遊んでれば垣根って無くなるからね
腹さえ膨れれば、元気に成るのも早いのは子供達だ。
何と無く勢いを持て余してうずうずしてた子供を遊びに誘うと、彼等は素直について来た。当然、大人達から見える場所までだが。
イフスの郊外は広い農地が有る以外は馬鹿みたいに何処までも続く平原だけだ。所々に木々が茂ってる場所はあるが、その規模だって、林と言うのもおこがましいって程度。
いや、木、自体は2本以上有るんじゃが、だからと言って林かと言われれば、ねぇ。その理論だと3本有れば森になるし。
だがそれでも何が有るか分からんので、子供達にはそこには行かない様にと言っておいた。って、言った所で行く奴とか居るんじゃがね。なんで、そこはミカ達に見張ってて貰う。
難民のリーダーの男は、ジッと俺達の方を見てはいたが、特に何かを言うという事も無く、黙ったままだったが、件の声の大きい男が何やら喚いて、周囲の人間に窘められていた。
あー、うん。工作員ってか買収された村人かな? 知ってる相手っぽいし。工作員にしては行動がお粗末だ。いや、そう見せかけた工作員? それとも工作員にスケープゴートにされてる村人?
まぁ良いか、どうでも。その辺。
何も無い平原なんで、鬼ごっこから始まって、警ドロ、達磨さんが転んだ、馬飛び、etc……色々やったが一番ウケたのがジャンケンて。
いや、ジャンケンの概念すらなかったのは予想外だった。教えた結果、最強決定戦にまで発展するとは、このトールの目をもってしても見抜けなんだわ!!
いや、ジャンケンに強いとか弱いとかやっぱあるんな。ただ運が良い悪いじゃなくて、何か一瞬の間に相手の性格読み切って、次に何を出すのか判断してると言うか、何か、そう言う先読みが得意な子がおるねん。同じ村出身らしいから、お互いの性格を知り尽くしてるってのもあるとは思うが。
その証拠に、俺やイブ、アミアー相手だとそんなに勝率は高くない。
そしてラミアー【精神感応】禁止な。
「むう」
そんな感じで大ジャンケン大会、大盛上がり。商品とか出ないのになぁ。うん。楽しかったわ。
うぬう、ジャンケン、俺が思ってたよりも奥が深い。
遊んでいたいのは山々だが、日も傾いて来たんで夕飯の炊き出しの為に抜ける事にした。この短時間でも、結構、慕ってくれる子供とかできた。特に女の子達は、炊き出しの方を手伝ってくれると言ってくれてる。有難い事だ。
「ありがとな」
そう言ってニヤリと笑うと、照れてるのか顔を赤くして俯いたり、友達同士でキャーキャーと声を上げたり。
「トール様、いい加減行く先々で女の子を口説くのは止めた方が良いですよ」
「むうっ」
「とーる?」
何処に口説く要素が有った!? イブが腕にしがみ付き、ラミアーが背中から抱きついて来る。何か難民グループの女の子達と火花バチバチ飛ばしとる様に見えるが、その前に先ず、俺、口説いてなんぞいないからな?
『【嘆息】マスターは相変わらずですね』
『【溜息】無自覚なのがオーナーらしいデス』
おまいらも何言ってるかね!? 俺、感謝の言葉を述べただけなんじゃが!?
ちょっとすったもんだが有ったが、ちっちゃい子のお腹が鳴った事で、一先ず終息し、みんなで料理へと突入できた。いや、ホントもう、何故そうなった。
しかしまぁ、今日は、遊んだ遊んだ。こんなに遊んだのなんざ前世の小学生以来だわ。
教会ではなぁ、どうしても仕事優先だったからなぁ。久しぶりに童心に帰ったわ。いや、俺、子供なんだけどさ。
******
「希望者を募ろう。確実に送ってくれるんだよな?」
難民リーダーがそう言って来たのは、夕食が終わってまったりしてる時だった。俺としては何も問題はない。けど、元々はリティシア嬢が俺に持って来た話なんで、取り敢えずルールールーに彼女を呼んで来て貰う事にした。
その後は話し合いっちゅうか、双方の確認くらいか。移住希望者を募って、リティシア嬢が諸所諸々の費用なんかを負担しますよって事で纏まったわ。
希望者を募る為に去って行く難民リーダーの背を見送っていると、リティシア嬢の溜め息が聞こえた。
「……トール様、どうやって懐柔なさったんですか?」
「何もしとらんよ。腹が膨れたから余裕ができたんじゃね?」
そう言うと、扇子をパンッと開いたリティシア嬢が、ジト目で俺を見て来た。何かこう、結構な割合でジト目で見られる気がするんじゃが、何でじゃろか?
「強いて言えば、中に入って行動を共にするって大切なんだって事かねぇ」
「中に入って、ですか」
共通の話題とか有ると仲間意識を持たれやすいってアレだ。ただ、これはリティシア嬢の立場だと難しいやり方ではあるがね。
高位貴族である彼女は、どうしたって庶民とは一線を引かなきゃならない。そんな彼女が、彼等に対して「何々をしてあげましょう」って言うのは、どうしても上から目線に成らざろうを得ないからな。
そうなると、どうしても立場が下の人間には“施し”の様に感じられちまうし、そうなれば、反骨心の高い人間ほど、反発したくなっちまうんだ。いや、まぁ、俺も今は辺境伯だけんども、そもそもが孤児じゃし、色々例外って事で。
「それだけでは無い様ですが?」
チラリ、と一緒に料理をしたからか、すっかり仲良くなったイブやラミアーと難民キャンプの女の子達を見た後、俺に視線を戻したリティシア嬢のジト目さ加減が強くなったが、いや、他に何かあったっけか?
「他に理由って、何か有るのか?」
本当に、他には思い付かんのじゃが?
「はぁ、そう言う事にしておいてあげましょう」
しばらく扇子越しに俺の事をじっと見ていたリティシア嬢だったが、ため息一つ落とすと、そう言った。
いや、『しといて』て、全く納得して無い人の台詞だよね? 俺、本当に何もしとらんのだけれども!?




