つまらない政治の話し
何と言うか、自分としては『都市造りを受注した建築業者』位の認識になってたんだが、そう言えば俺が領主って事に成るんだよな。
要は領地運営も俺の仕事って話で。そうなると、今までとはまた違った活動に成るって事か。さすがに領地経営のノウハウとかないんじゃが、そっち方面に詳しい人材を引っ張って来なきゃいけんか?
ただなぁ、国王から紹介して貰うって訳にゃ行かんしな。それだと王家直轄地で代官が派遣されてるのと何が違うんだって話だし、態々税金納めんでも良い様に取り計らってくれた国王の思惑を潰しかねない。
多分、これは国王個人の厚意であって国の方針って訳じゃないと思うしな。
流石に派遣する代官も国王の意志を汲んだ者って訳にゃいかんだろ。たぶん俺に反発する様な貴族からの横槍が入るだろうし、そう成ればその貴族連中の派閥とまではいかなくとも、中立に近い立場の人間が派遣されてくるだろうし、そう言った人間が、国王の意志を汲んで俺を優遇するかって言われれば、疑問が残る。
かと言って、他の、例えば魔人族国の方の伝手を頼ると、それこそ『他国の人間を引き入れた』とか言われかねんのがな。
個人の思想は兎も角、周囲からはそう言った色眼鏡が付いた見方をされちまうのはどうしみようもない。
さて、中立な立場で、俺の考えに賛同してくれそうな都市とまでは行かなくても町や村の運営に関わった経験のある人材か……って、いるじゃん。
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「は? オレが、ですか?」
呼び出したグレッソチューンは、どちらかと言えば困惑した様子で俺を見た。
「うん、俺じゃ、細かいノウハウとか分からんし、だからと言って、あんま余所から引っ張って来れんだろ?」
「理屈は分かりますが……」
褐色の肌の偉丈夫。見上げる様な長身とガッシリとした体躯は、成程長年コボルトの代表を務めていただけはあると言う貫禄を感じさせる。
どちらかと言えば強面ともとれる精悍な容貌が、今は眉根を寄せている事で、さらに迫力が増している訳だが。
グレッソチューンが即答できない理由も分かる。彼は一度“やり方を間違った”と思っているからだ。
あの時、俺を始末して一族の平穏をを永らえ様とした事ではなく、古いやり方に固執するあまり、一族に停滞をもたらしていた事に対して、だ。
今、グレッソチューンは、俺の前で褐色の肌を晒している。これは、ファンデーションで肌色を誤魔化しているって訳じゃなく、特訓して、能力を制御する事によって、コボルトの特徴であった青い肌を抑えているからだ。
全くゼロ同然だった所から始めてのコイツの努力は、俺が一番分かっている。
成果を出すタイミングこそ、ティネッツエちゃんに及ばなかったが、それでも結果としてグレッソチューンは成し遂げた。
そして今、他のコボルト達にその指導ができると言うのも、コイツが悩み抜いて苦労して制御方法を会得したからこそだと、俺は思う。
あの時、自分の至らなさに泣いてなお、新しい環境への変化に挑んだ男だからこそ、俺はグレッソチューンに任せたいと思ったんだ。
「少なくとも俺は、お前に任せたいと思ってる。それだけじゃダメか?」
「は! いえ、そんな事は……本当にオジキはオレに?」
狼狽したグレッソチューンに少し苦笑いをする。
「さっきから、そう言ってる」
俺がそう言うと、グレッソチューンがブワリッと滂沱の涙を流した。いや、どうしたグレッソチューン!!
「オジキが、オジキがそこまでオレを買ってくれているとはっ!! 分かりました!! 不肖このグレッソチューン。オジキの期待に応える為、全力を尽くします!!!!」
「お、おう、あんまり気負わんようにな」
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コボルトの一族は、幾つかの氏族に分かれていて、それぞれの氏族の代表が集まり、合議制で、全体の方向性を決めていたらしい。
とは言っても、やっぱり力の強い代表の発言力が強かったらしいがな。
ただ、代表が集まっての合議制と言うのは、前世の民主主義にも近いから俺にも分かり易い。ただね、民主主義がこの世界に合致するかと言えば、そうでもないと思うんよ。あれって、あくまで国民全員が同程度の教育や知識があってこその制度だし、その上で、代表に選ばれた者が全国民が平等に富を持てる様に尽力するって意識がないと破綻する制度だからな。
一部代表が富を独占しようと談合とか始めたら、あっと言う間に崩壊するし、無知な人間が理想だけ掲げても今度は停滞して物事が進まなくなる。
教育と公平さ、この場合は道徳性で良いんだが、が無いと破綻し易い、まぁ高い文化性が求められる制度で、未だ封建制が根強く、教育格差が激しい世界だと、厳しいと言わざるを得ない。
せめて、子供が親の仕事を手伝って労働しなくても平気って位に、その集団の地力が上がってないと無理だな。
「まぁ、今の所、ある程度の集団に分けて、その代表が集まっての合議制。その決済を俺がするって形が妥当か?」
「その辺りが落としどころでしょうね」
「そう、なるか」
だとすると、取り敢えずコボルトとドワーフの中から代表を出して貰わんとな。
「その辺、大丈夫か? 少なくともコボルトからは、グレッソチューン以外の代表が別に必要なんだが」
「任せてください。オレに良い考えが有ります」
いやちょっと、ソレ、フラグなんだが?




