結果が凄かったら『思い付き』じゃなくて『インスピレーション』と呼ばれる
それは、ちょっとした思い付きだった。
「そう言えば」と言う程度の事だし、俺自身、これ程の威力が出るなんて思ってもみなかったわ。ホント。
自分が突き抜けたせいで幹に大穴を開けた大木を前に、俺は呆然としてしまう。
一緒にいたミカ達は何が嬉しいのか大騒ぎをしているし、さっきまで修行の為に巻き藁を木剣で叩いていたオスローは、真っ青な顔で大口を開けている。
「やっちゃった。てへ!」
「『てへ』じゃないですよ!! 師匠、あんた何してるんですか!!」
「いや、新技思い付いたんで、つい……」
「思い付きでこんな事されたら、他の冒険者の人とか、立つ瀬無いですってば!!」
「それは良いけど、お前、さっきの一撃、ちゃんと刃が立って無かったぞ? それやってると、ダメージのロスも大きいし、手首痛めるからな」
「え? はい……じゃなくて!!」
チッ、誤魔化されなかったか。
でも、やだなぁ、まだ0歳児の俺ができる程度の事だぞ? ちゃんとした冒険者なら、鼻唄混じりに耳クソほじりながらでもやれるって。
まぁ、オスローにしてみれば俺が唐突に大木に穴をあ開けた様にしか見えないんだから、混乱するのも分からなくはない。
ちなみに、この間からオスローは、俺の事を“トールさん”から“師匠”と呼び変えてる。トール“さん”呼びだって大概だと思うが、イブからの圧力が凄くて、呼び捨てが出来なかったらしい。
イブは本当に、俺の事を何だと思ってるんだろうか? この間、4時間ほど語り合った所では、恩を感じてくれている事は分かったが、とにかく俺は“トールさま”なんだそうだ。
うん、全く呼び方は変えてくれなかったわ。
二人ともに外面的におかしい事になるから止めて貰いたいんだが、頑として受け付けてくれない。
特に、コイツが外で師匠呼ばわりしてると、イブも外でさま付けにしようとするから本気で止めて貰いたいんだがな。
いっその事、俺の名前をシショーにするか? トール・シショーとか?
アカン、最高にセンスの無い名前になる。ダメだ。
さて、今俺がやった事だが、身体の内と外から能力強化をしてみたってだけの話だ。前にイブが盛大に魔力を吹き出させてるのを思い出し、同じ様な要領で「体に魔力を纏わせる事とかできるんじゃね?」と思ってやってみた。
……魔法は使えないくせに、こう言った事はあっさりと出来やがる。コンチクショウ。
もっとも、魔力操作は散々やってたからな、応用だと思えば、ある意味、出来て当たり前かもしれないが。
で、纏ってみたのは良いが、「それで?」って話ではある。
いや、マジで纏わせたから何って話じゃん。これ、加速させても身体の表面で動いてるだけだし、細胞に注入してる訳じゃないから、活性化してる訳でも無いし。
ただ、純粋魔力でも、物理的に物体に干渉できる事は分かってる。
でなければ、イブが魔力放出した時に、あんな風に暴風が吹き荒れたりはしないからな。
そう言う訳で、この纏わせた魔力も物理的に干渉できるだろうと思った訳だ。こう、魔力装甲みたいな感じで。
最初こそ「それで?」って感じだったが、色々と試行錯誤を重ねた結果、魔力の密度を変えられる事が分かった。
当然だが、魔力密度が高い方が物理的干渉の度合いが高い。
体に沿う様に、薄皮一枚分の魔力を高密度で纏う様にしたら単純防御力が上がったっぽい。岩やら木やらを殴っても痛みを感じなくなった。
オスローに木剣で切り掛かって貰ったけど、多少響くかな? って感じだ。
これは、イブとかにも習得してもらわねば!!
