじゃない。ベスティニアス侯爵の件やトラヴィス王子の事だって唯々諾々と従い搾取されるつもりなんざないからこそ抗った。
傲慢な話だが、その時、コイツが居たとして、俺の助けに成ってくれたか? 答えは否だろう。バストの能力の使い方を見ると、その場を“浄化”する事は出来ても、人間に対しては個人差が大きい様だし。だとすると、喧嘩はダメだと、お互いに妥協させて、その上その場限りで終わった筈だ。
それに邪竜は、アレは邪竜には単なる食事であって、闘いのつもりもなかっただろうしな。
ただ決して、バストの主義主張が間違っているとは言わない。だが、俺には必要ない。
ただ、それだけだ。
「ファティマアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」
『【了解】サー!! イエス!! サー!!』
全発動からのファティマ及びオファニムを装備。ケルブはジャンヌマウントでの待機。
イブは後方でミカとセアルティはその護衛。
そしてウリとバラキが遊撃手。そんな感じでフォーメーションを組む。
最前線の俺は聖斧を担ぎ、バストに向かって話し掛ける。
「引く気は無いか? 正直、俺の用事はそれで事足りるんだが」
「な、何を言ってるニャ」
バストはここに『闘争の気配が強い』と言った。この聖域と言うのは、巨人族が“戦いを奉納”する場所であるらしい。
だからこそ、ここに闘争の気配が集まり、残っているんだろう。要は、この場所が巨人族が自らを高め鍛え上げ様とする為の精神的な支柱の一つなんだろう。
スピリチュアルな物言いに成るが、そう言った気力を高められる場所と言うか、いわゆるパワースポット的な場所と言う事だ。
その為に、この場所が有る事で、自然と“やる気”と言う物が高められていたとすると、ここを失った場合、いや、現状を見ている限りは、“やる気を失う”場所となった場合、その影響力ってのは大きくなるんじゃないか?
もし、単にやる気が無くなるってだけなら、それ程問題は無いだろうが、それが、あのたれきょじん族に成るレベルだとすれば、冗談抜きで種族滅亡の危機でもある訳だ。
「俺は、話の通じる相手とはあんまり戦いたくはねぇんだよ。大人しく出てってくれれば、追いはしない。さぁ、どうする?」
そう言って、バストにファティマを突きつけた。




