気持ちは分からんでもない
やって来た商人らしき人物は、逆立ち巨人族を見て、ギョッとしたが、直ぐに気を取り直して、こっちに視線を向けた。
「君達の責任者はどなたかな?」
うん? そう言や誰に成るんだ? 一応、俺達は、巨人族の頼みで動いてるんだから、彼奴等の筆頭であるタイガージョンか?
そう思って、タイガージョンを見るが、首をブンブン振った。逆立ちしたまま器用だな。
だとすると、1番冒険者ランクの高いバフォメットかとも思うんだが、アイツ、交渉とかするタイプじゃ無いからな。
と成ると。
「決まってないな」
俺がそう言うと、商人の人は奇妙そうな表情をした。
「ええと? なら、どなたか大人の方は?」
「ご指名だぞ! テモ・ハッパーボ卿!!」
「チッ」
舌打ちで応えんなや。
まぁ、俺の身内は全員が少年少女にしか見えんからな。成人しているかって言われれば、俺は公称ではそうなっているってだけで実際は5才児だし、ラミアーが年齢不詳だけど、メンタリティーを見る限りだとまだまだ子供だ。
巨人族は大人達なんだろうけど……この場で決定権は持っていないに等しいってか、いつの間にか下になってたな。何でじゃろ?
そうなると、消去法でバフォメット一択なんよな。
ただ当の本人は、酷く面倒臭そうな表情で表に降りてくると「で、何用だ?」と、横柄に訊ねた。
なんちゅうか、美形は美形なんだが、不貞腐れてる様な表情の裏に、元の山羊顔が透けて見えて面白いな。
「おお!! お初にお目にかかる! 私は帝国で商人をやらせてもらっておるベネック・ハンドラーと言う者です。テモ・ハッパーボ様!! ご高名な貴方様にお目見えできた事、真に嬉しく……」
「だから、何用だと聞いてる」
「え、えぇと……」
何か不機嫌だな。あー、そう言う事か。
「テモ、後で模擬戦でもやるぞ、肩慣らしに、だからな」
「ほう? そう言う事なら、我慢するかね」
俺とバフォメットとのやり取りを不思議そうに見ていた商人だったが、バフォメットの機嫌が良くなった事を感じ取り、話を進めた。
まぁ、あれだ、バフォメットの機嫌が悪くなったのは、この場に俺達以外で、どん欲に戦闘力を高めようとする意思を感じられなかったからだろう。
当然だが、商人に戦闘力なんてものはそれほど必要はない。
今みたいに冒険者を雇えば良いからな。
それに関しちゃ、エクスシーア商会も同じだ。もっとも、今は、オスローを筆頭に、護衛出来る戦力も育てているらしいが。
まぁ、それは今は関係ないか。
なのでバフォメットが苛ついた原因は冒険者の方だろうな。見た所、中堅の冒険者。それなりに良い装備をしてる所を見れば、それなりに安定した生活が送れるレベル。
それ故に安定を取った。もちろん、それが悪い事じゃあ無いんだがね。
さっき、俺が助けた時に見せたのは明らかな安堵。まぁ、それは良い。その後、俺がランクで言えば下であろうにも係わらず、彼らに嫉妬だとか反骨心だとか言うものは見られなかった。
それ故に、バフォメットには気に入らなかったんだろう。格下に助けられたにも係わらず、何も感じなかった彼等の事が。悔しいとか、それならオレもとか考えようとすらしなかった彼らの事が。
まぁ、奮起した彼等のオドを喰らえなかったからかも知れないが。
「いや、断るが?」
「え? そ、れはなんとも……本当に?」
俺が考え事をしている間に何か進展があったらしい。
狼狽えるベネックと溜め息を吐くバフォメット。
うん? どんな状況だ?
「なぁ、あんただって冒険者だろう? 困っている人間がいるなら助けようって思わないのか?」
「護衛は貴様らの仕事であろう? 良いのか? その男は、貴様らでは力不足だと言っているのも同然なのだぞ?」
「うっ」
バフォメットの言葉にで、マホガニーが声を詰まらせる。
成程、あの商人が、バフォメットに護衛を求めたのか。
まあ、実際、直接交渉は、認められていないわけじゃないが、横紙破りではある。
特にバフォメット……テモ・ハッパーボみたいな高位冒険者が好き勝手に依頼を受けていたら話にならないからな。
それに、商隊が事前にルートの情報を集め、それに適した護衛依頼を出しておくのもある意味当たり前の事だ。
なにせ、それを怠るってぇ事は『自分は情報集めも精査もできない無能です』と喧伝している様なものなんだから。
それ以上に、向上心のない『戦慄の稲妻』の連中に、バフォメットは苛立っているんだろう。
まぁ、分からなくもないが。
だが、バフォメットが何かする前に手助けに入っとくか。面倒だけど。




