アホロートルとかメキシコサラマンダーって知ってる?
「……いや、何だこれ?」
「ん?」
「わん! わんわんわんわん!!!!」
「むう……」
ちょっと呆けちまったが、こんなん見れば誰だってそう成ると思うんじゃよ。一緒に来たイブもも何だこれって感じで見てし、今回は絶対留守番はいやだと駄々こねて俺について来たバラキも隣で激しく吠えてるし、何時もの通りいつの間にかいたラミアーも鼻を押さえて顔を顰めていらっしゃる。
俺の目の前には全高3mほどもあるサンショウウオの様な生き物。特有の山椒っぽい匂いも周囲に漂ってる事を考えるとサンショウウオっぽいじゃなくて、でっかいサンショウウオかもしんない。
バラキはこの匂い苦手っぽいな。ちょっと鳴き声に悲壮感入ってるわ。ラミアーが鼻を押さえているのも同じ理由だろう。
いや、でっかいだけの生物っちゃあ、魔物連中は大概そうだったんだけんどもよ。
ぬらぬらとした体表を持つソレが、ドッタンバッタンとのたうちながら、時折大きく口をパクつかせ、口ん中に入った妖虫種をボリボリと食べている。これ、どこのダイナソー?
『【瞠目】種族名【サラマンダー】ですね。こうして現界してるのは初めて見ます』
「これがサラマンダーですか、まさか、生きている内にお目に掛れるとは思いませんでした」
知っているのか!! ファティマ!! ルールールー!!
……うん、サンショウウオなんだからサラマンダーだろうさ。え? コイツもしかして、やっぱでっかいだけの両生類なん? そう言や角もないし。
『【訂正】これは精霊の一種デス。召喚もされずに精霊界から出てきているのはとってもレアなのデス』
そっかぁ、精霊かぁ……え? 精霊って、あの精霊? 四大元素のあれ? ……あーうん、まぁ良いや。で? そんなんが何でここに居るん? 召喚された訳じゃないなら自然発生なん?
いや、別に出てくる分には構わんのよ。だがね、何十匹も群れ成してウロウロされるのはひどく邪魔なんじゃが!? それも街道通そうって場所にだよ!!
うん、俺等、今街道を通すって事で、その下見に来てるんよ。どうせなら一直線の方が良いんだが、高低差が有る場所だと左右に道を振らんと馬車とか上り下りできんじゃん? ちょっとした小山だったり谷だったりなら、トンネル掘ったり谷埋めたりできるから、そう言った場所とかの選定も兼ねてさ。
で、そうやって大森林内を移動してたら、コレに行き当たったってえ訳だ。
取り敢えず、コイツ等潰してしまっても構わんのか? てか、よっぽど不快なのか、バラキとラミアーに至っては既に臨戦態勢。
『【懸念】精霊は空間的【魔力渦】と密接な関係が有りますので、退治してしまうと、問題が出てしまう恐れが有ります。マスター』
え? 倒しちゃいけないん? 良し! バラキ、ラミアー、ステイだ!!
俺の制止に、二人が渋々従ってくれる。後でモフモフフルコースとプラーナ注入フルコースをやったげるから、今は大人しくしててください。
攻撃NGねぇ。ならどうすんの? これ。俺の隣でイブも首をかしげている。だよね。今ん所、迷惑以外何物でもないもんなコイツ等。
『【説明】普通は放置して置くのデス。しばらくすれば精霊界に戻るのデス』
「成程。上位精霊として有名なサラマンダーですから、現界しているのにもタイムリミットが存在する……と言う事ですか」
『【訂正】その辺は残念ながら“良く分かってない”のデス。個体名【ルールールー】』
「そう、なんですか?」
「?」
ジャンヌの言葉に首をかしげるルールールーとイブ。そう言や、珍しいとか言ってたもんな。
古代文明でもまだ生態は完全に解明されてなかったって事か。
うん? 生態で良いんだよな。
まぁ、扱いとしては自然災害と同じ様なもんなんだろうな。だが、魔力渦ってえのと関係っが有るって事なら、放置しとくと、また出てくるって事なんじゃ? いや、そう言や、魔力渦って何じゃらほい?
『【解説】【魔力渦】と言うのは空間に溜まった属性魔力の事デス。空気中には様々な魔力が満ちているのデス。それは、空気中を揺蕩う内に、同じ属性同士で引かれ合い固まっていると考えられているデス。そう言った魔力過多なスポットを【魔力渦】と呼ぶデス』
「もしくは“魔力の澱み”等と言われる事も有ります。何故か魔物が多く生息していますので」
ああ、魔力渦自体は、自然発生的に生まれるもんなんな。ってか澱み?
『【肯定】そう言った【魔力渦】では、条件を満たした生物が魔物へと“進化”する現象が見られます。ですので、必然魔物の数が多く成るのでしょう』
『【追加】そう言った【魔力渦】周辺ではこうして上位精霊が良く目撃されるのデス、なので、精霊も【魔力渦】を使って上位精霊へと“進化”するのだと思われているのデス!!』
〇〇モンかな?
『【追従】そうですね。ただし、そうして上位精霊が去った後は【魔力渦】の消滅も観測されていますので、普通は放置しておきます。マスター』
成程、魔物の発生原因でもある魔力渦を消滅させてくれるから、一時的に荒らされても放置しといた方が良いって事か。
ん? 魔物ってのは魔力渦以外では増えんのか?
『【残念】進化した後は、普通に繁殖して増える事が出来るので、要は魔物の個体数を『より増やさない為』ですね』
さよか。
……この所、魔物の分布が変わったり、妖虫種増えてる原因って、魔力渦の所為じゃね?
『【同意】その可能性はあります』
何だろね。筋力さえあれば倒せるって訳じゃない不死の魔物やら、迷惑でも倒しちゃいけない精霊やら、力だけあっても問題が解決しない事が増えてる気がするわ。この世界、それほど単純に出来てないってぇ事かね?
「なに、じゃぁ、居なくなるまで待ってんとあかんの?」
『【肯定】そう成ります』
まぁ、焦る様な作業じゃないんじゃが、邪魔とか思うとやっぱり邪魔なんよな。あと、バラキとラミアー、コイツの匂い苦手っぽいし。ほら、二人して引っ付いて俺の匂いを嗅ぎ始めたし。
いや、イブさんや、対抗してチミも嗅ぎ始めなくても良いからな?




