次の一手
徹底的に投げ飛ばされたジョン少年(7才)は、大泣きをした後、蹲ってしまった。
日本で言えば小学校2、3年位か? まぁ、年相応な態度ではある。
むしろ、今の今まで歯を食いしばって立ち向かっていたんだから、むしろ根性がある方だろう。
ジョン少年と一緒にいた少女はレミカと言うらしいのだが、彼女の方はオスローに向かって、とにかく平謝りして来た。
ジョンと同い年位か? やっぱ、女の子の方が精神年齢高けえよな。
それはともかく、ジョンに生贄になって貰ったおかげで、他の子供達はオスローに突っかかる事無く、言う事を聞いてくれるようになった。良い事だ(悪い笑み)。
とりあえずは食事にするか。イブが用意してあったスープを皆に配る。乳児には温めたミルクだ。俺を抱っこしてるイブを見たおばちゃんが調達してくれた物である。
世間の情けが身に染みるね。
教会農園の芋が豊作だった事も有って、スープの中は野菜がゴロゴロしてる。食べている子供達もみんな笑顔だ。まぁ、食べた分は働いてもらうがな。
食べた後は全員、風呂に入って貰う。そのままじゃ、汚すぎるからだ。世間に受け入れてもらう為には最低限の身だしなみってもんがある。
それと、衛生対策ってやつだ。灰汁に獣脂を混ぜた石鹸を使って、身体を洗って貰う。ここでは水は使い放題だしな。イブのお陰で。
灰汁と獣脂の石鹸は、石鹸と言うにはドロッとしていて泡立ちもほとんどない。その上どうも獣の匂いがキツイ。それでも、洗い物で使えば綺麗にはなるし、身体を洗えばすっきりする。
どうにかして植物油を調達したい所だ。
イブの浄化をかけてやっても良いんだが、まだまだ威力の強いアレは、かけた場合の影響が怖くて人に対して使えないからな。
そう言えば、イブは魔力装甲も上手く纏えなかった。威力がデカすぎて。纏う度に暴風が吹き荒れるとか、どんな最終兵器だよって感じだわ。
それはともかく、ついでに服も新しい物に替える。体洗っても服があれじゃ意味がない。
元の服は浄化をかけてから糸へ戻させてもらおう。
彼等には明日からは働いてもらう。
5歳以上の子は、準冒険者登録をして貰い、門の外へ。
それ以外の子は教会農園のお世話だ。森から採って来た土を畑へ鍬き込んでもらおうと思ってる。
芋類は連作障害が起きやすいからな。
当然、外のリーダーはオスローで、中のリーダーはイブ。
明日以降は、オスロー班には採取をしながら戦闘訓練もして貰い、イブ班には毛皮を売った金で糸と布を買って服を縫って貰う。
今ある服だけじゃ全然足りないし、針子なら、それなりに仕事が有るんだとおばちゃんが言ってたからな。手に職を付けさせようって事だ。
俺? 俺は何時も通りミカ達と狩りをしながら鍛錬ですが何か?
日々の家事や毛皮の鞣し、保存食作りに畑の世話、石鹸や服作り、やる事なんていくらでもある。
手が足りなくなったら、また同じ様に孤児を引っ張って来ても良いだろう。
「子供に労働なんて」って前世では児童虐待だなんだと言われそうだが、生きる為に働くのがスタンダードなこの世界では、子供だろうと何だろうと働いて貰わなけりゃならんのですよ。
そもそも、ここ、子供しか居ない訳だしな。俺も含めて。
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新体制で生活を再スタートし、それなりに時間が経過した訳だが、思ったよりも上手く回っていた。思ったよりも準冒険者の仕事は少ないが、食うだけなら俺とミカ達が狩りに出れば良いから問題はない。
因みに依頼の料金は、一旦俺が全部回収して、お小遣いとして年齢毎で再分配。当然だが、イブとオスローにはちょっと上乗せで。
搾取じゃないかと思われそうだが、そうしないと、外と中で働いてる子供達の格差が大きくなるから仕方のない処置だ。
そもそも、衣食住はこっちが持っている訳だし、依頼に必要な物も俺が用意してる訳だしな。
依頼の無い日は、イブとオスローに頼んでジョン達を鍛えて貰っている。今後どんな職業を選ぶとしても、体を鍛えておけば何とでもなるし、魔法を使えれば、色々と役に立つからだ。
教会菜園は、既に中庭いっぱいにまで広がっている。実はあの後、噂を聞きつけた子供達がさらに合流して来たからだ。即座に作物は育たないが、後々の事を考えて増やした訳だな。
当然の様に、入って来てすぐに力を誇示したがるヤンチャな子供もいたが、それはジョンの時と同じ運命を辿った。なむさん。
ただ、増えた子供達の中に、やっぱりイブがお世話に成ったって言う女の子は居なかった。その事でイブが凹んでるが、俺には慰める事しか出来ない。
あまり引き摺らなきゃ良いが……
そんなこんなで、特に目立ったトラブルなく生活は回っている。準冒険者の子供達に絡んでくる奴なんかは居たが、そう言う奴等はオスローに頼んで路地裏に引きずり込み、キッチリとOHANASHIさせて貰った。
おかげで、オスロー、『新人潰しキラー』って二つ名がついたが。
「ししょう~」
「そんな目で見られても俺にはどうにも出来ん、諦めろ」
うん、目立ったトラブルはない。これなら、次の段階に進めそうだ。
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「……誰だ?」
実用一辺倒な頑丈な机に座った強面のオッサンが、書類を書く手を止めて、梁をねめつける。
「俺は俺だ。今は素性は明かせない」
「チッ、随分と長い間忍び込んで来てた様だが、やっと、おしゃべりする気になったのか?」
ああ、やっぱり気付いてたんだな。冒険者ギルドの支部長室、その梁の上で、俺は納得する様に頷いた。
俺の下にいるのは、ここのギルドマスター……冒険者ギルド公都支部のトップな訳だ。そしてそんなギルドのマスターに用事があって、俺はこんな所に居る。
名前はグラス・ゴーシュ。冒険家上がりだけど、名誉男爵の地位にいるお貴族様でもあるそうだ。オスローの情報では、だ。
俺が冒険者ギルドに忍び込んでいると、その度に威圧感を感じる事がしばしばあった。特に最初の頃は。後になればなる程その回数が少なくなったのは、俺の気配隠しが上手くなったからってだけじゃなく、“害がない”と見逃されてたからって訳だ。
まぁ、その位の技量と器量と度量が無けりゃ、一組織のトップなんてやってられないんだろうがな。
「まあね、ちょっとばかりお願い事があってな」
「……それをオレが聞くと?」
「上手く行きゃ、ギルドにも益がある話だからな」
「なら、正面から来やがれ、顔も見せずにされた“お願い”なんざ、碌なもんじゃねぇって相場が決まってる」
確かに、向こうの言い分の方が筋が通ってる。
「俺の顔を見た方が厄介事が多くなるって言ってもか?」
「ッハ!! だとしても、だ。信用の置けない輩を相手にするより、よっぽどマシってやつだ!!」
まぁ、そうだよな。正体は明かせないが頼みごとを聞けなんて言う奴の話なんか、俺でも聞かねえ。
仕方ない、覚悟を決めるか。
「分かった。ただし、俺の事は秘密にして貰いたい」
「……良いぜ」
含みのある言い方だが仕方ない。
「是非も無し」ってやつだ。俺は梁から飛び降りると、グラスの前にその身を晒した。




