アイツ来るってよ
「そ、そうだよ!! トールってドラゴンスレイヤーの名前だよ!!」
「え! でも、さっきC級冒険者だって……それに黒鎧なんじゃ……」
「一緒に戦ったテモ様が嘘を吐く理由の方が無いでしょ!!」
「いや、それより、もっと気になる事が……」
「な、何と!! 辺境伯様だとぉ!!」
「え!? お貴族様!!」
「ちょ、オレ、すっげェ失礼な事を!!」
「「「リーダー、サヨナラ」」」
「ちょ!!」
何もしないよ?
なんか一気に騒がしく成ったな。つうか、様付けなんなバフォメット。流石はS級冒険者。
てか、こう言う権力チラつかせるのはあんま好きじゃねぇんだがね。それも、相手が納得せずにごねるから仕方なくってんなら兎も角、納得して丸く収まりそうだったってんのにさ。
まぁ、的確に致命的なタイミングを狙ったんだろうがね。流石は魔族。致命的な一撃は外さんわ。
てか、『戦慄の稲妻』の連中、マホガニー後ろから押して矢面に立たせて、その背中に隠れるって言うか、生贄に差し出してると言うか。仲良いな、おまいら。
それに商人のべネックも真っ青な顔でペコペコと頭を下げてる。
だから、何もしないよ?
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どうやらべネックにしてもマホガニー達にしてもさっきより落ち付いた様だな。
「別に気にせんよ。俺は」
「と言いつつ、国に帰ったとたんに、賞金首に成っておるやも知れんぞ」
「「「「ひっ!!」」」」
「止めれ」
「ふ~む、ここまでやってもダメか」
ああ、コイツなりに煽ってたんな。選択肢が的確過ぎて怯えさせる結果にしかなってないが。
「色んな考えの人間が居るんだよ、何処までも上しか見ないヤツだって居るし、そこそこで満足する人間だって勿論いる」
「そんな事、吾輩とて分かっておる。だがな、勿体無かろう? まだ伸びる代が有ると言うのに燻っているのを見るのは」
うん? 成程、そう言う事か。『戦慄の稲妻』の連中は、中堅ではあるが、バフォメットから見るとまだ伸びしろが有る様に見えるのか。
そんな彼等が、現状に甘んじている事が不満だったんだな。確かに、そう言ったオドを好物とするバフォメットからしたら、それは許せる物じゃ無いよな。
まぁ、それに関しては燻っている訳じゃなく、現状に満足してるだけだと思うが、それでもコイツからすれば、足踏みしてる様にしか見えない訳だ。
「あ、あの、テモ・ハッパーボさんは、何でこんなに苛ついていらっしゃるんですか?」
「ちょ! リーダー!!」
マホガニーがこそっと聞いて来る。仲間の魔術師っぽい少女が慌てて止めに入ろうとするが、俺はそれを笑って止めた。
「勿体無いんだと。アンタらはもっと上のランクを目指せるだけの才能が有るってのに、その地位で満足してる事が、さ」
「え? さ、才能!? オレ達に!!」
マホガニーが驚いた様に自分を指さす。
「テモが言う限りはな。ただ、コイツがそう言うなら、それは真実だと思うぞ」
そう言った事に貪欲だからな、コイツ。オドを喰らえるからだけじゃなく、そう言った相手を好ましく思う質だしな。
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依頼の事もあるんで同行って訳にはいかない。ぶっちゃけ、こっちを頼りにされても、それは“寄生”に成るって話だし、もし何かあったなら、俺達も助けなくちゃいけないからな。
その代わり、『戦慄の稲妻』の連中とは、再会の約束をした。今の護衛依頼が終わった後に俺の街に来るって話になったからだ。
そこで、バフォメットに訓練を付けて貰うって事らしい。何で俺の街? とか思ったら、バフォメットも暫くは俺の街に滞在するって事にしたんだそうだ。マジか。
「どの道、バルバドスからは、ライバル、トールの動向を見て来てくれと言われて居ったのでな」
「マジか……」
バルバドスって傭兵国冒険者ギルドのギルマスで、バフォメットと同じ“魔族”だったよな。そんな奴にまで目を付けられてんのか俺は。




