相手の土俵に乗ってみた
国王が俺に『大丈夫か?』ってな感じの視線を送って来る。うん。これは『勝てるか?』ではなく『手加減できるか?』って方の『大丈夫か?』って視線だな。
オーケー、大丈夫だ。俺、COOL。超、COOLだから。圧倒的実力差ってヤツを見せ付けてやんよ!!!!
銀髪イケメンの下らない演説が終わると、見学者の中に、『成程、流石はアルフレド殿だ』みたいな空気が醸し出されていた。
確かに優秀そうだな。口先だけは。チラリと見れば、軍務卿も満足そうに口元を歪ませている。
「……良いぜ? 鎧と武器は使わない……イブ、ケルブを下がらせてくれ」
「んっ」
俺の言葉にイブが素直に従う。彼女の表情からは、俺が負けるとか、傷を負うとかって事を微塵も考えて無いって事が分かる。ケルブにマウントしたままのファティマも黙ったままだ。
それと同時に、俺の左右に侍っていたイブとバラキも一撫でして下がらせた。
後ろを見れば、ウリやガブリも、全く心配してる様子を見せずにこっちを見ている。
「ん? アーティファクトは使用禁止だとは言ったが、通常の模擬戦用の武器なら、使っても構わないよ?」
素手で構えた俺を見て、銀髪がそう言う。模擬戦用……刃を潰した致命傷を負わせ難くしたやつだよな? で、自分は真剣ってか槍だけど、を使ってて、こっちにはそれを勧めるのか。
何か、近衛騎士の人達なんかは、何か言いたそうにしてるが、国王が何も言わない所を見て、沈黙を保ってる。
仲悪いんかね? 兵士と騎士。
まぁ、良いけど。
「これで構わんよ」
武器すら持とうとしない俺の言葉に、銀髪が口元をヒクリと引き攣らせる。余裕を見せろよ三下。
軍務卿が、面白くもないと言った感じに鼻を鳴らすと、銀髪に向かって顎をしゃくり、『やれ』と指示を出した。
「痛かったからって、泣かないでくれよ?」
そう言って槍を構える銀髪。まるで子供に言い聞かせる様な話し方だな。あ、俺、公称は兎も角、見た目は子供だったわ。
あれ? そうすると、周囲から見た俺って、玩具振り回してヤンチャしてるガキそのものに見えるって事か?
うわっ、ちょっとへこむ。
って、そんな事考えてる場合じゃなかったわ。
特に『始め!!』とも『開始!!』とも号令の無いままに、銀髪が槍を構えて俺に突っ込んで来る。
騎士達からブーイングが飛ぶが、卑怯、とも言い難い。実戦であれば特に。
第一今回、一言こっちに声をかけからだし、黒に近いグレーだとは思う。
むしろ、お綺麗に事を進めようとするよりは好感が持てるわ。おそらく勝てば『実戦では『開始』なんて掛け声は無い。そんな事を期待する様な甘ったれた精神ではやっていけない』的な事を言って、“俺が悪い”みたいな方向に持って行くつもりなんだろう。
だがね、それって、自分達の思惑が全て上手く行った場合の話だって、分かってるのか?
腰を落とし、腰溜めに拳を構える。纏う魔力外装は最低限。体内循環はひたすら早く。狙いは無造作。だが、足から連動した動きには、全ての威力を乗せて。
ドンッッッッッ!!!!
赤の軌跡を残しつつ、音の壁を突破する。
向かって来て居た銀髪イケメンは、衝撃波を喰らって、もんどりうって仰け反りながら縦方向に回転しつつ吹き飛ばされた。
今起こった事が理解できないのか、理解したくないのか、誰も彼もが口を開けてポカンとしている静寂の中、ただ一人、国王だけが笑い声をあげた。それはもう、楽しそうに。
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「な、な、な、何だそれは!! インチキだ!! イカサマに決まってる!!」
お、軍務卿が再起動したな。
いや、この状況でインチキとか言い始める方が理解不能なんだが?
そもそも、使用禁止だと言ったのはファティマやオファニムで、魔法なんかは禁止して無い。
そんな状況でインチキとかイカサマとか言い始めるって、なんで、そう言った事を想定して無いんだって話でもある。魔法だって、“本人の実力”だろうに。
もっとも、俺のコレは魔法じゃぁないんだがね。
「何を慌てておる軍務卿。貴様の言った通り、トールは自身の実力を示したぞ?」
「で、ですが陛下!! おそらくその小僧は何か小細工を!!」
「ほう? 例えばどの様な?」
国王にそう言われ、軍務卿は言葉に詰まる。
俺がどんなインチキをしたか分からなかったんだろうな。正解は『普通にパンチを撃った』だけど、そんなもんインチキでも何でもない。チートかもしれんが。
「き、きっと何かアーティファクトを隠し待って!!」
「それの何処が問題だ?」
「は?」
国王が大きく溜息を吐く。
「そもそもトールは冒険者だぞ? 騎士や兵士とは違う。その戦闘の方法なぞ、非人道的だったり禁呪でも使わぬ限り、本来は何の問題など無いはずだ。にも拘らず、卿等の流儀に態々合わせて指定の武器防具すら使わなかったというのに……そもそも、邪竜とニーズヘッグの2頭の竜を退治した事は紛れもない事実。それ故の授爵のハズで、戦い方なぞ本来問題にすらならない事なのだぞ?」
「し、しかしそれは……」
「この授爵には、外交的、政治的思惑も多いに絡んでいるのは卿も知っているであろう? それでも納得できぬと言うから、この場を設けたと言うのに……余は、充分、卿に譲歩したと思うが?」
政治的思惑があるとか本人の前で言うかね? まぁ、知ってたけど。
周囲の空気も『そうなの?』とか、『そうだよなぁ』みたいな物に。
「別に他の人間出してきても構わんよ? 何戦でも付き合ったる」
俺の言葉に軍務卿が目を剥く。
「ハッハッハ!! そう、虐めてやるなトールよ!! サルバドールはあれでも軍随一の槍の使い手ぞ!」
マジで? 俺が周囲を見回すと、集まっていた中の兵士らしき輩がサッと目を逸らす。
まぁ、俺の実力を測るって名目の為に用意した銀髪は、吹っ飛んだまま気絶中だしな。
これ以上は恥を上塗りするだけだと言う国王の言葉に、軍務卿がプルプルと震えていたかと思うと、何でか俺を睨んでから、そこから立ち去った。いや、何で俺が悪いみたいな雰囲気出すかね? 絡んで来たのそっちじゃん?
あ、後、ちゃんと銀髪持って帰れ。放置しておいてくなや。