さらにこの状態で身体能力向上を掛けると、石を叩き折れるようになった。0歳児の俺がだぞ? この強化がどれ程凄い物か分かるだろう。
たぶん、無意識に体を守る様にして居たんだと思うが、その枷を魔力装甲が外してしまった様だ。
で、それならその状態で魔力装甲を流動させたらどうなるんだろうって考えて試してみた訳だ。
俺がその時イメージしたのは子供なんかが良くやる特撮ヒーローとかそう言うヤツ。それを思い浮かべながら、脚の先にエネルギーが纏わりついてギューンって音を立てながら回転しているってイメージで大木に飛び蹴りをかまして見たら、この惨状な訳だ。
どうやら纏った魔力がパワーアシストスーツみたいな役目を果たしてしまったらしい。それも、ドリルアタッチメント付きで。
何故ドリルかって聞かれると困るが、カッコ良いじゃんドリル。ギュンギュン回転するドリルでキックとか、最高に男の子心くすぐるじゃん。宇宙に飛び出すヒーローなんか、もろにドリルだったじゃん。
まぁともかく、魔法は相変わらずだけど、順調に成長はしてるんじゃね? これなら、角熊リベンジの日も近そうだな。
そう言や、角熊もなんかファンタジー的名前が有るんだろうか? ゴブリンみたいな。
ちなみに、この間、森で狩って来た角兎はアルミラージと言うらしい。オスロー曰く「兎の癖に凶暴な肉食獣」だとか。
角熊は毛皮しかないからなぁ、さすがにその状態だとオスローにも判別は付かないみたいだな。なんか、心当たりは有るらしいが、「いや、まさか、いくら師匠でも」とか言ってたから、違うっぽい。
冒険者ギルドに持って行けば鑑定してもらえるかも知れないが、鑑定料が掛かるし、名前なんぞ知らんでも狩る事は出来る。
近いうちにリベンジマッチだ。新技を叩き込んでやらぁ!!
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それはそれとして、今日も干し肉作り。ウリは獲物を獲り過ぎだと思います。
最近は屋台で仲良くなったおっちゃんおばちゃんに、獲って来た肉のおすそ分けとかしてたら、いくらか野菜とか分けて貰える様になったらしい。イブが。
俺は、相変わらず人との接触は最低限にしている。
紅かろうと白かろうとバレれば拙いのは変わらないからな。本気で、この街から拠点移そうかなぁ?
だが、少なくともオスローとキャルが独り立ちできるまでは面倒を見ないとな! 大人として!!
まぁ、俺、今、乳児なんだがな!!
オスロー兄妹を拾ってから2か月余り、森での修行の合間に採取の依頼をこなす事で、オスローは順調に貢献度を稼いでいるらしい。
社交的なキャルの方は、屋台のおじちゃんおばちゃん連中に可愛がられている。幸いと言うか、魔法的な能力は人並みらしく、普通の魔法なら“タクト”有りなら発動させる事が出来た。
それを使って、イブと同じ様にお駄賃を稼いでるらしい。
タクトは魔法触媒と言われているものらしく、魔法を発動する際にそれの補助をする、一応、魔道具なんだとか。
ちなみに“魔法の杖”は、ソレの上位互換。発動補助だけじゃなく、増幅、制御もしてくれるんだとか。
俺も、タクトには一度触らせてもらったよ。うん、魔法は発動しなかったが。
森で狩って毛皮にした素材を売った金はそこそこの額になった。銀貨6枚と大銅貨2枚。日本円に換算すると32'000円位か。
屋台で串焼きとか買うと、一本で銅貨2枚、日本だとそれで160円位だから、銅貨一枚で80円換算での計算だ。
宿代が、平均、大銅貨3枚、2'000円をちょと下回る位の金額なんで、半月ほどは泊まれる額になる。
俺達は住む場所と、食事に掛ける金額はあまり考えなくて良いから当分はしのげるだろう。
そもそも、今回売った毛皮の数、2枚ずつを4回に分けて売ったから、合計8枚だけなんで、まだ半分程度は残ってるしな。
赤銅のゴブリンライダーの噂が出始めてから、もうすぐ5ヶ月になりそうだが、未だに噂は広まったままだ。むしろ、噂の内容が具体的に成って来たくらい。
何か、きな臭い感じだ。




