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聖王国からの来客

 聖王国からの客人を迎えたのは、そんな忙しく政務をしてる最中だった。


「まさか、あんたが来るとは思わなかったな」

「いえいえ、仮にも魔人族国女王の婚約者候補であり、私達との大手の取引のある方が、辺境伯なんて地位に着かれたのですから、下手な者を使者にはできませんわ」


 ホホホと上品に笑うのはケモ耳オプションのオルネスティア公爵令嬢。つまりはルティシア嬢だ。

 うん。エクスシーア商会を通して結構な取引はあるし、乾燥させた海藻やらクズ真珠やらを安く輸出して貰ってる。

 代わりにこっちからはドワーフが加工した貴金属製品やら貴族用の製品のあれこれを輸出してる訳だが。化粧品はねぇ、需要はあるとは思うんだけど、何か月も品質を保証できないんよね。真空パックとか作れないかね? 出来そうな気もするけど。 後でエクスシーアやマトスンと相談だな。


 それとさ、エリスの婚約者候補って所は否定したい所なんだが、否定できないのも確かなんだよなぁ。それでなくとも地位的には釣り合う様に成っちまってるし。この国でも、魔人族国でも。


「ふうん? で、本音は?」

「……トール様は、もう少し貴族の会話を楽しめるようになりませんと」

「俺、現役冒険者なんだが?」

「そう、でしたね。ですが、今は貴族でもありますでしょう?」


 さいですか。出来んこたぁねぇけど、今は忙しくてなぁ。そう言や、ここの遺跡(ダンジョン)の“扉”使って色んな所冒険に行こうとか思ってて全く行けてねぇやん。


「直接挨拶をしたかったというのも本音なのですが、実は、少しお願いしたい事がございまして」

「ふうん?」


 正直、聖王国の公爵令嬢様からのお願いとか全く想像もつかねぇな。彼女が国の方針である周辺諸国の侵略侵攻を良しとは思ってない事は知ってるが、それだけっちゃそれだけだ。

 取引は取引として商売はさせて貰ってるけど、それだって、いわば仕事上の付き合いってだけで、彼女のプライベートに係わるって訳じゃない。

 今の様子を見れば、商売上の取引でって訳じゃないのが伺い知れる。だからこそ読めない。


「……ご存知の事だとは思いますが、我がゲンゼルキア聖王国の周辺では争いが絶えません。その為、家や祖国を焼かれた難民が出ているのですが……」

「……引き取って欲しいってお願いか?」


 ルティシア嬢が、『なぜそれを』みたいな表情をするが、ちょっと考えれば分かるだろう。そしてこれは国政と言うより、彼女個人のお願いなんだろうな。

 普通であれば人道支援的に援助を要請するところなんだろう。ただね、周辺諸国から漁夫の利的に土地やら何やらを掠め取りたい聖王国としては、()()()()()()()()()()()()


 それは、それだけ憤懣が多いって事だし、絶望して居る者。困窮して居る者が多いって事でもある。

 多くの場合宗教ってのは“救い”だ。人間の手に負えない、運命なんて物を人知を超えた存在に委託するって行為でもある。

 確かにそれで救われる者も居るだろうが、大半は現状に絶望したまま縋りつくだけに成る。目に見えない希望って物にな。


 それが、死後の救いなのか、現世利益なのかは、その宗教によって変わってくるだろうが、ただ、そこに至るまでには大量の死と絶望が有るって物は確かだし、そこに手を差し伸べてくれる存在は、確かに希望になり得る。

 そして、その縋って来る者の数が多ければ多い程、その力は強くなる。


 だからこそ、聖王国は手を差し伸べても()()()()。より大きな力を得る為に、だ。


 難民の多さは絶望の多さであり、それは、目に見える絶望そのものでもある。こう言った物は、善性の強い者の方が精神的に()()。と言うか、相当に独善的な人間や悪性の強い人間でも無けりゃ、多少は良心が痛む物なんよな。


 だからこそ、宗教的には付け入る隙が出来る訳なんだけんどもよ。

 聖王国的には、そこを利用する事で色々と姦計を用いようとしてるんだろうけど、ルティシア嬢的にはそれは許せない、と。

 支援要請で無いのは、それで集めた資金やらなにやらも、聖王国の政策に使われるだけだし、難民の助けには成らないって事が分かってるからなんだろう。


 例えば、その支援物資でその場はしのげても、聖王国自体は難民が増える様に立ち回ってれば、何の解決にもならないなんて事は明らかだ。

 そもそも、聖王国的には、少なくとも()()そう言った連中が増えてくれる方が、今後の計略がやり易く成る訳だからな。


 だからこその個人的な“お願い”。それを俺に持って来たのは、俺が今、領民を募集してるって話をどっかで聞いたからだろう。


 確かにこんな事、使者を立てるって訳にはいかない。何せ国政どころか公爵家の方針からも外れている事だろうからな。

 俺の記憶が確かなら、公爵様は、侵略侵攻自体には反対して無いどころか、『良いぞもっとやれ』って人だった筈だ。反対してるのはそれで予算を使い過ぎるって事にだけだ。


 ぶっちゃけ、国の利益って物を考えれば公爵の考えの方が正しい。ただルティシア嬢の方が甘いってだけの話なんだわ。


「けど、嫌いじゃない」

「え?」

「話に乗るって事だよ。だけどさ」

「何でしょう? ああ、報酬なら不足なく出すと誓いましょう、その、御望みであれば私の……」


 うん。そっちは要らない。ってかおまいさんはそう言うキャラだったか? てか、報酬(それ)に関しちゃ心配はしちゃいない。そう言った事については、今までの取引で、ルティシア嬢はキッチリしてるってのは分かってるからな。


「で、なくて、難民の方に、ちゃんと話は通しておいてくれって話だよ。それができるのは、ルティシア嬢、アンタだけだからな」

「……はい、それは確実に」


 そう言って、ルティシア嬢はどこかつまらなさそうにニコリと笑った。


 いや、何考えてたんだ? ホントに。

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