軍部所属で二枚目とか、噛ませ感ハンパない
……眼前の今日の相手だと紹介された銀髪イケメンを見て、俺は大きく溜め息を吐く。
銀色に輝く鎧と装飾華美な槍を携え、なんか髪を“ふぁさぁ”しながらドヤ顔で俺に指を突きつけて言った言葉に、ほとほと呆れてモノが言えんくなったわ。
いやホント、コイツ何言ってんだ? と。
呆れかえった俺の無反応さ加減に、言葉が聞こえてなかったのかと思ったのか、銀髪が再び同じ言葉を口にする。
「武器の優劣で、勝敗が決まってしまうのは公平では無いだろう? だから君はその鎧を使うのは禁止だよ。当然その武器もだ」
もう一度言う。コイツ、何言ってんだ?
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「彼が貴様の相手をしてくれる」そう言って軍務卿が指示した先、武闘台の中央には、やけにキラッキラッした青年がスタンバっていた。
周囲に愛想を振りまく様に手を振り、ウインクすれば、うら若き令嬢達が黄色い声を上げ、下手すりゃその場で崩れ落ちる。成程、あれが『嬉し死』と言うヤツか。
まぁ、良いが、え? あれが対戦相手? マジで? 何と言うか強者の雰囲気的な物なんかまったく感じんのじゃが?
もしかして完全に“気”をコントロールできているのか、もしくは変身を残してるタイプ?
いやいや、魔族の可能性も有るんだから油断はしないがね。アイツらの能力って、それを与えた邪神によって千差万別っぽいし。そう考えると、情欲に塗れたその目は、確かにゴモリーを彷彿とさせるな。
そう思って油断なく舞台へと上がる。
「ふっふっふっ、流石に冒険者風情と言えど、彼の事は知っている様だな」
俺の後ろで軍務卿がそう言う。いや、知らんけど? 俺が油断なく動いているのを見て、そう思ったっぽい。え? 何、有名人なの? この銀髪イケメン。
何か俺を凝視してやがるが、面識とか無いよな? うん。無かったハズだ。
「そう!! 彼こそがサルバドル公爵家の天才児!! アルフレド・サルバドル、その人だ!!」
軍務卿の紹介に、アルフレドとやらが“ふぁさぁ”して斜め45度のキメポーズ。『フッ』とかって鼻で笑いながら。何か背景に薔薇の花が見えるし。
知ってて当然ってな表情だがな、俺はおまいなんぞ知らん。
しかしまぁ、天才児とか言われる程の使い手って事か? 確かに、軍務卿よりは出来そうだけど……
やっぱり強者のオーラと言うか何と言うか、そう言った物を全く感じさせてくれない。もし、完全に制御できてるってのなら確かに大した物なんだが、漏れ出てるソレからは、何と言うか普通の人とあまり変わらない様な?
むしろグラスとかの方が強そうなんじゃが?
まぁ、良いか。
「ケルブ!! オファニム!!」
俺が叫ぶと、ケルブが展開しオファニムの胸部が開く。それに搭乗しようとしたその時だった。
「いや、それは公平ではないだろう」
「は?」
ソイツがそう言い出したのは。
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「聞いているよ? 君のそれがアーティファクトだと言う事は」
だから何だんねん。
「成程、古代文明の遺産と言うのは、大したものだと言わざるを得ない。だから君が、ソレに依存してしまう気持ちも、私には良く分かる!」
いや、本当に何言ってんだ? コイツ。
「だがね、今ここは、君の! 君自身の力を試す場なんだ!! だから、アーティファクトの様な偽りの力ではなく、君本人の力を見せなければならないんだよ!!」
『【殺意】殺っちゃって良いですか? マスター』
後でな。うん。自分の事を偽りの力とか言われたら、そら怒るわ。故に殺って良し。オファニムとケルブからも憤懣の感情が漂ってるしな。
と言うか、成程、コイツ等、魔人族国の建前上の発表と、俺が説明したカバーストーリーを鵜呑みにしたのか?
で、俺の戦闘力はアーティファクト頼みだと。
阿保かな?
沈黙している俺を図星をつかれて動揺していると思ったのか、アルフレド……だったよな? は、口の端を歪めて笑みを作ると、再び口を開いた。
「成程、確かに君は美しい容貌をしている! それは天性の物だと言って良いだろう!! その容姿ならば、隣国のお姫様のお気に入りに成るのも分かると言うものだ!! だが、そうやって権力に取り入り、与えられた力など、かりそめの物でしかない!! 君は今はアーティファクトによる万能感に酔っているだけなのだ!! だが、そんな物はただのまやかしの力に過ぎない!! このままだと取り返しのつかない事にもなりかねないのだよ!!」
ああ、『劇場型何とか』とかそう言ったタイプの人間か。耳障りの良い大衆受けする様な文言と分かり易い理屈。
いわゆる、声の大きいってタイプの人間。
だが、このタイミングで、俺を貶める様な事をするってのに何の意味が有るんだ?
チラッと見れば軍務卿はなんか嫌らしく笑みを浮かべているし、セルヴィス伯父さんは眉根を顰めてる。
多分、自分達の影響力を大きくしたいんだろうが、ちょっと裏が読めん。後でルールールーに調べて貰おう。
と言うか、『美しい』なんざ初めて言われたわ!! 何かアルフレドとやらのネットリとした視線も相まって鳥肌がががっっ!!
「成程、優れた道具や、優秀な同行者と肩を並べての討伐!! それが君を勘違いさせてしまったのだろう」
同行者? ……あ! そう言や、竜退治をした時、どっちもバフォメットが居やがったじゃねえか!! そう言えばアイツの表の姿、S級冒険者やん!! そうか、こいつら、ドラゴンスレイヤーまで出来たのはアイツのおかげとか思ってるのか!! いや、確かにアイツが居なけりゃ無理だったかもしれんが、つまり、俺のやった竜退治はお膳立てしてあった物で、そのお膳立てをしたのが、エリスや国王だと思ってるんか!!
「故に君は、君の本当の力を知らねばならない!! 本当に自分の力を知ってこそ、やっと、自分自身と向き合えるのだから!! 君の様なまだ幼い子供と対峙しなければならない事は、私としても心苦しい事だ!! だが、これは必要な痛みでもある!! いわば、躾の様なものだ!! だが、心配する事は無い!! 今、この時、私が君の閉じた眼を見開かせてあげよう!! そして導いてあげよう!! きっと後々君は私達に感謝するはずだ!! 『有難う!!』と!!!!」
その上でこいつら、俺から古代文明の遺産を取り上げ、国王派の力を削ぐ為に俺を取り込もうとか思ってやがるのか!!
確かにドラゴンスレイヤーなんて話題、大衆受けする事間違いない。ってか、俺も、冒険者や商人連中が、その話題で盛り上がっている所を何度も目にしてる。
何せ、その話題が出た直後に、俺の偽物とか出た位だからな……あれ? なんでだろう。あの時の事を思い出したら、ちょっと目頭が熱く……
まぁ、良い。コイツ等の思惑なんざどうでも良い。人をこんな政治的思惑で動かそうとかふざけんじゃねぇ!!
そうかい、俺の力が見たいって? なんなら見せてやんよ!! キッチリ、シッカリ、骨の髄までもな!!!!




