今週もお仕事お仕事
何か、ファティマを全力で振り切るのも久々な感じがするな。赤い軌跡を残しながら次々に木々を切り倒し、数分も掛からず国境線迄の4km程が倒れた樹木で埋まった。
『【狼狽】自然破壊!!』
『【唖然】いやいや、流石だね個体名【トール】』
「オヌシ様を見ていると、『常識とは何ぞや』と言う疑問が湧くのじゃ」
うん。ちょっとすっきりした。ここん所、色々あって結構ストレスが溜まってたっぽいな。
ともあれ木材大量ゲットだぜ!! いや、充分過ぎる程に確保してあったんだがね。勢いでやった。後悔はしていない。
てか……
「材木とか要る? 今なら格安で譲れるが」
「要るのじゃ!!」
俺の提案に、エリスは笑みを浮かべながらそう答えた。
******
国境線とは言っても、厳密にここからここまでって決まってるって物でも無い。大体この辺りかなぁって所があるだけなんな。特に、こんな森の中で、実質入り込める奴がいない場所なんかはな。
俺達なんかは割とキャンプ感覚で奥深くまで足延ばしてるけど、普通の冒険者は結構な準備をして、複数のパーティーでアライアンスを組んで『遠征』なんて名目で入って行く場所な訳で。
オスローやジョンなんかが依頼で入っている場所なんかは大森林の浅い所も浅い所たし、『新緑の調』の連中が依頼で入る場所は、それよりは深いけど、今、俺達が居る場所からすれば、まだまだ表付近と言った場所な訳なんよね。
だからこそ、魔物との遭遇もそれ程多くはない。オスロー達なんかだと2日に1回でも多い位だし、『新緑の調』でも1日1回あるかないか位か。
それに比べると奥の方は2、3時間に1回ペースだし、妖虫種に至っては分単位で遭遇する。要は、それ程に危険度が違うって話だ。
ただ、魔物にしたって動物にしたって、別に自ら危険な場所に足を踏み入れようとする訳ではない。
それは、 より強い魔物が来たり出たりした時に、生息地の分布が変わる事からでも分かる。駆逐されたくないから逃げるって事だからな。
だからこそ開墾は、森を切り開いたからそれでオッケーって訳じゃない。『ここは危険だぞ』『ここに近付くのは危ないぞ』って示してやらないといけない訳だな。
ましてや、これから森の外まで通じる道も作らにゃあかんしな。安全の確保できない道とか、誰も通らんわ。
せっせと間引きをするとです。
まぁ、それはそれとして、取り敢えずは水源の確保だ。
「エリスん所は、水源ってどうするんだ?」
「うぬ、井戸を掘ろうと思っておる。どの道、砦と、その周辺街位でしか使わんのじゃ」
ああ、そう言う街作りか。こっちみたいに、大量に入植とか考えてないんな。なら、競合はしなさそうだな。
取り敢えず、切り倒した樹木を片隅に纏めると、イブ達に頼んで下草を伐採して貰った。
「道をどうするかは、お互いの街が決まった後で構わんよな?」
「うぬ、交易は兎も角、不可侵と言う事が分かれば構わん。おそらく砦はそちらの街から買い付ける事に成りそうなのじゃ」
「それで良いのか?」
「うぬ!」
買い付けをこっちの街でするって事は、そのまま食料を押さえられてしまう危険があるって事でもある。
当然だが、そう成れば行軍もままならない状況になるって事なんだがね。
ある意味、絶対に敵対しないって意思表示って訳だな。
まぁ、それに関しちゃ、こっちも内通を疑われかねないんで、上手くやるしかない。
お互いに民間業者を間に挟むとかな。それでもかなりグレーゾーンではあるんだが。
ぶっちゃけこれに関しちゃ、魔人族国とうちの国が同盟でも組んでくれれば、多少は解消できる問題なんだがな。
******
エリス達は砦の測量の監督があるって事なんで、俺達も自分の仕事に戻る。
まぁ、エリス本人は、こっちに合流したいとダダを捏ねてたんだが、視察するって名目で来てんだから、最低限は仕事しとけって話なんだわ。
森ん中をあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。ゴブリンを殲滅しオークを狩り倒し、オーガを殴り倒す事暫く。
「おお、結構でっかいな」
「アオン?」
「オンオン!」
「向こう岸まで5、600mはありそうですね」
ついに水源となる川を見つけたのだ。




