聖王国からの帰路
聖王国の周辺諸国は群雄割拠して居る様だけど、その混乱は流石に聖王国の中にまでは及んでいないらしい。
盗賊やら山賊やらに襲われる事も無く、馬車の旅は割と順調に進んで行ったわ。
強いて言えば、一日中馬車の中に居るんで、移住者の皆が暇し始めた事ぐらいか。
なんで移動の最中、手綱はファティマ達に任せて、俺は取り敢えず大人の方には何ができるか聞き取りをしつつ、家の領地に来た後は何がしたいのかの意識調査。
子供の方には藁半紙と鉛筆を与えてお絵描きなりなんなり。とか思ってたんだが、お絵描きとは何ぞやって言うね。
想像以上に娯楽って物がなかったんやな、小国群。仕方がないんで書き込んでできる遊びのレクチャー。
三目並べとか棒取りとか。双六を教えようとしたら、そもそも文字どころか数字すら分からないって事が発覚して、急遽、読み書き算数を教えたりしてみた。いや、数字そのものは数をかぞえるって形では分かってるんだが、数字を読んだり、それを使って計算したりがね。
読み書き算数については、一部大人も食いついたが。
江戸時代の日本でも双六なんかをやってた事を考えると、結構文化レベル高かったんだな江戸時代。てか、江戸の街か。農村辺りだと押して知るべしってレベルだったらしいし。
そんな感じで移動中もアレコレしつつ、休憩で体を伸ばしてたらリティシア嬢が来たんで雑談。
その最中「トール様は、お優しいんですね」とか言われたが、何の事じゃろ?
言葉的に裏読みする様な物も感じんかったんで、そのままの意味だと思うが、優しい? 俺が? 偽善者ではあるから、優しそうには見えるだろうが、実際に優しいって訳じゃない。かなり利己的だし。
リティシア嬢が、そんな事も分からん筈はないんじゃがな。
そんなこんなで港まで到着。
ファストランドで香辛料やら土産やらを買い込み、ついでに移住者の服も買い込んで出港準備完了。
リティシア嬢とはここまででさお別れ。流石にこれ以上付き合わせる訳にもいかんからな。
「で、大丈夫なんか?」
「え? はい、公爵家には色々と特権が有りますから、もし戦時下に成ったとしても交易は変わらず続けられるとお約束しましょう」
「いや、でなくて、アンタ本人の話だよ。あんま危険な所とか行って欲しくねぇし」
俺がそんな事を言うと、リティシア嬢、一瞬、驚いたような表情に成ったが直に扇子で口元を隠し、目元を綻ばせた。
「そんな事ばかり言っておられるから、口説いてる等と思われるのですよ?」
「普通に身の安全を心配しただけだよな!?」
え? 俺、知り合いの心配すらしたらあかんの!?
「その容姿で、強くて優しいなんて、ズルいですよ?」
そう言って上目遣いで見てくるが、ズルいと言われてもなぁ。てか容姿? いや、第二夫人譲りの整った容姿だってのは自覚が有るが、いわゆる美形とまでは言えん程度だぞ? 俺。
あと、強さに関してはそれだけの努力を重ねてきた自負があるが、優しいと言われる程、優しかないんだがね。
グラス辺りからは良く、鬼、悪魔って呼ばれるし。
納得いかなさそうな俺に、リティシア嬢がクスクスと笑いをこぼす。
クンッと袖を引かれ、見ればイブが俺の腕に絡みついていた。足元にミカとバラキ。背中にラミアー。そして後ろに侍るかの様に立つのが、ファティマとジャンヌ。何だこれ?
「心配なさらなくても、わたくしでは“役者不足”なのは分かっていますよ」
ああ、牽制ね。いや、リティシア嬢が俺に好意的なのは分かってるんだが、それでも根っからの高位貴族の彼女が、『そう言った感情』を俺に抱かないだろうし、もし抱いたとしても、それを優先しないってのは分かり切ってる事だ。だからこそ、必ず壁一枚を作ってるんだし。
もし、恋愛感情的な物を優先して、俺と婚姻を結びたいとか考えているんなら、むしろ、ああいう言い回しはしなさね。
それこそ、エリス並みに後ろで手を回して、逃げ道を塞ぐ様に立ち回るだろうさ。
だからこそアレは、『自分はそういった方面でもアドバイスができますから、今後とも宜しく』ってぇ、意味合いの方が大きい。
貴族的言い方だから、所謂庶民であるイブ達だと理解し難いかもしれんが、ファティマとジャンヌ、おまいらは分かるだろうに。
「まぁ、リティシア嬢が問題無いってんなら、それを信じるさ」
「はい、有難う御座います。トール様も御自愛を」
「ああ、そっちもな」
俺がそう言うと、リティシア嬢はニコリと笑った。
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リティシア嬢と別れて、帰りもエクスシーア商会で保有している船の一隻で内湾を渡る。
今回は、船上で暇する事が分かっていたんで、端っからバカンスモード。バナナボートの他に水上スキーや釣竿なんかも用意していた。
うん。なんも釣れませんでしたが? てか、プラーナビームで撃ち殺した方が早かったわ。
今回もトビウオとソードフィッシュの襲撃が有ったんだが、今回は弾幕シューティング感覚でプラーナビームで対応。点数出てたらハイスコア狙えたんじゃなかろうか? 移民の男の子及び男親と、船員に偉く受けた。やっぱ、こう言うガンシュー的何かってのは『オトコノコゴコロ』と言うヤツをくすぐるらしい。
獲れた魚があまりに大量だったんで、すり身にして蒲鉾とさつま揚げを作った。移住民の女の子達も手伝ってくれて。塩味だけで何でこんなに美味しいんじゃろか?
それでも余った物は塩漬け及びオイル漬けにして瓶に密封。これで街に帰るまで持つと思うんじゃが、どうだろう?
何にせよ、海さえ渡っちまえば、領地まであと少しだ。
色々お土産もあるし、帰ってゆっくりしたいものだわ。




