濃ゆいよ巨人族さん
商隊が発って、しばらくしてから俺達も出発した。スピードは抑え気味。巨人族の息遣いは昨日より多い。元気だな。アイツら。
朝一って事も有って、手綱経由でプラーナをケルブとオファニムに与えながら、のんびりとキャンピングカーを操作する。
イブとルールールーは簡易キッチンで朝食の洗い物。【水魔法】と【浄化】を使う事でのイブの魔力の操作の練習も兼ねて。得意分野は散々伸ばしてるから、苦手部分を補完しようって感じか。【浄化】は未だにフラッシュするし。
その為に、今はファティマとジャンヌが俺の両隣に座り、ラミアーが定位置に。
キャンピングカーの周囲を走るミカやバラキやウリにガブリ、それとラファとセアルティを眺めながら、ちょっとまったり。いや、気を抜いてる訳じゃねえからな?
「……そう言えば、俺等は山賊とか襲ってこないのかね?」
『【当然】冒険者をあえて狙って来る盗賊と言うモノは居ないでしょう』
そう言われればそうか。冒険者ってのは要は荒事のプロでもある。そんな輩を襲おうとか、よっぽどの自信家か、よっぽど生活がひっ迫してるか、それとも、そんな事を考え付く頭も無いかの三択だ。
『【追従】この馬車を襲おうなんて思うのは、よっぽどのバカだけデス。オーナー』
ちょっと後ろを振り向いて、前に向き直る。うん、納得した。逆立ちした巨人族がぞろぞろと付いて来る様な異様な集団、襲って来るわきゃないな。
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結局、巨人族の集落まで、何事も無く着く事が出来た。その途中、約束通りバフォメットとの模擬戦を行った訳だが、何かその度に巨人族に傅かれ度が増して行った、いや、まぁ別に良いんだが。
「確認されたし!! 戻って来たぞ!! この、タイガージョンがっっ!!!!!!」
剥き出しの岩山と言って良い、その山間の谷に、タイガージョンの声が響く。眼前には重厚な黒い木製の門。流石は巨人族の使う門と言うべきか、見上げる様な大きさだ。
流石にこの大きさには目を瞠る物が有ったのか、イブとルールールーがポカンとして口を開けていた。ラミアーは相変わらず俺に抱きついたままゴロゴロと喉を鳴らしているが。
……何か猫化が進んでねぇか? コイツ。
そんな愚にもつかない事を考えていると、門の上部から黒い人影が飛び降りて来た。
ズズンッ!! と言う音を鳴らし、そいつらが着地すると、現れたのはどいつもこいつも無駄に濃ゆい巨人族。
筋骨隆々なのは言わずもがな。何故にそろって上半身裸なんじゃろか? あんま、家の娘達の教育的に良くないもんは、見せたくないんじゃが?
その内のボッサボサの髭面が一歩前に出ると、タイガージョンも前へと進み出た。逆立ちのまま。
「良くぞ帰って来たな!! タイガージョン!!」
「お前も元気そうだな!! ドゥガッシ!! 里は変わりないか?」
「うむ!!」
そう言って、ドゥガッシとやらはタイガージョンから差し出された右足をガシッと掴むと、握手(?)を交わす。いや、いい加減逆立ち止めろよタイガージョン。そしてドゥガッシはそのまま受け入れてんじゃねぇよ。それともこの里じゃ、この程度普通なのか?
「して、この者らが?」
「うむ、S級冒険者のテモ・ハッパーボ様と、竜殺しのトール様御一行だ」
「何と!!」
オーバーリアクションでドゥガッシが叫び、その他の奴等が騒めく。
「フッ、信じられぬのも仕方ない。だが、事実だ!! ワシは何度も、その力量、この目でしかと見て来た!!」
「ぬうっ」
タイガージョンがそう言うも、やはり信じられないのかドゥガッシは腕を組み、眉根を寄せた。
『【憤懣】失礼な者達ですね、やってしまって良いですか? マスター』
『【確認】一発、デカイの行っとくデス? オーナー』
「やめとけ」
と、腕を組み、目を瞑っていたドゥガッシが、カッ! と目を見開くと言った。
「ならば!! その者には【一発開門拳撃試】を受けて貰う!!」
「な、何ぃ!!【一発開門拳撃試】だとぉ!!!!」
ドゥガッシの言葉にタイガージョンが驚き、周囲も騒めく。
いや、何それ?




