アクトクショウニン ニ カラマレタ
「貴様らが遅かったせいで荷物が全滅してしまったのだ!! 責任を取って、弁償しろ!!」
何その超理論!?
ギャラハンはニヤニヤとしていて、その仲間達は困惑した表情をしてはいるが、止めるつもりはないらしく、固まって視線を外していた。
まぁ、飛び火して自分等の所に来られても困るだろうしな。
と、言っても、現在進行形で俺等ん所に飛び火してる訳なんだが。
この商会長の剣幕に、何事かとイブ達が顔を出す。ん? 何固まってんだ? このオヤジ。
なんか欲にまみれた視線でジロジロと見ていたかと思うとニヤリと笑みを作った。
「どうせ、キサマみたいな貧乏冒険者に金など無いだろう。相応のモノさえ渡せば、許さんでも無いぞ?」
「な、何を言っているんですか!!」
「キサマは黙ってろ!! ワシは、その小僧と話しておるのだ!!」
思わず口を出したルールールーに、禿頭でデップリと肥えた商会長らしき男……まぁ、豚会長で良いか。が、声を荒げる。
何だかな。黒鎧を着込んでいるって言っても、それでも12、3才程度の体格だからな、少し舐められてるんかもしれん。
「知らん、運が悪かったな」
「な!!」
いや、そうとしか言えんだろ。むしろ命だけは助かったんだから、良しとしとけやって話だ。
「キサマ!! 責任感って物は無いのか!! キサマ等のせいで荷物が駄目になったんだぞ!!」
「そうだな、あんた等が【エクスプロージョン】なんて高威力な魔法を放たなけりゃ、無事な荷物だってあったかもしれないんだ」
豚会長にギャラハンが追従する。いや、使った魔法【エクスプロージョン】じゃねぇし、そもそも守れなかった自分達を問題にしろや。
「そうだ!! キサマ等のせいだ!!」
「どこが?」
「な! だから!!」
だからも何も、襲われたのは単なる不運で、守れなかったのは力不足でしかない。
それをこっちに責任だ何だと言われても、筋違いだ。
『【嘆息】責任転嫁もここに極まれり、ですね』
全くだ。
「お前らは、襲われたときに周囲の誰かに助けを求めたのか? そもそも戦力として、充分な人員を集めたのか? 街道の異変とかの情報を集めたのか? もし、馬車が転倒したとして、平気な様に梱包をしてたのか? 魔物が出現するかもしれないと考えなかったのか? たとえ魔物じゃなかったとして、盗賊が現れる可能性は? 橋が落ちるかもしれない可能性は?」
矢継早に質問すると、目を白黒させて口ごもる豚会長。
こう言う輩の考える事とか、言い出す事なんて、だいたいテンプレだよね。
「次にお前は『訳の分からん事を言って、煙に巻く気か!!』と言う」
「訳の分からん事を言って、煙に巻く気か!! っな!!」
「!!」
『【驚愕】ついに、未来予知まで!! マスター!!』
『【驚嘆】凄いです!! オーナー!!』
「ついに、読心術まで!!」
「なかーま」
いや、テンプレってだけだよ? って、ラミアー【念話】か【予知能力】が使えるんか!? その方が驚きなんじゃが!!
慌てて彼女の方を見ると、ニマーと笑みを作った。どっちだ? 有るのか、それともブラフか……
いや、それは後にしよう。
「煙に巻いちゃ居ねぇよ。商人だったら想像力働かせろやって話だよ。リスク管理は上に立つ者としての当然の行いだろうがね」
「うるさいうるさい!! 兎に角、キサマがワシに損害を作ったのだ!! 弁償するのが当たり前だ!!」
豚会長が吠えよる。
面倒くせぇな。こういう輩って、他人に勝手に借りおっかぶせて、その上自分が被害者面するから厄介なんだよな。
「阿保か。自分の力不足を他人のせいにすんなや、むしろお前が矛先を向けんとあかんのは、不甲斐ない護衛の方だろうが」
俺のその言葉に、まるで無関係の様にやり取りを見てた『栄光の絆』のメンバーが目を剥く。
何で意外そうな顔してるんだ? むしろお前らが当事者だろうが。
「か、会長!! こういう口ばっかり達者なガキは、ちょっと世間の厳しさって奴をおしえてやらねぇといけないんじゃねぇかな!!」
「ん? そ、そうだな!! 大人を馬鹿にするような子供は躾が必要だ!!」
いや、何言ってんの? むしろこの理不尽劇場に付き合ってやってるだけありがたいと思って欲しいんじゃが?
