モンスターをハントする系
「アハハハハハハハ!! まるで虫けらの様じゃぁないかぁ!!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわ」
「ギャギャ!!」
「ギャギャギャ!」
「ギョホ! ギョホホ!!」
「ギャホッホ! ギャホゥ!!」
「アウン!!」
「ワオンワオン!!」
「グルル!! アオーーーーン!!」
「バウバウ!!」
「ガウーーーン!!」
逃げ惑う角猿をミカが追い立て、ウリが翻弄し、セアルティが回り込み、ガブリが逃げ道を塞ぎ、バラキが蹴散らす。
俺はと言えば、新しく作った石斧を振り回しながら、目に付いた角猿を叩き伏せていた。
角猿を相手にしながら蹂躙する俺達を見て、オスローが驚愕で慌てふためいている。ドン引きしているとも言うがな。
角猿は、だいたい3、4匹で1グループを作ってウロウロしているが、‟群れ”の方は、それが4、5グループ程集まって出来ている為、12~20匹くらいの数が居る訳だ。
今回、俺達が襲撃したのは15匹の角猿の居る群れだったので、中規模と言った所だろう。
オスローは今5歳で、キャルは3歳だとか。妹ちゃん、イブと同い年か。その割には、今朝も朝市で調味料を値切ったりしていて、イブより世間慣れしてる感じだったけど。これが環境による教育の格差と言うヤツか?
さて、何で俺達がこんな事をしているかと言えば、ざっくり言えば金策の為だ。
オスロー君5歳。俺が冒険者ギルドに忍び込んで収集した情報によれば、一応、準冒険者として登録できる年齢である。
冒険者の息子の割には、なぜ、そんな事も知らなかったのかと言う思いはあるが、もしかしたらご両親としては、子供達には安定した生活を送って貰いたかったのかもしれない。
冒険者の中には、一旦、平穏な生活を選択しても、また戻って来るヤツが少なくないらしい。刺激的な生活が忘れられない、冒険者ジャンキーってやつだな。
たぶんオスロー達の両親も、そんな感じだったんだろう。
自分達の様には成って欲しくないと言う、両親の願いが聞こえる様だ。
だが、生きる為には親兄妹でも使うのがストリートチルドレン。とっとと登録をして貰い、金を稼ぐとです。
今までは、イブが屋台のおばちゃんとかの手伝いを魔法でやって、それで貰ったお駄賃位しか収入がなかったしな!
お、俺はほらミカ達と狩とかして、肉を獲ってたし(振るえ声)。
準冒険者である子供が、大量の素材を持ち込むと問題になるだろう。だが、「知り合いのオッサンに売って来てくれと頼まれた」のなら、それ程問題はない……ハズだ。
と言う訳で、今の俺は酒代欲しさに素材を狩る猟師のオッサンな訳だ。
森の中であり、近くには家族しかいないと言う状況な訳で、俺は身体能力向上+アドアップを駆使して角猿を狩っている。アドアップを覚える前でも狩り方は確立していた相手ではあるが、今はほぼ無双状態だ。
角猿を見つけた時に顔を青くしていたオスローだったが、群れを見付けた時にはさらに顔色を悪くしていた。だが今は、それの蹂躙劇を見て、目を白黒させている。
まあ、無理も無かろう、普通に生きて居たら魔物と遭遇する事なんて余り無いんだからな。
いや、両親が冒険者をしていたんだ。少しぐらい見てるのか? なら、むしろ普通の人達よりは魔物の怖さは分かって居るのか? だからこその反応なのかもな。
一方的な蹂躙を終え、血抜きの為に死骸を木に吊るす。
「な、なな、なん、何でっ……っっ」
「落ち着け、ゆっくり喋れ」
青くなったり赤くなったりなオスローを落ち着かせる。
「何で、そんな力がって言うか、こんなに簡単にゴブリンを」
「は? ゴブリン?」
何やら聞きなれたファンタジーワードに思わず手が止まる。
ゴブリン? え? これ、ゴブリンなの? 吊るそうとしてロープで足を縛った角猿を見ながら首を傾げた。
毛皮がギリースーツの様な緑色の、角の生えただけの猿。
ほとんど野生動物にしか見えないこれが、そんなファンタジー生物だったの?
そうなると、討伐部位とか持って行けば、それだけでお金になるって事? あ、ダメだ。それだとオスローが悪目立ちする。
やっぱり、当初の予定通り毛皮にして卸す事にしよう。少し勿体無いけど。
「お、おい! 答えろ!!」
「あ?」
「ひっ!」
考え事を中断された俺が、片眉を上げながらオスローを見ると、彼は怯えた表情でビクリと肩を跳ね上げた。
いかんいかん、いい大人がこんな子供を怯えさせてどうする。って、今は俺の方が年下だったわ。
たぶん、オスローが言ってるのは、今の赤く染まった俺の事だろう。強いて言えばデ〇トロイモード? いや、ト〇ンザムの方が近いか? 違うか。そうか、残念だ。
身体能力向上とは言っているが、そう言えば正式名称なんて知らないな。
「……俺のユニークスキルだ」
「は? ユニ……え?」
ありゃ、通じなかったか。これはあれか? ゲームみたいな世界じゃ無いからか?
……ステータスオープン!! うん、何んも出ない。まぁ良いか。
「……そう言う、秘伝の技術だ」
「秘伝の?」
どうやら、そっちなら理解出来るらしい。
「そ、一子相伝の秘伝技だ」
「……」
嘘だがな。だが、教えられないのは確かだ。多分、魔力操作の産物ではあるが、身体能力向上については、気が付いたら出来てたってか、イブに言われなけりゃ、自分がそんな事をしてるなんて分からなかったし、アドアップについては、身体能力向上をしてなきゃ危なくて使えない技だ。
俺は身体能力向上をしている状態の方が普通で、それを解いている時の方が特殊な状態なので、「どうやったら出来るか」って聞かれても、正直困る。
強いて言うなら『魔力庫』に送るのをやめれば良いって事に成るんだろうが、それで普通の人が、俺と同じ状態に成るかは分からない。
少なくともイブは出来なかった。
てか、やったとたんにエライ感じで魔力が身体から噴き出したんだけど!? 何なのあの子。魔力のモンスターかなんかなの!?
イブ的には、俺と同じ事をしたかったらしく、できなかった事で随分項垂れていたけどな。
「まあ、気にするな、お前を鍛えるのは決定事項だ」
「本当か!?」
「当たり前だ。お前には一人で狩りができる様に成って貰わなけりゃいけないしな」
俺の言葉にオスローは嬉しそうにガッツポーズをする。
あの街で、どんな目に遭ってきたかは俺には分からない。だが、強くは成りたいんだろう事は伝わってきたよ。




