精霊というもの
ええっと? つまりバフォメット達魔族が超個人主義の集団なら、バスト神……いや精霊って事なら“神”は可笑しいのか。バスト達精霊は全体主義で平和主義って事なのか? バストの言う争いってのは何処までの範疇なんじゃろ?
問答無用でタイガージョンとドゥガッシを『たれきょじん』にしちまったことを考えると、“あらゆる”闘争って可能性も有るんだよな。
それとも、アレはパッシブで、制御できてないだけなんかね?
俺は『戦争』を肯定しないが、『競争』は必要だとは思ってる。そもそも、この世界。戦わなければ生き残れないなんて場面、腐るほどあるからな。
チラリとイブを見る。一度は全てを諦めたこの娘が、それでも生きる事を再び決めたあの日、俺の服を掴む事に、どれだけの勇気が必要だっただろう。諦観が入交り、高々一歩を踏み出す事が出来なくなる。新たな生き方に踏み出す、その恐怖は俺にも経験がある。もっとも、前世での話だがな。
上司と険悪に成って辞表を叩きつけた時も、その後人間不信気味に引き籠った後、それでも仕事に出なけりゃ成らないと決めた時も……結果フリーターと成った上に孤独死を迎えた訳だが……
だとしても、あの時に一歩を踏み出した事に、今も後悔はない。
だからこそ、あのスラムで動く事の出来たイブには尊敬の念を持っている。すでに大人だった俺と違って、彼女の世界はソコだけだった筈なんだ。
その世界から一歩を踏み出した。そこには葛藤がどれほどあったんだろう。
抗う事を諦めた彼女が、抗う事を再び戦う事を決めた。その決意に敬意を表する。だからこそ、バストの『全ての戦いを否定する』と言う言葉には頷く事が出来ない。
その結果が、今全ての闘争心を失くしてヘタレ、じゃなく、へたり込んでる巨人族の二人の姿だと言うならなおさらだ。
「で? そのバステトは、何故ここに?」
「……子供? そこの魔族!! 何故こんな可愛らしいお嬢ちゃんをこんな所に連れてきたニャ!!」
……イブとラミアーの事だよな? 流石にお嬢ちゃん扱いはされた事ねぇし…… よし、おまいら『そうだったの!?』的な目で俺を見るのは止めて貰おうか!!
「ふん!! ラッイッバッルットーーーーーーーールッの事であるなら、決まっておろう!! 邪ッ悪なっ精っ霊を消滅させる為っだっ!!!!」
俺の事かよ!! しかも2回も!! 親父にだってお嬢ちゃん扱いされた事なんて無かったのに!! 生まれた直後以降会って無いがな!!
いや、問題はそこじゃねぇ。
「悪いが俺は男だし、確かにアンタをどうにかする為に呼ばれたんだがね」
俺の言葉に、バストは目を瞬かせる。
「ウチはこの場所に溢れる闘争の気配を止める為に来たニャ。争いは何も生み出さないニャ。だから、その気配が一番濃い、この場所を浄化してるニャ」
チラリとたれきょじん達を見る。ぐでっとしてるって言うか何か赤ちゃん返りしてるって言うか。“浄化”とやらでああなってるんなら、結構やばい感じじゃね?
「分かるであろう? ライバル、トールよ!! 奴がどれだけ危険な存在か!!」
「争いを失くすって方法がアレならな」
戦いの意欲な失くす。それは相手の更に上に行こうって言う意欲を失くすてぇ意味では、向上心を失くすって事と同義だ。
バストはつまり、そう言った物を消失させているって事なんだろう。
それと同時に、いわゆる敵意と言う物も喪失させているんだろうな。この場でバストに対し戦闘意欲を保てているのは俺とイブとラミアー、ミカとバラキとウリ、ファティマとジャンヌ。そしてバフォメット位か。
その他はたれきょじん達ほどではないが、バストと敵対する事に躊躇いを見せ始めている。
まいったね、これは結構不味くないか?