俺の困惑など知らんとばかりに、後ろで見ていたメンバーも、ヤレヤレだぜって感じにこっちと向き合う。
何だよ、結局ズブズブなんじゃねぇか。
「さぁ、最終警告だ。大人しく言う事を聞くんだなⅮ級」
「そうじゃ!! そのゴーレムと女の子共さえ置いて行けば、お前の命だけは……」
ゴッ!
短い音だけ残して豚会長が吹っ飛ぶ。あ? お前、なんつった?
「テ、テメェ!!」
いつの間にか自分の後ろに移動していた俺に目を白黒させながらも、剣を構えたギャラハンだったが、俺は、剣諸共に拳をぶち込んだ。
残ったのは、折れた剣と血をはいて前のめりに倒れるギャラハン。
『栄光の絆』の斥候と思しき男が「なっ!」と声を上げ、腰の短剣を抜こうとするが、その前に首筋にピタリ、と刃が宛がわれた。
「動かない事をお勧めしますよ?」
流石ルールールー、本職は一味違うわ。
「くっ!! エルート・マニデルファ・ゼローム・……」
『【落胆】どうして悠長に呪文なんて唱えられると思ってるデス?』
「ん!」
総計100本の炎の槍に囲まれた魔法使いの男は「ひっ」と小さく漏らすと、そのまま腰を抜かす。
周囲を見れば、他の護衛についていた冒険者は、犬達に唸られ、蒼白に成って手を上げている所だった。それでも武器を構えようとしたヤツは、容赦なくその手を噛み砕かれている。
まぁ、大規模な護衛依頼だってんなら、『栄光の絆』だけで受けてたって訳じゃないだろうからな、別にあいつらに義理立てする理由なんて無いだろうが。降参するのが遅すぎる。
どうも『栄光の絆』の連中、こういった事をやり慣れてる感があったから、豚会長に言われてこんな事を繰り返してたっぽいよな。
他の連中もそれは見てたんだろうに。依頼主って事で文句も良い辛かっただろうし、多分似た様な感じで言いがかりを付けられたりしたせいで被害を被った事もあるんだろう。
そのせいで余計に意見なんぞ出せなく成ってたんだろうが、それでも見逃してた時点で同罪だと思うがな。
取り敢えず、気を失ってる豚会長の襟首を掴んで持ち上げる。
多分、失った商品の代わりに、美術品としても売り買いされるゴーレムと、美少女と言えるイブやラミアーを手に入れ、補填に使いたかったんだろうけどよ。
それは、超えちゃぁいけない一線だろうが、なぁ?
俺は、残ってた冒険者にソレを投げ渡すと、「次ソイツ見かけたら潰すって言っとけや」と言い渡して、皆の所に戻った。
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「あれで良かったのですか?」
ルールールーが俺に訊ねる。
「口に出しただけだと、言った言わないで面倒なだけだけんどもよ、だからって口封じも違うだろ?」
「まぁ、そうなんですが……ただ、ああ言う輩はのど元過ぎれば……」
俺は嘆息する。
「まぁね、そんときゃ、確実に磨り潰す」
社会的にも精神的にも肉体的にも……な。
そんな事を考えてた俺の表情を見て、ルールールーがブルリと身を震わせた。
『【悲嘆】活躍、できませんでしたっ』
あ、うん。殴りで行っちゃったからね。
『【自慢】ボクは活躍できたデス! これで序列も上がるデス!!』
『【反論】こ、今回は偶々です!! マスターはちゃんと私を使ってくれます!!』
チラッと俺を見てそう言うファティマ。うん。普段ならちゃんと使ってたよ? けど今回はちょっと考える前に手が出ちゃったと言うか何と言うか……
『【優越】でも、今回は使って貰えなかった』
『【悔恨】クッ』
と、なんかラミアーがニンマリとしてファティマの肩にポンっと手を置いた。
「なかーま!」
『【無念】グフッ!!』
いや、確かにラミアーも何もしなかったが、だからと言ってファティマに追い打ち掛けんなや。




