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新生児×新生犬

第二話目です。

 手が、手が痛い。膝もだ……

 あれからどれ程経ったのだろうか? 雨は本格的に降り出し、容赦なく体温を奪って行く。


 雨空の下、俺は必死で生きる為の歩みを進めた。決して後ろを振り返らないと決めて………………後ろを見ると、未だにさっきまで居たごみ捨て場が見えて、挫けそうになるからじゃないからね! 断じてな!!


 しかし、予想より歩みが遅いのも確かだ。それに手足が結構限界っぽい。後、首も。

 想像以上に世界は新生児にとって厳しかった!


 あれ? もしかして俺詰んでる? あ、いや、生後1日目でごみ捨て場の時点であれなんだが……


 うおぉ! 疲労のせいかネガティブに成ってる! がんばれ! がんばれ俺! できるできる! やれるやれる! 俺ならやれる! 生きろ! 生き残れ俺!! 俺こそこの世の富士山だ!!


 ……ふう。危なかった、『修○式ポジティブ術』を駆使する事で、何とか前向きになれた様だな!


 とにかく、どこか雨のしのげる場所に行かないと。

 首を上げ視界を巡らす。石造りの壁と壁に挟まれた狭い路地裏。

 その上、地面はぬかるみ始めた土が剥き出し……やっぱり、ここって日本じゃないのか?

 そんな疑問が俺の脳裏にむくむくと湧いて来る。父親や母親の格好からして、俺の知る日本の物とはあまりに掛け離れた物だったから、その疑念はあったのだが、こうして街の細かな所を見ると余計にそう感じる。

 海外旅行とかをした事は無いが、建物の感じを見るとアメリカやアジア圏の国々よりもヨーロッパとかイタリアとかの、いわゆる石造りの町並み方が近いのかもしれない……イメージ的に。


 まぁ、この際どこでも構わない。俺のやらなくちゃいけない事なんて決まっているからな!

 どこか雨露の凌げる場所は無いかと視線を巡らすと、教会の様な場所を見つける……こんな路地裏で教会?

 確かに不審だが、上手くいけば捨て子として拾って貰えるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら、俺は、その教会に急いだ……ハイハイだがな!!


 ******


(あーうん、そうだよな……)


 近付いて見て分かった事と言えば、ここがおそらく破棄された教会だって事だった。うん、そうだよな、こんな路地裏にある教会なんてそんな感じだろうな。

 だが、だとしても雨を凌げると言うだけでもありがたいのは確かだ。

 俺は半ば朽ちかけた木製の扉の隙間から中へ入る。中はかなり埃っぽい……ハウスダスト症候群とかに成らない……よな?

 少し寒いが、どこか適当な場所で丸まるしかないか……幸い俺は素っ裸だ。濡れた服で体温を奪われると言う事も無いだろうしな! ……いや、例えボロ布だったとしても欲しいのは確かなんだが……


 中に入って気が付いたんだが、何やら臭い。いや、こんな朽ちた教会なんだから、臭いのは当たり前なんだが、これは何と言うか雨でずぶ濡れになった犬の匂いと言うか……

 いや、そのまんま犬の匂いだろう。たぶん野良犬でも住み着いているのかもしれない。


 俺は音を立てない様に、抜き足差し足で教会の中を調べ回る……ハイハイだがな!!


(お?)


 そうして見付けたのは親だろう雌犬1匹と、そのオッパイに吸い付く仔犬が5匹……


 って、オッパイ!?


 その瞬間、俺は、風に成った。


 おおよそ新生児だと思えない跳躍力で母犬の所までジャンプをかますと、その、開いていた乳にむしゃぶりついたのだ。

 生まれて初めての飯だ!! この機会を見逃したら、今後、何時飯が食えるか分かったもんじゃない!!

 驚いたのだろう、母犬は、ビクリと身を震わせたが、しかし、俺はオッパブで鍛えたテクニックを駆使し、母犬の腰を砕けさせ、オッパイにしゃぶりつく!!

 フフ、人間様のテクニック、思う存分味わうが良いわ!!


 ******


 数分間の格闘の上、俺は母犬のオッパイを心行くまで堪能した。

 母犬? それなら、俺の隣で寝てるぜ?


 それはともかく、この時に成って俺は仔犬が5匹じゃなくて6匹だったと初めて気が付いた。

 6匹目の仔犬は直ぐ近くで倒れていたのだ。他の仔犬よりも一回りは小さいその赤ちゃん犬は、おそらく未熟児で、まともにオッパイにまでたどり着けなかったんだろう。


(かわいそうだとは思うが、これも自然の掟だ)


 生まれてすぐに死んでしまった事に、もしかしたら自分もそうなっていた可能性を重ね合わせ、沈痛な面持ちに成って居たんだが……


(ん?)


 死んでいるとばかり思っていたその赤ん坊が、ピクリと動いたのだ。


「!!」


 死んでしまったのなら仕方が無いと思っていた。だが、まだ生きていて、それを助ける事の出来る俺がここに居る。そんなの……助けるに決まっている!!

 俺は、ハイハイでその仔犬に近付くと、何とか母犬の所まで引っ張って行こうと試みる。

 その身体は思っていた以上に小さく、軽い。新生児の俺でも引っ張って行けるくらいにだ。


 顔を乳首の所まで持っていってやると、ピクピクと反応はするが、それ以上は動いてくれない。

 そうこうしている内に、ぐったりしていた母犬が頭を起こすと仔犬の事を舐め始めた。

 そして鼻先で自分のオッパイに寄せてやる。そうして乳首に仔犬の口が当たると、その仔犬は初めて口を動かし始めた。


 おお! マザー!!


 聖母じゃ! 聖母が御光臨成された!!


 それまでの飢えを満たすかの様に、仔犬がオッパイに吸い付いている。

 これなら大丈夫だろうと俺が思っていると、母犬の顔が眼前まで迫っていた。


 あれ? さっきまでは必死だったから気が付かなかったけど、これって、もしかして絶体絶命のピンチ?


本日あと一話投稿します。

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[一言] 「父親や母親の格好からして、俺の知る日本の物とはあまりに掛け離れた物だったから、その疑念はあったのだが、こうして街の細かな所を見ると余計にそう感じる。」 産まれて、捨てられるまでに両親の顔…
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