一路聖王国へ
「本当に、良かったのですか?」
「うん? うん」
何がと問われれば、俺が難民のお迎えに行く事だ。普通の感覚で言えば、街で待っているのが正解なんだろうけんども、最近デスクワークばっかで体動かせんかったからな。
遠出って事でイブとミカ達も一緒。ルールールーは俺のお目付け役だから当然来たんだが、何かラミアーも一緒になぁ……多分トラブルから残ってて貰いたかったんじゃが、頑として譲らんかったんよ。
仕方ないんでウイッグ使用。例の樹脂液使って布に髪の毛貼り付けただけの簡単仕様。
急遽制作なんで結構蒸れるらしく、ラミアー嫌がったんだがこればっかりは譲れない。最終的には渋々頷いて貰った。
何せラミアー見た時のルティシア嬢の反応が凄かったからね。『か、神御子様が!!』って。
そうか、神御子か。
まぁ、いくら禁色とは言え、生まれて来た物に対してまでは如何こうしないだろうとは思ったけど、逆に祭り上げる存在に成るとはね。って事は、前に聖王国に飛ばされて時に、身体能力向上を使って無かったら、俺も祭り上げられてたんかね? ……うん。あの時の俺グッジョブ!
神御子ってのは、地上における神の化身で、力を分け与えられた者であるらしい。ただ、その与えられてる力ってのは結構ランダムなんで、光を司る神を信仰する教会は、神御子が誤った道に向かわない様にする為に、発見したら即保護をしないといけないんだとか。
まぁ、要は囲い込みだ。ラミアー見てると分かるが、あれだけの超能力を使えるのが野放し状態って、こう言う迷信が払拭できていない文明レベルだと恐怖の対象に成る事もあり得るし、逆に利用しようとする輩も居るだろうしな。教会がどっちなのかってのは言わずが花って事で。
そんな理由でルティシア嬢、結構ソワソワして、ラミアーを保護したがってたんだが、そこはそれ『家は家、余所は余所』って事で通させて貰った。ラミアーの事を黙っててもらう事も報酬の内って事で。
国の政策には反対はしてるが、ルティシア嬢、結構敬虔な信者っぽい。いや、宗教関係者が全て胡散臭いって訳じゃないんだが、カルトとかのイメージがね。前世でのカルト宗教、色々やらかしてくれてたからあんまり良いイメージがね。
それとは関係なく、家のラミアーは神御子じゃぁ無いよと。哺乳類ネコ科吸血鬼の不思議ちゃんなんで。霊長類ヒト科神御子とは別物なのですわ。
そうは言っても人の認識なんて早々変わるもんでもないらしく、ラミアー同行するって事で結構なソワソワ加減。あれか? 『有名人に会っちゃった』的な?
家のコボルト達見習って頭柔軟にしてほしい所だわ。
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聖王国側に行く為の船が出る港の町、ポルワールに着いて気が付いたんだが。
「あ、キャンピングカー乗せられねぇじゃん」
この世界の船、前世のフェリーとかと違って車をそのまま乗せられる様には出来てない。ルティシア嬢達も、馬車はこっちと向こうで乗り換えるのだそうだ。
船自体はエクスシーア商会とルティシア嬢が個人的に懇意にしている商会との共同出資で購入した物の一艘なんで、乗せる分には問題はないんだが、小舟で近付きロープで引き上げるって関係上、小舟に乗る大きさと重量じゃないと乗せられん訳だ。
これがケルブ位までであれば何とか成るんだが、流石にキャンピングカーはな。
『【平気】ふっふっふっ、大丈夫デェス! オーナー!! こんな事も有ろうかとデェス!!』
ちょっと待て、嫌な予感以外しないんじゃが!?
ゴゴギギカガガ再び!! ケルブが御者台部分に収納されたかと思ったら、そのまま海にダイブ。タイヤが水平に倒れ、そのホイール部分から布が出ると一気に膨らみ着水した。
『【得意】名付けて形態名【マリンモード】デエエェェス!!!!』
いやもうほんと何処目指してんのよおまいら。
『【屈辱】これはもう本当に仕方のない事だったのですマスター。あの変態の手を借りるのは痛恨の極みだったのですが、こうでもしなければ車を置いて行かねばならなかったのですから』
ホント、ファティマ、お前マトスン嫌いな。でもまあ、その情熱だけは認めるけどさ。
海にプカプカ浮かぶキャンピングカーて、あれだな、南の国のコンドミニアムっぽいよな。え? で、これで海、渡るの? 流石に自殺行為じゃね?
『【御願】では、マスター操縦を』
「え? これ、俺が運転すんの!?」
『【疑問】逆にオーナー以外、誰が運転するデス?』
いや、確かにそうなんだけどさ、これで航海て、無理じゃね? とか思ってたんだが、ファティマの指示で船に近付いて行ったら、何かケルブがワイヤーフックみたいなん射出して、それと多脚使って器用に船に上がれたわ。
……うん。このキャンピングカー、どこに向かってるんだろうなぁ。
因みに、折角ラミアー連れて来てんだから、こいつの【念動力】で運んでもらえば良かったんじゃね? って事に気が付いたのは、夜寝る前にウトウトしてた時だったわ。
うん。思わず飛び起きたよ。




